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18話 神族




『剣さん、状況は?』

『魔族襲来! 以上!!』


 実に簡潔な説明である。

 まぁ身動きの取れない剣さんに詳しい状況説明を頼むと言うのも無理がある。


『って事は、目の前のこの女の子みたいなのが敵って事で良いんですか?』

『おう! ついでに言うとあたしを守ってる人達は、片方は凄腕のハンターで、もう一人は正義感の強い普通の子! 言っとくけど、可愛いからって惚れるなよ! めっちゃくちゃ強いぞ、その子!!』


 改めて目の前の少女を見る。

 確かに美少女と呼べる部類ではあるが、ドキッとは全然しないな。むしろ、じっと見ていると嫌悪感が湧いてくる。

 とりあえず、どうもやはり俺の事は見えないようで、視線はドラ子達に注目している。

 その隙にステータスチェック………なんだこれ。めちゃめちゃ強いじゃねぇか。こないだ戦ったケツァルコアトルよりもずっと強い!!

 しかも魔力Bとか、剣さん抜けるじゃんよ! これは放置してたらマズイでしょ!!

 かと言って、ドラ子達には任せられない。ここは俺が何とかするしかないだろう。


『ケヴィ、セラ、ソロ……お前らは固まって上の飛んでる奴等を掃除してろ。コイツはヤバすぎるから、俺が相手する』


 三竜は不安げな表情をしているが、俺は笑みを浮かべて頷いた。


『心配すんな。いくら強いって言っても、俺よりは弱い。すぐに倒したらお前らの加勢に行くから安心しろ』


 チラリと確認した限り、今王都上空を飛び回っている奴等は、ケツァルコアトルの半分にも満たないステータスの奴等ばかりだ。苦戦はしないだろうが、とにかく数だけは多い。いくらドラゴンとは言え、全滅させるのはさすがに無理だろう。この女の子を倒したら、俺も手伝わないと行けないだろうな。


「ガオッ!!」

「キュイッ!!」

「グゥッ!!」


 迷ってはいたようだが、俺の言葉に従う気にはなってくれたみたいだ。三竜はそれぞれ翼を羽ばたかせ、空へと散って行った。


「な……なんだ? あれは……敵では無いのか?」


 剣さんの近くに立っているハンターらしい男が飛び去るドラ子達を見て呻く。

 敵対しない限り敵では無いよー。可愛い自慢の子供達であります。


 さて、問題は目の前の少女である。


「チッ! まさかドラゴンがこの世界にまだ存在しているとはね。まぁ、ケツァルコアトルが死んだ理由はこれで分かったわ」


 なるほど、あんだけ強いケツァルコアトルがこんな場所に居た理由も判明。魔王軍とやらだったのね。

 というか、たまたま地上に降りた日に魔王軍に遭遇とか、どんだ運が無いんだ。……いや、それもある意味天命だったのかもな。なあ、マザードラゴンさんよ。


 とにかく、目の前の少女……種族は吸血鬼らしいが、彼女はとんでもなく強い。だとしたら、危ない芽は早々に詰むに限るだろう。

 俺は掌に魔力を溜め、MPを100程上乗せする。とりあえずはコイツをくらえ。


『グレネード!』


 当たれば地形を変える程の力を持つ魔力の弾だ。

 話も出来ずに悪いが、消えてもらうぞ!


 弾は命中!

 そのまま吸血鬼の少女は爆散――――――しない。


『あ、あれ?』


 少女はケロリとした顔でぼんやりと空を眺めている。


『ショットガンッ!!』


 今度は魔力の弾を拡散させて放つ。今度も命中! 拡散されて当たらなかった弾が、少女の周囲の地面を破壊していく。……だというのに、少女にダメージどころか、何の影響も感じられない。

 もしや、魔法は聞かない体質とかそういうヤツなのか?


『……だったら!!』


 今度はサイコキネシスだ。

 周囲に散らばっている瓦礫を浮遊させ、それを少女目がけて放つ。


 が、その瓦礫の数々は少女に目中する直前に、まるで見えない壁にでも当たったかのように弾かれ、その場に力を失ったかのように落ちていく。


 ……この感覚には憶えがある。

 剣さんを魔法の力で強引に抜こうとした際、全ての魔法は通用しなかった。まるで、それが世界のルールであるかのように、剣さんだけに俺の力は通じない。

 まさか、この少女にも同様の事が起きていると言うのか?


 すると、やがて少女が堪えきれなくなったようにクスクスと笑い声を上げた。


「アハハっ!! 馬鹿みたい! アンタがそこに居るって事は、ずっと分かっていたわよ! それに、あたし達魔族にアンタ達の攻撃は効かないってすっかり忘れちゃったのね!!」


『……は?』

『……へ?』


 俺と剣さんは同時に声を漏らした。

 ひょっとして……この吸血鬼の少女は俺の事が見えているの?


「残念ながらアンタの事は見えないし、言葉も聞こえない。でも、目の前に強大な魔力の塊があるって事は感知できるし、魔力の振動で何か喋ったんだなって事は分かるのよ。その様子からすると、今代の神族はアタシ達魔族には自分の力は通用しないって聞かされてないみたいね」


 クスクスと笑いながら、吸血鬼の少女はそんな事を言う。


 大抵の魔獣ならば瞬殺出来る俺のマジックガンが通用しないのはショックではあるが、その前にコイツは何て言った?

 神族?

 それはひょっとして、俺の事なのか?


『レ、レイ君……』


 剣さんの声に、俺は思わず彼女を振り返る。


『レイ君のステータス……。種族の欄が更新されてる……』

『え?』


 慌てて自分のステータスを確認してみる。


名称:レイ

性別:男

種族:神族

職業:ドラゴンテイマー

HP:0/0

MP:882487820/888888888

筋力:-

魔力:EX

耐久:-

敏捷:-


 テレポーテーションに一千万近くMP消費したのだという驚きもあるが、確かに剣さんの言う通り種族の欄が更新されていた。


 神族……それが俺の今の種族?

 じゃあ、神族というのは一体何なのだ? そのままの意味で取ると、神の種族という事だが……まさか本当に神様の一種だとでも言いたいのか?


『おい、神族ってのは何だ! お前は何を知っている!?』


 俺は思わず怒鳴り声を上げるが、やはり言葉は届かないのか、俺の疑問に答える事は無く、少女はそのまま自分の話を進めるのだった。


「ふん。相も変わらずドラゴンを使い魔にして、人間どもに肩入れしているのね。残念だけど、いくら頑張った所でアタシには通じない。アタシ達魔族とアンタ達神族は、お互いに干渉は出来ない。それが理解出来たら、とっととこの場から去る事ね」


 悔しいが、少女の言う通りだ。

 剣さんに俺の魔法が通じないのと同様に、コイツを俺の力でどうこうする事は出来ない。それは、剣さんを抜こうとした際に1億ものMPを消費したのに何も変化が無かった事から学んだことだ。


 神族と魔族の関係はよく理解出来ていないが、俺がこの場に居た所で何も出来る事は無い。それは真実である。

 それでも何か出来る事は無いかと頭を悩ましていると、背後から剣さんの声が聞こえた。


『……レイ君、ドラちゃん達を連れて早くここから離れて』

『―――え?』

『その女の子はあたしを抜ける。実際、レイ君が来るまであたしを持ち去ろうとしていた。抜かれたら最後、下手したらドラちゃん達まであたしは傷つける事になっちゃう。だから、その前に逃げて』

『そ、そんな……剣さん……』


「……あぁなるほど。何をしに来たかと思えば、そこの神族は聖剣を守ろうとしているって訳ね。でも残念。神族に聖剣は触れられないし、先代魔王様を殺して見せた聖剣とやらは、アタシが持ち帰らせてもらいます。……いえ、これからは魔剣……かしら?」


『!!』


 おいおいおふざけんな!

 剣さんをこんな奴に渡すっていうのか? でも、俺には剣さんを抜けない……それに、この女にも手を出せない。


『レイ君! 色々と思う事はあるだろうけど、今は早く逃げて!! あたし、ドラちゃん達もレイ君の事も傷つけるのは嫌だよ!!』


 剣さんの悲痛な言葉が俺の胸を締め付ける。

 くそ……今まで色々あったけど、ここまで自分を無力だと感じた事は無かったぞ。

 本当に、このままじゃただの傍観者じゃねぇか。


「話はよく分からんが、この聖剣は我ら人間の希望だ。魔族なんぞに渡すわけにはいかん」


 壮年のハンターは剣を構え、少女に向かって斬りかかる。

 だが、無理だ。ハンターのステータスは平均Hレベル。今まで見てきた人間の中もトップクラスではあるが、少女とは比較にならない。


「邪魔」


 予想通りただの腕の一振りでハンターの身体は吹き飛ばされ、腕が千切れて宙を舞う。


「シグルドさん!」


 ただ一人残された少年が叫ぶ。


「今の男は、人間にしてはそれなりの実力を持つ者なんでしょう? でも、アタシら魔族にしてみれば紙くずも同然って事。アンタ達がいくら足掻いた所で、アタシらには決して勝てないだろうって分かってもらえたと思うけど」


 確かに、ステータスの見える俺から見ても、その実力差は歴然である。試しに少年のステータスを確認してみるが、一般人よりも多少高いと言う程度。吸血鬼の少女と比べてみても、まるで小型犬が大型恐竜に立ち向かうレベルだ。


 だというのに、少年はガタガタと震える足を堪え、その場に立ち続けていた。シグルドと言う男が落とした剣を拾い上げ、その重さによろめきながらも剣を構えて見せる。


「へぇ……。まだ逃げずに立ちはだかる気概を持つの?」


 その様子に少女も感心したように声を上げる。


「た、確かに僕に戦う力は無いし、この剣を抜く事の出来る勇者でもない! 貴女と戦ってもすぐに殺されてしまうでしょう!」

「それが分かっていて何故逃げないの?」

「でも……でも!! この剣を貴女に渡す事を見逃すなんて出来ない!! シグルドさんが言ったように、この剣を抜く事の出来る勇者が、いつか魔王を倒して世界を救ってくれる! それが僕では無くても、この剣は世界を救う為の希望なんです!!」


 と、少年は言い切った。


 スゲェ。

 その歳でそこまで言えますか。世界の違いとも言えるかもしれないが、希望の為に若い我が身を犠牲にとか、俺だったら絶対に言えないよ


「……面白い子ね。君みたいのを部下にしてみるのも面白いかも」


 すると、吸血鬼の少女がニヤリと笑みを浮かべて、そんな事を言い出した。


「え?」


 きょとんとする少年に、少女は残忍な笑みを浮かべて説明する。


「アタシの種族を教えてあげる。アタシは吸血族……血を吸った相手を自分の眷属にする事が出来るのよ。そうなると、価値観も全て変わるわ。君みたいな正義感の強い子が、どう変わるのかすっごい楽しみ」

「眷属って……僕が、魔族の仲間に?」

「厳密には違うけど、まぁ時間を掛けて肉体を改造すれば、魔族になる事も出来るかもね」

「まさか……僕が母さんやモナを襲ったりするって言うのか?」

「眷属になったら最後、アタシの命令には逆らえなくなるわ。記憶は残るだろうから、もしかしたら嫌だって感情も残るかもね。でも、アタシが殺せって言ったら聞かざるえない。だって、アタシ達はそういうものなんだから」


 おいおいマジかよ。

 そんな事をニヤニヤ笑いながら言い切りやがった。


 少女の話が理解出来たのか、少年は今までとは違った意味でガタガタと震えだす。それもそうだ。これまではただ自分の死だけの問題だったのに、そこに己の家族が絡んでくると話が違う。

 しかも、その手を下すのは自分で、拒む事は出来ないのだ。


 そして、少年は決断する。


「……母さん、モナ……ごめんなさいっ!!」


 手に持った剣の切っ先を自分に向け、その胸に突き立てようとした。

 が、その前に俺がマジックガンを少年に撃ち、その凶行を止める。その衝撃に少年は気絶したようだが、死ぬ事は防ぐ事は出来たようだ。


『レ、レイ君!?』


 俺と同じように黙って見ていた剣さんが驚きの声を上げる。

 魔族にも剣さんにも干渉は出来ないが、こうして人間には干渉できるんだな……と再確認は出来た。


「神族……何のつもり? 自分で死ぬのを防いだところで意味は無いわよ」


 まぁ単純に子供が死ぬ所は見たくなかった。それが自殺なら尚更だ。

 でも、確かに気絶させたところで何も状況は変化しない。俺自身に吸血鬼の少女を止める力は無く、剣さんも抜く事は出来ないのだ。


『わ、分かった! レイ君! その子を連れて早く逃げて!!』


 そう、確かにそれぐらいなら出来る。

 何も出来ない俺ではあるが、この少年一人なら救う事も出来る。


 だけど、剣さんを救う事は出来ない。

 この少年が死ぬまでやろうとしていた、世界の希望を守る事は出来ない。


 所詮、幽霊である俺には出来る事は何もない。


 ……さっきまではそう思っていた。

 だが、ふと気付いたのだ。


 俺は幽霊だ。

 正確には神族とやらなのかもしれないが、自分では幽霊だと認識している。


 幽霊には、幽霊の出来る事がある。

 空中浮遊だったり、精神で物を動かしたり、壁をすり抜けたり……まぁ色々だ。


 だとしたら、もう一つ幽霊である俺には出来る事があるんじゃないか? 心霊番組や、映画とかでよく見る“アレ”が。


『剣さん……』

『へ? は、はいっ!』

『今まで試した事は無いし、出来るかどうかも分からないけど、やってみたい事がある。これがもし成功したら、全部上手くいく』

『え? ぜ、全部?』

『剣さんも助けられるし、この魔族も倒す事が出来る』

『え? え? え? マジで?』

『でも、それをするにはどれぐらいMPが必要か分からないし、前に剣さんと約束した事破っちゃうけど……ごめんね』

『え……レイ君、何するつもり……』


 剣さんがまだ何か言っているが、俺は無視する事にした。


 さっきのテレポーテーションと同じ。

 集中……とにかく集中だ。


 正直、幽霊として経験の浅い俺に出来るかどうか分からない。でも、今この場でやらないと、全部が最悪な結末になってしまう。


 剣さんは魔族に連れ去られ、この少年は吸血鬼の眷属にさせられてしまう。今、空で戦っているドラ子達だって吸血鬼の少女に襲われたら俺は助ける事が出来ないのだ。


 ならば、やるべきだろう。


 世界を救う気なんてサラサラないが、親しい者……守りたい者を守る為に……俺は決意する。

 

『憑依!!』


 俺は目の前に倒れ伏している少年の身体に覆いかぶさり、少年の中へと入り込んだ。






 そして、世界を救う勇者が誕生する。



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