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21話 騒動終結




 イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ!!


 勇者なんてただの伝説だと思っていた。

 魔族に対抗できる人間なんて存在する筈がないと思っていた。


 だが、存在した。

 あんな化け物と戦える筈もない!


 約200年の時を生きる吸血族の女……カグナは、恥も外聞も捨てて必死にその場から逃げ出した。

 何せ、殺されかかったのだ。

 彼女にとってそれは初めての事だった。


 恐ろしい。

 あの、勇者という存在が恐ろしい。

 自分を殺す事が出来る存在が目の前に居るという現実が恐ろしい。


 こうしてワイバーンの背に乗って逃げている間も、背後からあの勇者が迫っているというプレッシャーが襲う。

 なんとか足止めに魔獣達を差し向ける知恵はあっても、そこまでだ。自分の正式な配下で無い魔獣の効率的な動かし方などカグナは知らない。


「貴様、もっと速く飛べ!! 自分で飛ぶよりも貴様の方が速いから使ってやっているんだ! ならばしっかり仕事をこなせ!!」


 ワイバーンに檄を飛ばし、背後を振り返った。

 幸いと言っては何だが、まだあの勇者とやらとこちらでは、まだまだ距離に開きがある――――――


「―――馬鹿な」


 振り返ったカグナが見たのは、自分達の背後に迫る……ワイバーンよりも大きな体躯を持つ赤いドラゴン。そして、その背に跨るあの勇者の姿だった。


 ドラゴン!

 あの赤いドラゴンはさっきまで存在していなかった筈!!

 何処から……何処から現れた!?

 いや、よくよく見れば神族の使い魔のうちの赤い小竜の面影を感じる。

 まさか、あのドラゴンの真の姿がアレだというのか!?


 くそ! 勇者だけでなくドラゴンすらも想定以上の力を持っていると言うのか?

 誤算だ。

 完全に誤算だ。

 このままでは五体満足に逃げ切れるかどうかすら危うい。

 

 ……こうなれば、なりふり構っていられない。


「貴様ら、アタシの為の壁となれ!! 少しでも奴等の速度を落とさせ、私を生かせ!!」


 今までのようにただ足止めとして向かわせるのではない。

 単純にこちらとあちらを遮る為の壁とする。

 減ったとはいえ、まだまだ数百は存在する魔獣の群れだ。

 これだけの魔獣の群れが集まり肉の壁となれば、いかに勇者やドラゴンとは言え、容易には突破できない筈。

 無論、この策は魔獣に対し、死ねと言ってるようなものだ。

 魔獣にも意思はあり、当然この命令にも抵抗はある。

 だが、魔獣は逆らえない。

 古来より、魔獣とはそういうものだ。いや、魔族も……総じて言えば人間や獣……生物全てがそうか。

 つまるところ、強い者には逆らえない。

 カグナが魔王に逆らえないのと同じで、魔獣達も自分より強いカグナの命令には絶対に逆らえない。


 その命令の通り、数百もの飛行魔獣の群れが重なり合い、カグナを守るように壁を作り上げる。

 飛行に特化した魔獣は比較的軽い鳥タイプのものが多いが、中には装甲の硬い蟲タイプのものも多く存在する。そんな魔獣達が重なれば、人間達の作る城壁なんかとは比べ物にならない防御力を誇るだろう。

 この壁があれば、自分が逃げるだけの時間を稼ぐくらい―――


「グアァァァァァァァッ!!!」


 凄まじい咆哮が轟き、背後の赤いドラゴンの口より炎が放たれた。

 炎……炎と説明したが、それが正しい名称だったかはカグナに自信は無かった。

 ドラゴンの口より放たれたのは、赤い光の一閃……その光が魔獣の壁に命中する。すると、その光は魔獣の壁を貫き、更にはその背後を飛ぶワイバーンの片翼をもぎ取った。

 いや、そればかりかその背に跨るカグナの左腕すらも……。


「―――え?」


 肘から先が無くなった自らの腕を見て、カグナは一瞬だけ呆けてしまった。

 これは何だ?

 さっきの光は何だ?

 何故、自分の腕が消えている?


 やがて、その痛みに気づいたのは翼を失ったワイバーンが飛行能力を失ってそのまま墜落しようとした時の事だった。

 慌てて翼を展開させ、自らの力で飛ぼうとしたのだが、そこでようやく腕を失った痛みが訪れた。


 だが、痛みに喚く余裕も彼女には与えられなかった。

 空を飛ぶ自らの頭上を覆い隠すほどの巨大な影が現れたからだ。


「―――あ」


 思わず天を見上げた時、口から言葉は出なかった。


『悪いな、今の俺達はお前達よりもずっと強い』


 姿は人間の子供。

 だが、中身はあの神族……つまりは勇者!! その勇者が赤きドラゴンの背に立ち、こちらを見下ろしていた。


 そして勇者はドラゴンの背より飛び降り、そのまま手にした身の丈もある剣をこちらに向けて振り下ろした。


 身体が肩口より斜めに切り裂かれる。

 ぐらり……と、カグナは自分の身体が二つに分断される光景を眺めていた。


「嘘……でしょ?」

『悪いが、まだ俺達の事を魔王軍とやらに知られる訳にはいかないんでね』


 勇者は軽く目を閉じた後、剣を振り払った。

 放っておけばそのまま大地に向かって落下しそうになる身体を、赤いドラゴンが背で受け止める。


 カグナは身体を両断されたまま、ただ眼下に広がる王都の街並みへ向かって落ちて行った。




◆◆◆




 とりあえず、レッドドラゴンへと進化したケルヴィンのステータスを紹介しておきましょう。


名称:ケルヴィン

性別:♂

種族:竜族

   レッドドラゴン

HP:3000/3000

MP:300/300

筋力:C++

魔力:C

耐久:C++

敏捷:D++


 単純な数値で示すなら、3倍のパワーアップを果たしていました。

 赤くて3倍……いや、狙ってないと思うけどね。


 それにしてもケルヴィン……強かった。

 吸血鬼少女単体と比較するとまだまだ差はあるけども、並みの魔獣じゃ敵にもなりませんでしたね。


 そして、あの熱線……。

 ファイヤードラゴン時のファイヤーボールや火炎放射の比ではなく、ほとんどレーザーと言っていい破壊力でした。

 リアルにゴジ●の熱線じゃねぇかアレ。まぁ、一回使うとMPはほぼ空になるみたいだから、乱発は無理そうだけどね。……ともあれ、技の名前はレッドブラスターとでもしようかな。


『よくやったなケヴィ! お前のおかげで仕留める事が出来たぞ』

「がううっ!」


 大きくなっても中身も声も変わんなくて良かった。

 それにしても……まだ3回目の変身……じゃなくて進化だというのに、ここまでの存在になっていいのかしら?

 ……まぁ、まだまだ進化の先はあるみたいだし、もっと上目指して頑張ってみましょうか。


『……それにしても、やっぱりいい気持ちじゃないね。魔族とはいえ女の子の姿をした奴を斬るのって……』


 ふと、手元のカリンさんが溜息と共に呟いた。

 自分はそこまで罪悪感は感じないが、あまりいい気分でもない。最も、カリンさんの場合は初の実戦でもあるし、慣れの問題もあるんだろう。

 とは言え、ここで何と声を掛けていいかな。

 気にするな……自分もそうだ……。候補はあるんだけど、対人経験の浅い自分には掛けるべき言葉に迷ってしまう。

 そんな態度でいると……


『うん、大丈夫だよ。こんな姿をしている以上、斬った斬られたりの世界から抜け出せると思えないしね。なんとか割り切るよ』


 声だけは明るくそう言ってくれた。

 うぅ……逆に気を遣ってくれてありがとうございやす。


 見れば、他の飛行魔獣達は指揮官である吸血鬼少女が死んだ影響なのか、こちらを襲う事はせず、それぞれ我先にとこの場から逃げそうと散っていく。

 俺の存在がばれるのはマズイけど、どれも知能がさほど高くない魔獣ばっかりだったし、こちらの事を話せないのなら問題は無い……と思いたい。

 そもそもあれだけの数の魔獣を全部倒しきるって無理だし。


 さてさて……こんな状況になってしまったけど、これからの事は色々と話し合わないといけないなー。

 ……だけど、その前に肝心な問題がある。


『カリンさん……今後の事を色々と話したいのは山々なんですけど……』

『おおう? ……あぁ、そろそろ限界だったりするのね』


 理解が速くて助かります。

 そう、こちらもいい加減この子の身体に憑依していられるのが限界みたいなんす。

 なんというか、ピコンピコンと危険信号が点滅しているのが分かると言うか……気を抜いたらすぐにこの子の身体から抜け出てしまいそうです。


『ケヴィ、お前はセラとソロと合流して、人里から離れた場所で待機していろ。絶対に、俺から呼び掛けるまで大きな動きはするんじゃないぞ』

「が……がうぅ……」


 これから起きる事を察知したのか、寂しげな声を出した。

 くぅぅ、指示するこちらも辛いが、こればっかりは仕方ないのじゃ。


『で、カリンさん、今は俺がカリンさんの所有者状態ですけど、俺がこの子から離れたらどうなりますか?』

『うーん……多分、この子が所有者扱いだろうなー』

『やっぱりか』


 あくまで所有の条件は肉体がある事……か。まぁ、そもそもこの子に憑依していないと持てないから仕方ないよな。


『でも、俺が離れた場合でもこの子がカリンさんを持つ事って出来るんですか?』

『うーん……多分持つ事は持てるんじゃないかな。ただ、すんごく重いと思うよ。所有者は所有者だけど、筋力も魔力も全然足りてないから、アタシを使う事は無理だと思う』

『やっぱりか』


 恐らくはこの子の今後は勇者としてもてはやされる事だろう。

 だが、勇者としての力を発揮するには、俺が憑依しなければならない。それに、この憑依自体にはこの子の了承とか一切得ていない、完全なる事後承諾だから、そちらも早々に説明しなくてはならないだろう。

 咄嗟の事だったとはいえ、悪い事をしてしまったなと思う。


『うん、安心して。所有者であるこの子の事は、アタシがちゃんと守るよ。恐らくは、声も届くようになったと思うし、レイ君が目覚める前にこの子が目覚めたら、ちゃんと説明しておくから』


 そう思っていたら、カリンさんも同じ事を思っていてくれたみたい。

 実に、頼りになる相棒が出来たものです。


 可能であるならば、このまま一気に王国の手の届かない場所に逃げ、そこで説明なりなんなりをしたいのだが……こちらも限界で、とてもそこまで出来るとは思えない。

 それに、この子の身体もかなり傷ついている。俺が癒せない以上、ちゃんとした所でしっかりと傷の手当てをしてもらうべきだ。


『じゃあ、俺は寝るから、後の事はよろしくお願いします』

『うん、おやすみなさい~』


 カリンさんの返事を聞き、俺は完全に力を抜く。

 すると、俺の精神はまるで弾かれるようにこの子から追い出され、数分ぶりの幽霊の身体へと戻っていた。

 その途端に強烈な眠気が襲ってくる。

 さて……このあいだは丸一日眠る結果になったけど、今回は一体どれだけ眠る結果になるものかね……。

 起きたらとんでもない事態になっていない事を祈るのみ。




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