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17話 テレポーテーション




『全然レベルが上がらねぇ……』

「がう」「きゅう」「ぐう」


 剣さんと別れてから半日経過。

 俺とドラ子達はブルーネ王国の王都とやらからかなり離れた場所を陣地とし、そこで魔獣退治をメインとしたレベリングに突入したのであるが……


 地上の魔獣達は、俺達が暮らしてた浮島の魔獣達とだーいぶレベル差がある。よって、得られる経験値もミジンコレベルであった。ちなみに俺から視えるステータスでレベルの欄は無いが、強くなると数値がちょっとずつ上昇するの仕組みらしい。あとどのぐらいで上昇というのは、数値横のゲージで表示されている。数字で表すと、後々面倒になるとかそういう理由では無いのであしからず。

 元々、浮島で得られる経験値が少なくなってきたから、こうして地上に降りたという事情があると言うのに、降りたらもっと経験値が少なくなったとか、本末転倒じゃないか。


 ……まあ、ドラゴンってのは元々そんな簡単に進化したりするもんじゃないんだろうな。

 犬、猫みたいに20年程度の寿命じゃないだろうし、下手したら数百年とか生きるんでしょ。だったらこの成長の遅さも納得と言える。

 ……でも、剣さんと別れる際に格好良い事言ってしまった手前、抜くまでに10年掛かりましたとかそんなふざけた話は無いだろう。


 どうしよう。また浮島に戻ろうかな?

 でも、そうすると浮島の生物達全滅させなきゃならなくなりそう。……特に恨みがある訳でもないのに、そんな事したくないしな。


「がう……」


 すると、ケルヴィンがもの言いたげにこちらを見た。

 分かっている。

 実を言うと、現時点で進化できる方法が無い訳では無い。


 ケルヴィンと俺だけが知っている事であるが、それはケツァルコアトルを倒した際に得た経験値エネルギーだ。


 あれを倒した際、その経験値を得るのは実際に倒した者であるケルヴィンであったのだが、ケルヴィンは三竜で力を合わせて得たものだからと、力を得る事を辞退し、俺へと一旦預けたのだ。この得た力を俺はずっと保管している。仮親である俺には、そういった力があるらしい。

 これと同等の力が3つ分溜まったら、改めてケルヴィンに力を与えよう……。そう思っていたのだ。残念ながら、この力を均等に3つに分ける力は俺には無いみたい。めんどくさい設定だ。

 もし、この力をドラ子達の中の一竜に集中して与えれば、恐らくは次の段階に進化できる。

 でも、それで確実に魔力Bになると言う保証は無いし、一竜と他二竜とで力の差が開きすぎてしまう。仮親としてそれはやりたくはないな。やはり、出来るなら三竜同時に進化させたい。


 とは言え、剣さんの件が絡んでくるとなると、そうは言ってられない。このままのペースだとあと何年かかるんだと言う感じだし、一旦進化させて早々に剣さんの約束を果たすと言う手もある。

 となると、進化して魔Bになりそうなのは現時点で最も魔力の高いセラフェイムなのだが……。現時点でC-……一回の進化でBにまで上がるのか……という不安がある。

 全く、進化した場合のステータスも分かればいいんだけどな。


 ああもう! とりあえず、この問題はいったん棚上げ!

 まだ旅を再開して半日なのだ。もうちょっと世界各地を回って様子を見るとしよう。実は、もの凄い強い魔獣とかが居る可能性だったあるしな。


『あ!』


 そこである事に気づいた。

 この世界には、魔王ってのが居るんじゃなかったか。もし、魔王ってのが物語によく出る悪の親玉みたいな存在なのだとしたら、倒す事に罪悪感は感じないだろう。

 ……まぁ、こんな勢いだけで魔王退治をやろうなんて思わないけどね。ぶっちゃけ、この世界の事よく知らないから、実は魔王サイドが良いものという可能性だってある。

 その辺は、もうちょっと魔王とやらの情報を集めてからだな。


 まず、第一優先はドラ子達。続いて剣さんだ。

 後の事は今は放っていてもいいや。


 と、思い直して旅を再開しようとしたが、そこで俺の身体にゾクリと悪寒が走る。


『!?』


 悪寒? 幽霊である俺に寒さを感じるというのか? 一瞬風邪か何かかと勘違いしたが、そもそも幽霊が風邪をひくはずもない。

 ならば、この感覚は何なのだ?


 何というか、凄い嫌な感覚だ。何かとんでもない事を忘れているような……見落としているような……。もしくは、俺の知らない所で何かが起こっているような……そんな予感めいたものを感じる。


「がう?」「きゅう?」「ぐう?」


 ドラ子達が変にそわそわしている俺の様子を見て、首を傾げている。

 親としてあまりこういう姿は見せたくないが、とにかく落ち着かない。何なんだろうか……。もしや、幽霊になって強化された俺の第六感が警告を与えているのだろうか?


 この世界で俺にとって大事なもの……勿論ドラ子達だ。だが、ドラ子達は俺のすぐそばに居るし、別に変な事は起きていない。

 後は、この世界で唯一の知り合いである、剣さん―――


『!!』


 もしや、剣さんに何かがあったのか!?

 別れたのは半日前であるが、まさかその間に剣さんを抜く事の出来る者が現れたとか? それならそれで喜ばしい事ではあるが、自分達で抜くと宣言してしまった手前寂しいものがある。

 だが、この不安はそういったものじゃない。結構ヤバげな危機が剣さんに迫っているんじゃないか?


 俺はその場から飛びあがり、上空から剣さんと別れたブルーネ王国とやらの方向を視認してみる。


『!!』


 視力を強化して見ると、ブルーネ王国の方角の空が黒に染まっている。あれが雲の黒でない事ぐらい俺にも理解できる。あれは、飛行タイプの魔獣の群れだ。空を染める程の魔獣の群れって、三桁じゃ収まるまい。明らかに四桁を超える魔獣があそこに集まっているのだ。

 自然にあの数の魔獣が集まるとは思えない。まさか、あれが噂の魔王とやらの軍勢なのか?


 だが、親しい者が居ないこの世界において、人間の国がどうなろうと知った事では無いと思う自分が居る。

 なんだけど、あそこには剣さんが居るのだ。剣さん程の力を持つ者がどうにかなるとは思えないが、この嫌な予感だけは治まってはくれない。


 俺は全速力で剣さんの元へ飛ぼう―――として、不安そうにこちらを見ているドラ子達に視線を向ける。

 ここで俺が全力で飛ばせば、結構な魔力を消費するだろうが、剣さんの元へは一瞬でたどり着けるだろう。だが、ドラ子達はそうはいかない。この子達を置いて行ってしまう事には躊躇いを覚えた。

 いやいやいや。剣さんのピンチかもしれないのに、何を迷っている暇があるのか。


『ええいもう!!』


 俺はドラ子達へ近寄ると、とりあえず事情を説明した。


『剣さんと別れた街に、とんでもない数の魔獣の群れが迫っている! 急いで助けに向かわなくちゃ行けないんだが―――』


 俺が先行するから、お前達は後からついて来いとは言い出せなかった。

 ここから街まではかなり離れているし、ドラ子達が全力で飛ばしても1~2時間はかかるぞ。それに、俺には剣さんを抜く事が出来ないから、彼女だけ助けてすぐに帰ってくるという事も出来ない。

 ならば、逆に俺がドラ子達を抱えて飛んでいくか……


『あ!』


 そこまで考えて気付いた。

 今の俺は、膨大な魔力を持ち、イメージさえあれば大体なんでも出来る。

 ならば、あの魔法だって俺は使えたりするんじゃないのか? ただ、問題はイメージだ。それと消費するMPがどれほどになるのか分からない。剣さんに、俺の場合のMPは寿命みたいなものなのだから、無駄遣いするなと言われたばかりではないか。


 だが、これならばドラ子達も連れて一瞬で剣さんの元へ行ける。それに、これで死ぬ訳でもないだろう。だったら、使うべきだ。


『お前等、集まれ! 身体をくっつけて団子になれ』


 ドラ子達はきょとんとしながらも、上下に重なって文字通り団子状態になる。大昔に流行った歌でも歌いたくなるな。なんで知っているかって? 詳しく追及してくれるな。


 俺は団子になったドラ子達の背に跨る。一番下のケルヴィンが「ぐえ」と苦しそうな声を出しているが、俺に重みはないから他二竜の重さだろう。

 長男よ、悪いがもうしばらく耐えておくれ。


 まず、イメージとして俺は自分とドラ子達の周りを見えない箱のようなもので囲む。続いて、目を閉じて半日前に剣さんと別れたあの場所を思い浮かべる。

 街の情景とかはあまり思い出せないが、あの広場であればしっかりと思い出せる。


 集中……集中……MPがどんどん魔法に吸われていくのが感じられる。そんなもんいくらだってくれてやる。だから、素直にこの場所とあの場所を繋げるんだ!!


 そして、俺の脳裏にフッと剣さんの居るあの場所の光景が浮かぶ。

 漆黒に染まる空。広場に倒れる兵士……騎士達。そして、まるで剣さんを守るかのように眼帯を付けた壮年の男と、どう見ても10代前半と思われる少年が武器を構えて立ち塞がっていた。その二人が対峙しているのは、ゴスロリちっくな服装をした赤い髪の美少女だ。別れた時の光景ではない。これは間違いなく、今のあの広場の光景だ!!


 俺は脳内でその広場を3D画面のように表示し、その場に今俺達を囲っている箱と全く同じサイズのオブジェクトを配置する。

 イメージは、PCのペイントツールでよく使う……カット&ペーストだ。

 つまり、俺が使用する魔法は……


転移テレポーテーション!!』


 ブゥンと周囲の空間が歪むのが分かる。

 MPがごっそりと消えた感覚……気持ち悪いが、今は我慢! そして、一拍の間の後ズンッという衝撃が俺達に襲い掛かる。


「ぐえっ」


 衝撃の主な原因は、カット&ペーストの指定場所を地面より少しだけ離れた場所にしていたせいだ。下手に地面の上に指定して、地面にめり込んだり同化したりしたら大変な事になるからな。まぁそのせいで一番下のケルヴィンには更なるダメージが重なってしまったが、とにかく生きているから問題なし!


『レイ君!?』


 剣さんの声が聞こえる。

 俺は転移の影響でぼんやりとしている視界を動かし、半日前に別れたばかりである剣さんを見据える。


「何よコイツ等……?」

「新たな魔獣か!?」

「ど、どうなってんの?」


 俺達が急に現れた事でこの場に居た者達は混乱しているようだが、俺の感想はただただ転移成功の喜びに満ち溢れていた。

 それに、見た所剣さん本人に今の所実害は無いみたい。


 さて、どれが敵だかは分からんが、剣さん救出作戦開始だ!!




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