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16話 魔族襲来




『ほえー。暇だなぁ~』


 ぼんやりと青空を見上げながら、剣さんこと聖剣グランカリバーは呟いた。

 謎の幽霊青年レイと、3匹のドラゴン達が去って半日が経過していた。唯一話の出来る相手が姿を消し、剣は今まで通りの孤独で退屈な生活へと戻ったのだった。

 さて、剣が身体という事で、どこに目があるのかとかどういった感覚なのかとか疑問はあるだろう。

 具体的に説明すると、イメージ的には剣の中というよりは剣の周りをふわふわした意識のようなものがまとわりついている感じ。だが、意識は剣より約1メートル以上離れる事は出来ない。それ以上は、何か無理といった感じで進めないのだ。魔力を駆使して物に触れたりできるのもその範囲が限界だったりする。と言っても本体はやはり剣らしく、何者かが柄に触れたりすると、その触感が伝わったりする。それによって、ああ……自分はやっぱり剣なのかと実感するのだ。



 背後では相変わらず国中の男達が招集され、自らを抜こうと躍起になっている。まぁ、力自慢の男達はこの数日であらかた試し終わったのか、今日はちょっとひょろっとした青年や少年の姿が多く見られる。


 ……まぁ、どれだけ頑張ったところで魔力B以上無いと抜けないのだけども。

 それに、レイ以外の人間の所有物になるのは嫌になってしまった。今までは誰か抜いてくれないかと切望していたものが、誰も抜いてくれるなという気持ちでいっぱいである。

 これでも、一途な女なのだ。必ず抜いてくれると告白紛いの宣言をされてしまったならば、それに応えるのが筋というものだろう。

 本音を言えばもっと白馬の王子様的な人を希望していたりするが、まぁ夢は夢と言う事だ。こちらも美女どころか人間らしい部分が何もない……本当に女かどうかも怪しい剣なのだ。多くを望んだら罰が当たる……というか彼に出会えた事が奇跡みたいなものだ。素直に喜ぶとしよう。


 とはいえ、暇は暇だ。こればかりはどうしようもない。

 なので、ちょいちょい魔力で物を動かして周囲の人間に悪戯したりして、その反応を楽しんでいる。間抜け面で剣を抜く順番待ちをしている男達に、ちょいちょい小石を投げてみたり、置きっぱなしになっている荷物をちょっと他の場所に動かしたりしてね。あ、盗んだりとかはしてないすよ。というか盗んでも意味ないし。

 そして、ステータスを見られるという発見も暇つぶしの役に立った。

 来る人間来る人間のステータスを確認し……『ダメ』『全然ダメ』『おっと魔力M? 他の人間より高いじゃん』と、勝手に採点をしているのだった。

 その中に……ふと一人の人間が剣の目に留まった。……目は無いけども。


『おっと可愛い少年発見!』


 中学生くらいと思われる背の小さな少年が、屈強な男達に挟まれるように列に並んでいた。

 服はボロボロで汚く、肌もよく日に焼けている。一見奴隷かと思ってしまったが、奴隷がこんな場所に並べる筈もない。

 恐らくは遠くの農村あたりから来た子供ではないかと思われるが、それが何故こんな場所に居るのか……。

 そもそも、この場に並ぶのは15歳以上の成人ばかりで、彼のような子供は見た事が無い。子供がはしゃいでいるのは見かけるが、実際に並んだり抜こうとすると大人に止められている。彼は止められたりしないのだろうか?

 疑問に思いつつも少年のステータスを確認確認。


『おりょ。しかも魔力値結構高いじゃん』


 魔力値の値は“K”である。下手をすれば、そこらの魔術師達よりも魔力が高い。

 と言っても、MPは3。他の男達が1ばかりだから、無いよりはあるといった感じである。生まれつき魔力値が他の人間よりも高い特異な存在なのだろう。

 まぁだからと言って自分を抜ける力を持っている訳でもないのだが。


 そうしてぼやーっと見ていると、その少年がこれまたガラの悪そうな屈強な男達によって囲まれ出した。

 まぁ言わんこっちゃないという感じだ。


「おうおう坊主! ここはお前みたいなガキが並ぶ場所じゃねぇぜ」

「伝説の勇者様にでもなって畑でも耕そうってのか?」

「悪い事言わないから、剣を振れるようになってから此処に来な」


 ……まぁ言っている事は間違ってはいないね。

 さすがに少年の年齢では、ここに居る事自体が場違いというやつだろう。……間違ってないかな、この使い方。

 とは言え、無垢そうに見える少年がこんなゴロツキってぽい雰囲気の奴等にアレな事やコレな事にされてしまうのは見たくない。

 手の届く範囲ではないが、石でも投げて、助け出してやろうか……と思っていたらば……


「僕が此処に居る事で気分を害してしまったのなら大変申し訳ありません」


 と、少年は声変わりのしていない高い声で丁寧に謝り、ペコリと頭を下げたのであった。ここから見ても綺麗な角度である。


「ですが、僕としても簡単な気持ちでここに並んでいる訳ではありません。どうか、僕にもこの選定の剣を抜く事が出来るか……試させてもらえないでしょうか?」

「―――!? お、おう……」


 泣きだすか、狼狽えるか……と踏んでいたらしい男達は、これだけの男達に囲まれても毅然とした態度を崩さない少年の様子に面を食らった様子だ。


「ほう、面白い事言うガキが居たもんだ」

「! シグルドさん!!」


 すると、数日前からたまにこの辺をうろついている片目に眼帯をした白髪の男……恐らくは冒険者と思わしき壮年の男が、今のやり取りを見て気になったのか声を掛けてきた。前から思っていたが、ハリウッドスターっぽい雰囲気の渋いおっさんだ。実に格好いい。


「よう坊主。なんでまた選定の剣に挑戦するなんて気になったんだ? そいつらの言っている事は別に間違っちゃいねぇぜ。今のお前が剣を振ろうとしても、剣に振られるのがオチだぜ」


 シグルドというらしい壮年の男の言う事は最もである。

 少年の体格ならば、剣の重さに耐えきれず、まともに振るう事すら出来ないだろう。ナイフやダガー等の武器ならば体格に見合った武器として振るう事も出来るだろうが、聖剣グランカリバーは長剣である。しかも、普通のロングソードに比べると少し大きい。

 農業で鍛えているのか、普通の子供に比べれば筋肉はあるかもしれないが、これは鍛えているからオッケーとかそういうレベルでは無いだろう。


「……僕の住む村は、魔の森の近くにあります」

「「「……!!」」」


 少年の絞り出すような言葉に、周囲の者達の顔が歪む。

 魔の森ってのはよく知んないけど、名前の響きでやばそうな感じはするよね。イメージで想像すると、魔獣とかがウヨウヨしている森って事かな?


「もう既に魔の森より出現する魔獣達によって、人が殺されています。討伐隊を出してくれるように懇願しに来ましたが……相手にはしてくれませんでした」

「今は魔王が復活したとかで慌ただしいからな。下手に戦力を割けないのだろう」

「理解はしているつもりです。でも、そもそも魔王が現れたから魔の森の魔獣達が活性化して暴れ出しているのでしょう。だったら、魔王さえいなくなれば……伝説の勇者の剣であれば、魔王は倒せるんじゃないかと……」

「坊主……お前が勇者になるつもりか?」

「……なれるのであれば」


 顔つきは弱弱しいが、力強い瞳で少年はシグルドと呼ばれた男を見据えた。

 そして、シグルドはフッと笑い、手に持っていた葉巻を口に咥える。……様になっている。めちゃ格好いい。


「ガキは英雄に憧れるもんだが、本気でなろうとする奴は長生きできねぇぜ」

「……は、はい」

「まぁいい。俺にはお前に剣が抜けるとは思えないが、試すだけなら簡単だ。おい! このままだと日が暮れる! このガキに先に試させてやれ!!」


 シグルドは、今自分を抜こうとしている先頭集団に向かって声を掛けた。


「で、でも……」

「抜けるかどうかなんてすぐに分かるだろう。で、坊主……抜けなかったら素直に村に帰るんだぞ」


 言いよどむ先頭集団をひと睨みし、更に鋭い眼光を少年に向ける。

 少年はゴクリと唾を飲み込み、深く頷くのだった。


 おっさん格好良いけど、やめたげてー!

 その少年の力では抜けない事は分かっているんです。可愛くて強い意志を持った子がガックリと項垂れるシーンなんて見たくないよう。

 そんな願いは届くはずも無く、少年は一歩一歩とこちらに向かって近づき、台座に突き刺さっている剣の柄を掴もうと手を伸ばした―――


 ―――途端、悲鳴が上がった。


 悲鳴の原因はすぐに理解出来た。少年もシグルドも、集まっていた男達も、全て空を見上げている。

 昼間だというのに、漆黒によって塗りつぶされようとしている空を……。


 その闇の正体は、空を覆い尽くさんばかりの大量な鳥……いや、魔獣達だった。


「飛行魔獣の群れだと!? 何故、こんな人の多い場所に!?」


 シグルドは剣を抜き放ち、その場から駆け出した。少年は3桁を超えるだろう魔獣の群れを見てその場にへたり込み、並んでいた男達は悲鳴を上げて逃げ出すのだった。


 そんな中、聖剣グランカリバーは、より巨大な飛行魔獣の背に人影を見つける。

 気だるそうに眼下の街並みを見下ろしているゴスロリちっくな恰好の美少女。一見人間に見えるけど、あれって魔族なんだろうと理解する。 


 そしてそのステータスを見て引きつってしまった。


名称:???

性別:♀

種族:吸血族

HP:6980/6980

MP:720/720

筋力:C+

魔力:B

耐久:D+

敏捷:C+


 人間とは比べ物にならんレベルの化け物である。

 何より、問題なのはその魔力値。


 そこに記されているのは“B”。


『……やべぇ。アイツ、あたし抜けるじゃん』




 鬼のように忙しい日々から解放されたと前回書きましたが、あれは嘘だ。

 次の週になったら、別の鬼が控えていました。全然暇がありませんッ!!


 早く平常運転の日々に戻れたらいいのですが……。

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