猫と手柄
翌日、
「おおっ‼ 見つけたのか‼ でかしたぞ‼」
大坂城表御殿御対面所にて、上様は上機嫌で手に入れた刀を見ている。
「これが、数珠丸恒次か……」
柄に数珠が巻き付いている太刀を嬉しそうに手にしている。
「何事もなく見つかったのだな。良かった良かった」
「ニャハハハ……」
前、何があったのかは言わない。絶対に言わない。
そして、上様は二振りの刀を持って、
「では、お主らには、義元左文字と薬研藤四郎を——」
「父上。私は刀が欲しくて、手に入れたのではありません。全ては父上の為です」
八郎は恭しく頭を下げた。
「いらないのか? 名刀だぞ」
「本当に父上の為です。私は父上の喜ぶ顔が見たいだけなのです」
八郎の言葉を言葉を聞いた上様は少し考えてから、
「そうか。ならば、数珠丸恒次はやろう!」
「えっ?」
今何と、おっしゃいましたか?
「不服か? では、手に入れた刀は全てやろう‼」
それを聞いた八郎は驚いて、
「そ、そんな! 父上‼ 私はその為に——」
「八郎。八朗が余の為に手に入れる。その心が嬉しいのじゃ。つくづく、お主が子で良かった」
「ですが、父上……私は——」
「この刀は全てやろう。それが余の心遣いじゃ」
「父上……」
「八郎」
オレも八郎の顔を見つめた。少し経つと、八郎は真剣な眼差しで、
「分かりました。では、全て頂きます」
恭しく頭を下げたので、オレやエリンギも頭を下げた。
「うむ」
その時の上様の顔は優しく笑っていた。
その後、二人と一匹で、
「でもさ、これがどんな刀か分からないよな」
「そうだな。羽柴殿に聞いてみよう」
オレは孫七郎さんの屋敷に行った。
「猫と宇喜多殿か? どうした?」
羽柴秀次、オレは孫七郎さんと呼んでる天パで眠たそうな目の文学青年風の男性がオレ達を見ている。
「ああ、孫七郎さん。刀を持って来たんですけど……」
「刀!」
孫七郎さんは大きく目を見開いて、オレ達が持っている刀を凝視した。
「また賊が盗んだ刀か⁉」
「ああ、そうです。それで、孫七郎さんに是非、見てもらおうかと……」
孫七郎さんは八郎が持っている数珠丸恒次を受け取り、
「これは、数珠丸恒次だよな……盗まれた」
「あっ、そうです」
「……くれ」
小声でボソッと呟いたが、八郎は、
「申し訳ない。数珠丸恒次は渡せないのだ」
「…………」
落ち込んでる。分かりやすいくらい落ち込んでいるよ。孫七郎さん。
「その代わり、他の刀を鑑定して、興味がある物は全てあげよう」
「そうか。ならば鑑定しよう」
元気になった孫七郎さんから、オレ達は刀を取ろうとしたが、
「孫七郎さん。右手の数珠丸恒次、離せませんか?」
「無理だ。数珠丸恒次が手から離れないのだ」
「離してもらいますよ」
オレは孫七郎さんから数珠丸恒次を取り返し、その他の刀を渡した。
「どうぞ。これは受け取ってください」
オレが持っていた刀を孫七郎さんに全部渡した。……ん? 全部?
「ふにゃ~……」
そうだ。まだ一振りあった。エリンギが背中に背負っている大太刀が。
「エリンギ。大太刀は?」
「ふぎゃああああああ(対南蛮かぶれ用だぞ)‼」
「知るか‼」
オレがエリンギの大太刀を奪い取り、それを受け取った孫七郎さんは、
「ん? これは……柄も鞘もボロボロだな。……しかも、抜けないぞ。これ」
「そうなんですよ。実は、あの盗賊達の盗んだ物の中にあったんですけど、何故か、これだけ錆びてて……」
「ああ、確かに錆びて抜けないな。これ」
「孫七郎さんはどうします? この大太刀」
孫七郎さんは大太刀を見ながら、
「うーん。……もしかしたら、この大太刀、名刀かもな」
「名刀なんですか?」
「ああ、分からないが、俺の勘で名刀かもしれないだけだが」
「勘で、ですか?」
「そうだ。今の段階では勘の領域だが、これから調べてみれば名刀かもな」
「では、もし、名刀ならば」
「どんな名刀か分かれば、俺にくれないか? その分の金はやる」
「ふにゃあああああ‼」
エリンギ、現金だな。さっきまで弥九郎さん用だったのに。
「まあ、分かったら、俺の方から教える。猫、それまで待っていてくれ」
「分かりました」
「ふにゃあああん(現金、現金)‼」
「エリンギ、あのな」
孫七郎さんの屋敷を出て、オレは八郎と話していた。
「あの大太刀、どの様な物なのだろうか?」
「さあな。分かるまでの辛抱や」
「……猫丸」
「ん?」
八郎は頭を下げて、
「あの時は忝い。猫丸が居なければ、私は——」
「そんな‼ 頭を下げる事じゃねえよ‼ オレは八郎に飼われている猫だ‼ 八郎の為にしているだけなんだ‼」
「猫丸……」
「それに、あの時、何が起こったのか分からないけど、何故か八郎の体が離れて行ったけん。たまたま、何とかなっただけや。八朗が礼を言う事やない」
「猫丸……私の体に大事が無いのは、お主のお陰だ。その事に関しては礼を言わせてくれないか?」
「八郎……いいって」
「いや、猫丸。お主のお陰だ」
「八郎」
何だか、恥ずかしくなった。
オレ達が礼の押し付け合いになっている間、エリンギはアクビをして顔を洗っている。
「猫丸、お主だ‼」
「八郎‼ いいって‼」
この押し付け合いは宇喜多屋敷に到着するまで続いた。




