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20話 赤竜進化



 吸血鬼少女によって吹き飛ばされ、瓦礫の山に埋もれていたままのシグルドは、伝説を目の当たりにした。


 人間としてはそれなりの力を持っていると自負していたが、本当の魔族を相手にしたらその力は何の役にも立たなかった。そんな自身の力を嘆き、またそんな状態にも関わらず意識を失う事も出来ずにぼんやりと外の状況を眺める事しか出来ない自分の身体の頑丈さを呪ったものであるが、それ故にこの伝説の光景を目の当たりにする事が出来た。


「おいおいマジかよ……あのガキが……」


 シグルドだけでない、逃げ遅れて家屋の中で震えている事しか出来なかった街の住民……魔獣と戦っている最中の騎士や兵士……そして冒険者達。

 その全ての者がこの伝説を見届けたのだ。


 伝説の勇者が聖剣を抜き放ち、これまた伝説の竜に跨って空を駆けた光景を―――




◆◆◆




 そのまま飛びあがろうとした俺であるが、身体はいつものように浮き上がる事はせず、ある程度の高さまで跳んだら、そのまま重力に従って大地へと落ちていくではないか。


 あ、そういや幽霊だった今までと違って肉体があるんだったなと思い直す。

 とりあえず民家の屋根の上に着地して無様に地面に落ちる事は回避。

 それにしても、身体があったらあったで制約が多いというのは、厄介な事この上ない。……これも、幽霊生活に慣れ過ぎた弊害だというのか……。


 まぁとにかく、相手が空を飛んでいる以上は、こちらも飛べる手段がなくては仕方がない。


『ケヴィ、セラ、ソロ!! 集まれッ!!』


 俺が大声で叫ぶと、今まで固まって飛行魔獣の群れと戦っていたドラ子達がサッとばかりに駆けつけてきた。

 が―――


「が、がう!?」「きゅう?」「ぐぐう?」


 俺の姿を視認したのか、三竜がそれぞれ戸惑った声を上げる。

 うむ。困惑するのも理解できる。今まで青年姿だった奴がこんな似ても似つかない子供の姿になっていたら、そりゃあびっくりするだろうよ。しかも実体あるしな。


『だいじょうぶだよー! この人はちゃんと君達のお父さんだからねー!!』


 ドラ子達を安心させるように手にした剣さん……ことカリンさんが声をかける。

 その言葉を聞き、まずケルヴィンが俺に近づき、クンクンと俺の匂いを嗅ぐ。そして、やがて納得したのか俺の頬……正確にはこの身体の子の頬をベロンと舐めた。

 あう、くすぐったいな。


『おう、ちょっくらこの子の身体を借りているんだ。おかげで、剣さんも無事に抜く事が出来た』


 そう言うと、三竜とも嬉しそうにキャッキャッと弾む。


『おう、可愛いなー。オホン、名前はカリンと申します。この度、正式に皆さんのお母さんになりましたので、よろしくお願いします』

『いや、だからそういう関係じゃないっしょ』

『何を言ってるのお父さん! レイ君がお父さんなら、アタシはお母さんじゃないのさ!!』

『いやそもそも、幽霊と剣がどうやって夫婦に……って、今は時間が無いからそんな事言っている場合じゃないな! とりあえず、今の俺はさっきまでのように飛んだり凄い魔法を連発する事が出来ない! だから、お前等は俺の足……じゃないな、背中に乗せてくれ!! そして、アイツを追う!!』

『おおう?』


 指先の代わりにカリンさんを突出し、今まさにこちらに背を向けて逃げようとしている吸血鬼少女を指す。


『アイツはこの場から逃がすわけにはいかない!! だから、俺に力を貸してくれ!!』

「ガウ!」「キュウ!」「グウ!!」


 当然! とばかりにドラ子達が吼える。

 頼もしい子達だ!!


 俺は真っ先にこちらに背を向けたケルヴィンの背へと飛び乗り、『行けッ!!』と叫ぶ。すると、ドラ子達は今までにない迫力と共に空へ猛進したのだった。


 だが、いくらドラ子達がある程度数を減らしたと言ってもまだまだ数百もの魔獣達が空を埋め尽くしている。当然吸血鬼少女もこちらの行く手を遮る為に魔獣達を差し向けてきた。


『カリンさん行くよ!!』

『おう、初めての共同作業ってやつだね!!』


 いや、そういうのじゃないんだけど……ってツッコミ入れる暇も無く、俺は手にしたカリンさんを振るっていた。


 当然、いくら身の丈に近いサイズの長剣と言っても離れた位置に居る敵に振るっただけで当たる訳が無い。だから、イメージ的には魔力を刃状にして撃ち出すという感覚で振るったのだが、実際の光景は……


『うおっ?』

『うひゃっ!』


 剣を振るった際に、刀身から魔力が放出されて刃そのものが巨大化した。そのサイズたるや、50メートルはあるのではないだろうかというとんでもない大きさであった。

 それによって行く手を阻んでいた魔獣達はスパスパスパスパと両断され、ボトボトと地面に落ちていく。

 振り終わったら、刀身は元のサイズに戻っていた。……しかも、俺自身のMPはそれほど消費されていない。


『えーと、レイ君から注ぎ込まれたMPをアタシが増幅して放出したって事なのかな? アタシ自身使われたのは初めてだったから、すっごいびっくりしたけども』

 

 とんでもねぇ。

 幽霊だった自分も相当この世界では規格外だと思っていたが、カリンさん自身も相当な規格外だ。

 流石、伝説の聖剣と呼ばれるだけのことはある。


『でも、これならッ!!』


 少ないMP消費で多数の魔獣を駆逐する事が出来る。その後も剣を振るい続けて200近くの魔獣を屠る事が出来た。

 だが、向こうとて単細胞であるが指示をする者は馬鹿では無い。俺達に近づく事が危険と判断してからは、口から出される火球だったり、石つぶてだったりの遠距離攻撃に切り替えてきた。

 確かに、範囲外からの攻撃ではどうしようもないし、いくらこちらの攻撃力が強力でも、当たらなければどうしようもない。


 向こうの攻撃はセラフェイムの風の防壁によって防ぐ事は出来るし、ケルヴィンやソロネも火球や水流弾を放って応戦はしている。実際、数体の魔獣はそれによって葬られているのは確認できる。


 だが、足りない。

 自分達の行く手を阻む魔獣達はまだまだおり、スピードの面においても自分達と吸血鬼少女を乗せたワイバーンでは少し差があるのか、その距離もどんどん離されている。

 それに、ドラ子達も次第にばててきているのが分かってくる。幽霊のままであれば回復魔法でパッと癒す事が出来るのだが、今の身体だとそれも難しい。

 いっそ憑依を解いてしまおうかと考えるが、そうすればカリンさんを持ち続ける事が出来なくなるし、今度はあの吸血鬼少女に攻撃を当てられなくなる。……そんな事をすれば本末転倒だ。


 ええいもう、こうなったら仕方がない。

 今打てる手で、ワイバーンとこちらの距離を詰める方法はただ一つ。


 ドラ子達が強くなるしかあるまい。

 そしてその手段を俺は持ち合わせている。


『ケルヴィン!! 例のアレ使うぞ!!』

「が、がう!?」


 俺の言葉の意味が理解できたのか、ケルヴィンが戸惑った声を上げる。

 分かる。

 これまで大事にとって置いたからな。こんな状況で使わざるを得ないっていうのは、俺も残念でならない。でも、ここで使わなくてどうするという感じだ。


 俺はケルヴィンの背に手を置くと、体内から今まで大事に保管してきたケツァルコアトルの経験値を取り出す。


『いいな! 進化して一気に距離を詰める!! それには、パワーもスピードもあるお前が適任だ!』


 スピードだけならセラフェイムが適任ではあるが、この場合必要となるのは他の魔獣どもを薙ぎ払うパワーである。それならば、やはりケルヴィンが一番適任なのだ。

 それに、やはり一番最初に進化するのは長兄の役割であろう。


「が、がうっ!!」


 やがて、腹を括ったのかケルヴィンが力強く返事をした。

 この声に応え、俺も手にしている経験値をケルヴィンへと送り込む。


 すると、ケルヴィンのステータスにある経験値ゲージがMAXとなり、遂に待望のあの欄が出現する。


“進化先 リトルファイヤードラゴン→レッドドラゴン”


 表示されたのは実にシンプルな名前であった。

 進化したらファイヤードラゴンかと思いきや、単なるレッドドラゴンとは。


 とにかく、進化先のステータスが確認できないのは残念であるが、今より弱くなることは無いだろう。

 俺は進化の承認を承諾。


 すると、変化が起こった。


 ケルヴィンの身体が光に包まれ、その身体の至る場所にピキピキとヒビが入っていく。そして光が収まっていくと全身に入ったヒビよりポロリポロリと破片が剥がれていき、そのヒビの内側から一気に光が放出された。

 光が収まると、そこにはリトルドラゴンだったケルヴィンは存在しない。


「ガアァァァァァッ!!!」


 全長が今までの倍以上の7メートル程まで成長し、

 全身はまるで燃え上っているかのような赤色の鱗に包まれている。

 翼は完全に広げると全長以上の10メートルサイズであり、羽ばたき一つで旋風が巻き起こる。

 額の角は三本となっており、中央のより鋭い角はまるでルビーのような美しい輝きを放っていた。

 だが、瞳だけは変わらない。

 知らない者が見れば獰猛なドラゴンと誤解されるかもしれないが、その瞳の中に優しい輝きがある事を俺は知っている。


 名前の通り立派なドラゴンへと進化したケルヴィンがそこに存在していた。


 レッドドラゴン・ケルヴィン……ここに覚醒である。




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