23話 勇者エリスの今後
「なんでなんで!? 剣が喋って……いや、声が聞こえて!? それに変な所に居るし!! あた……ぼくはどうしてこんな所に!?」
剣に声を掛けられ、更に見覚えのない場所にいるとなって、エリスは当然ながら大混乱に陥っていた。
こんな事態になり、カリンは無い頭を抱えて項垂れた。
(……失敗したぁ。普通の人間に話しかけるのって初めてだから、いつもの自分よりもテンション上げて声かけたのがマズかったかなぁ?)
何より、今の騒ぎを聞きつけて部屋の前に待機しているだろう衛兵さん達が部屋の中へと駆けつける筈である。
……が、待てども待てどもバタンッと扉が開く事は無い。たまたま休憩時間だったりするのだろうか……とか思っていたらば……
『ふぅ……急いで駆けつけて良かった』
聞き覚えのある声!!
カリンはすぐさま視線を声のした方向……窓へと向ける。
『レイ君!!』
そこに居たのは、寝起きなのか紙がボッサボサの状態のままの幽霊青年……レイであった。
◆◆◆
目が覚めたら、そこは意識を失った場所と同じ街のど真ん中だった。
あれから何日過ぎているのか……とか、色々と疑問はあったが、俺は早急にケルヴィン達ドラ子へと念話を送る。
恐らく俺の意識が覚醒した事を感じ取って、急いでこちらへ駆けつけようとするだろう。だが、ドラゴンが街のど真ん中へ出現したら大騒ぎである。
俺としても是非ともあいつ等に会ってやりたい所なんだが、今は優先したい事柄がある。
ドラ子達にはちょっとの間我慢してもらうように念話を送り、俺は魔力サーチによってカリンさんとあの少年の捜索にあたった。
その結果、居場所はすぐに判明し、彼女達はお城に居る事が分かった。
文字通り飛んで駆けつけた結果、ちょうどあの少年が目を覚ました所だった。なんというタイミングと思ったが、あの子が目を覚ましたから俺が覚醒したのか……それとも逆なのか、どうも変な因果関係が結ばれてしまったのかもしれない。
ともあれ、少年が剣さんに気が付いて大声を上げようとしたので、俺は慌てて室内外の音を遮断し、室内の音が外に漏れないようにする。
あんまりやった事のない作業であるから、イメージが難しかったが、なんとか成功したようだ。
『ふぅ……急いで駆けつけて良かった』
『レイ君!!』
「うわぁ! また知らない人が居る!!」
……ん?
今のは少年の言葉だ。
まさか……まさか、あの子の目には……
『え、えーと……そこな少年』
「は、あたし……いえ、僕ですか?」
『君には俺が見えるのかね?』
「み、見え……ます……けど……」
少年はおずおずと頷く。
うおおお!! ドラ子達、剣さんに続いてとうとう人間に視認された!!
嬉しい! 声が届くのってこんなに嬉しいもんなのか!!
くそ、思わず涙が出てくるぜ。
『うんうん、気持ちは分かる……分かるよ、レイ君』
心の通じ合える同士である俺とカリンさんはうんうんと頷きながら涙をぬぐった。……いや、実際問題として涙は互いに出ないんですけどね。こう、気分の問題です。
「あの……いい加減、状況を説明してもらえますか?」
………
……
…
「ぼ、僕が……勇者……ですか?」
とりあえず順を追って説明したところ、エリス少年は呆然とした様子で宙を見つめていた。
そりゃあ、目が覚めてみたらいきなりとんでもない事態になっていたのだ。それも、ほぼ巻き込まれたに近い。はい、巻き込んでしまったのは、俺達です。
たまたま、この子が近くに居たから、憑依先に選んでしまいました。えぇ、本当にたまたま。
『すまない。あの場合はああするより他無くてな』
『それに、ああしなかったら王都の皆は殺されていたっていうか……ご、ごめんなさい』
「………」
俺達は口々に謝罪の言葉を紡ぐが、エリス少年は何かを考え込んでいるかのように黙したままだ。
気まずい沈黙の空間が室内を支配する。
そう、俺達はこの少年の人生を狂わしてしまったのだ。
命は助かったのだとしても、これから彼に押し寄せる人生の補償なんて、俺達には出来……いや、すりゃいいのか?
この場合、彼が勇者となって、それを俺達がサポートすればいい。俺が憑依すれば、ステータスは一気にMAXになるんだから、魔王だって倒せるだろう。それに魔王軍と敵対するのなら、ドラ子達の経験値にもちょうどいい。
ただ、少年の人生を壊してしまったのだと言う罪悪感はある。
果たして、彼はこの勇者としての人生を受け入れてくれるのか……
「あの……」
やがて、長い沈黙の後に少年は顔を上げた。
その眼には、先程までの動揺は無い。
「聖剣さん……いえ、カリンさんでしたね。ちょっと持たせてもらっていいですか?」
『あたし? おぉ、オッケーですよい』
軽いカリンさんの返事を聞き、少年はベッドから抜け出す。
ややふらつきながらも床に突き刺さったままのカリンさんへと歩を進め、その柄へと手を掛けた。
「ふぬっ!!」
渾身の力を込めてカリンさんを床から引き抜こうとする。
これまで俺が俯瞰的に見て来た光景であれば、いくら力を込めようとカリンさんは台座より抜ける事は無かった。
が、少年が力を込める度に、ズズズ……と剣は床より離れていく。
そしてやがて……
「だあっっ!!」
気合の言葉と共にカリンさんは抜けた。
うおお、マジで抜けたか。
少年のステータスでは魔力B以上というカリンさんを抜くための条件に満たないのだが、一度所有者となったのならばそれは通用しないらしい。
剣を抜けたという事実に感動し、少年は誇らしげに剣を掲げようとしたが……
「うわっ! だ、駄目駄目……重くてとても持てないよ」
『うぐぉ! お、重いだとぅ!?』
カリンさんを持つその両手はプルプルと震え、やがてゆっくりと慎重に床の上へと下される。
当のカリンさんと言えば、少年の重いという言葉がクリティカルヒットしたのか、激しく意気消沈していた。
『お、重い……中身は乙女なのに重い……アタシ、そんなにデブだったんだ……』
「ご、ごめんなさい! カリンさんが重いっていうんじゃなくて、僕の腕があまりにも貧弱だから……』
ずーんと沈んでいるカリンさんに向けて少年がペコペコと頭を下げて必死のフォローをする。
名称:エリス
性別:♀
種族:人間族
HP:15/15
MP:5/5
筋力:L
魔力:K+
耐久:M
敏捷:M
これが今の少年のステータス。
俺が憑依した影響なのか、一般的な成人男性のステータスよりも全然高い。
とはいっても、せいぜいこのレベルならば兵士見習いとかそのくらい。そんな者に、聖剣たるカリンさんを振り回せる筈もないか。
ただの魔獣と戦ってもゴブリン程度なら撃破出来るかもだが、そんなんで勇者をやれる筈もない。
やっぱり、俺が代わりに勇者やるしかないのかな。
さっさと魔王を退治して、面倒事を終わらせる。
これが今出来る一番の手だと思うが、果たして、どうしたもんか……
……とか思っていたら、
「お願いします! 僕に勇者を教えてください!!」
ガバッとエリス少年が俺に向かって勢いよく頭を下げた。その光景に、俺はこの世界にも頭を下げる文化ってあるんだなぁと見当違いの事を思ってしまう。
『勇者を……教える?』
「幼い頃から勇者になる事を憧れていました! 例え、偶然でも何かの間違いでも、勇者となった事は本当にうれしいです。でも、今の僕にはその勇者としての力を振るう事が出来ません! だから、僕を鍛えてください!!」
鍛える?
身体を貸すから勇者をやってくれというのではなく、鍛える?
俺はぼんやりと目の前の少年の身体を上から下まで眺めてみた。
10代前半と考えれば、標準よりも小さな背にやせっぽちの体つき……どう見ても前線で剣を振り回して戦うイメージではないよな。
まぁ、これはこれでゲームとかの主人公っぽくて良いんだけど、現実問題として無理だ。
実際、今の段階ではカリンさんを振るう事すら出来ない。
その筈なんだが、俺が憑依しただけでステータスがちょっとは上昇したのだ。
これを何度か繰り返し、更に基礎的なトレーニングを積めばそれなりにはなるのではないだろうか。
だが、
『鍛えると言っても、俺はただ魔力が馬鹿でかいだけの幽霊だ。特に何が出来る訳でもないんだが……』
せめて魔力を渡すなりなんなり出来ればやりようもあるんだけどな。
ドラ子達と違ってどうやって鍛えればいいのか見当もつかない。
『でも、ここはレイ君がこの子預かるしか無いんじゃないかな』
ふと、ショックより立ち直ったらしいカリンさんが口を開いた。
『じゃないと、この子大変な目に遭っちゃうよ。アタシ、この子が戦争の兵器になるような姿とか見たくないなぁ』
『兵器、どういう事ですか?』
『うーんとねぇ、さっき聞いた話ではねぇ―――』
………
……
…
「そ、そんな……勇者を国の戦力として使うなんて……」
一応はこの国の出身であるエリス少年が悲痛に顔を歪める。
話を聞いていた俺も憤りを隠せない。
洗脳だと? 人をなんだと思っていやがる!
『なるほど、確かにこの子をこのままにしてはおけないな』
『うん。この子が目覚めたって知られる前に、とっとと出ちゃうのが最優先かなって思う』
『分かった。という事で……』
俺は改めて少年に向き直る。
『少年、とりあえず君の家に向かおう。鍛えるうんぬんの話はそれからだ』
「分かりました。僕も、このまま此処に居たくはありません」
だけど、問題が一つ発生。
城を出るのはいいけど、どうやって出たもんかな。下手に逃げ出して、この子が指名手配されるような状況は避けたいぞ。
それと……
『少年、ちょっと失礼するぞ』
実験その1。
俺は、少年に向かってサイコキネシスを飛ばす。
「わわわっ!」
少年の身体は浮き上がり、ジタバタと手足をばたつかせる。
ふむ。俺のサイコキネシスは勇者であっても無事に通用するみたいだな。
実験その2。
『少年、カリンさんを持ってみてくれるか』
「は、はい」
恐る恐るカリンさんを持ち上げるエリス少年。
俺はそこへサイコキネシスを飛ばした。
が、
『や、やっぱり駄目?』
『うん、びくともしない』
カリンさんを持った途端、俺の力は通用しなくなった。
やっぱり、何かしらのルールってもんがあるんだな。あぁ、めんどくさい。
俺はしばしの間思案し、やがて顔を上げた。
『ちょっとした案があるんだが、聞いてくれないか』
一年以上間が空いてしまい申し訳ありません。
これから再開します!




