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15話 宣言



 最果ての地……魔王城。

 おどろおどろしい雰囲気漂う古城へ、ある者が呼び出された。


「はぁぁ? ケツァルコアトルが死んだってどういう事よ!?」


 甲高い声で叫んだのは、いわゆるゴスロリチックな衣装に身を包んだ美しい少女だった。ただ、年端も無い少女と言うには、その表情は大人びており、立ち振る舞いも純粋な少女のそれとは違っていた。

 何より、その少女から漂う妖艶なフェロモン……それが彼女を見た目通りでは無い存在だと悟らせるのだ。


 ―――吸血鬼。

 魔族と呼ばれる種族の中でも、上位に君臨する存在の一人である。


 そして彼女自身は、魔王軍の中でも所謂四天王と呼ばれる四強の一角を担っていた。


「説明した通りだ。ブルーネ王国の王都を滅ぼしに向かった際、奴の魔力が消え失せた。それから連絡は一切取れん。という事は、死んだという事だろう」


 少女に説明するのは、これまた異形の存在。額に巨大な角を生やした巨漢だった。


 ―――オーガ。

 同じく魔族の中でも上位に君臨する、鬼と呼ばれる種族の中で最も強い力を持つ者だ。


「うっそー。アイツってば、魔王軍でも上から数えた方が強い方じゃなかったっけ? それが死ぬって、どんだけ強い奴が現れたのよ」

「……もしや、勇者が現れたのかもしれん」

「勇者……ああ、かつて先代魔王様を滅ぼしたと言われる伝説の戦士だっけ? そんなのが現れたらいよいよヤバいんじゃない?」

「だから、それを確かめる為にもブルーネ王国に行かねばならん。よって、お前に命が下った」

「あ、それで呼ばれたんだ」

「ケツァルコアトルの残した飛行魔獣軍団を率いて、ブルーネ王国へ向かえ。そこで、奴を倒した者の情報を持ち帰るのだ」

「……滅ぼしてもいいの?」

「可能であるならば構わん。その判断はお前に任せよう」

「……でも、飛行魔獣の奴等かぁ。それなら、フェンリルの奴に任せた方がいいんじゃない?」

「我らの中で、飛べるのはお前だけだ。それに、奴に他の軍団の指揮が出来るとは思えん」

「だよねぇ。まぁ、あたしもあいつ等の指揮が出来るとは思わないけど」

「奴等は、自分の隊長が人間どもに殺されたと思い、激しく憤っている。そのまま怒りに任せれば良い。細かい指示をする必要は無いだろう」

「ふーん。じゃ、行って暴れてこいって言うだけ?」

「だが、そのケツァルコアトルを倒した者の存在が気にかかる。本当に勇者だとしたら、こちらも相応の戦力が必要だろう」

「それであたしって訳ね。あたしは構わないよ。勇者って奴に会うのも楽しみではあるしね」


 吸血鬼の少女はそう言うと、背中から漆黒の翼を出現させ窓際へと立つ。


「それじゃ、行ってくるね。魔王様には、ご褒美よろしくって言っといてね」


 パチリとウインクすると、少女はそのまま魔王城の窓から飛び立ったのだった。




◆◆◆




『ハッ!?』


 すがすがしい太陽の下、俺は意識を取り戻した。夢を見ていた気はするが、どういった夢だったかは思い出せない。

 意識が薄ぼんやりとしている。

 眠りにつく前、自分は一体何をしていたんだったか……。


『あ! 起きた!! 良かったー!!』


 ぼーっとしている頭のまま思考していると、近くから剣さんの声が聞こえてきた。正確には思念だけど。

 ……!! そうだった。俺は剣さんを抜こうとしてMPを一気に消費し、そのまま意識を失ったのだった。


 一気に頭の中がクリアになって来た。急いで辺りを見回すと、場所は意識を失う前と同じ……広場にある剣さんの台座のド真ん前であった。

 そして、剣さんもでーんと台座の上に収まっている。その背後には、これまた屈強な男達が相も変わらず剣さんを抜こうと必死になっているのだが。


『あれから……俺はどうなったんです?』

『どうなったも何も、そのまま気を失って倒れちゃったんだよー。ちなみに、あれから一日半経過済みです』

『い、一日半!? だからこんな昼間に―――って、ケヴィ、セラ、ソロは!?』


 いつもなら俺の傍で丸くなって寝ている筈のドラ子達の姿が見えない!

 まさか、あいつ等に何かあったのか!?


『落ち着きなさい! ドラちゃん達なら、ちゃんと傍に居るから。ほらね分かるでしょ』


 剣さんに一喝され、俺は深く息を吸い込む。

 そして、周囲の魔力を感知……すると、確かにドラ子達の魔力は感知出来た。

 俺のすぐ真下だ。


『夜中のうちに穴を掘って、そこに隠れてもらったの。あの小さくなったり消えたりするのって君の魔法でしょ? それが切れたから、君が目覚めるまで町の外に行ってなさいって言ったんだけど、離れないって聞かなくてさ。仕方なくこうしているの』

『……そうか。俺はこうして無事だから、安心しろ』


 俺は地面の中に手を突っ込み、穴の中で大人しく待機しているドラ子達の頭を撫でた。

 ベロベロと手が舐められているのが分かる。


『穴の中では、絶対に声は出さない事!って言い聞かせたの。本当なら、飛び出して抱き着きたい心境だろうね』


 軽率な行動で、ドラ子達には辛い思いをさせてしまった。もし、親が目の前で倒れてしまって、自分ではどうしようもない事態になってしまったとしたら……。想像すると、俺の胸は罪悪感でいっぱいになる。

 真の意味で天に召されるまでの仮親のつもりだったが、こうなると迂闊に昇天出来ないなと自覚してしまうな。


『とにかく、剣さんにはうちの子達の面倒見てもらったみたいで、ありがとうございました』


 俺はその場に正座し直すと、剣さんに向かって深々と頭を下げる。


『いえいえ。こちらも少しの間母親気分を味わわせてもらましたとも。それにしても、きちんと言う事も聞くし、良い子達ね』

『そうでしょう。まだ親になってそんなに時間は経ってないけど、自慢の子供たちですとも』

『羨ましい限りですこと』

『自分でもそう思います』


 俺はもう一度頭を下げると、地面の中に潜ってドラ子達の無事を確認する。

 狭い穴の中に、三竜が団子状態になっていた。涙の全力スキンシップを受けると、俺はドラ子達にまた縮小化の魔法を付与する。


 そして夜になるのを待ってドラ子達と共に剣さんの前に戻ると、改めてじっくりと自分の身体の状態を確認してみた。

 透明度は以前と変わらぬ状態に戻っている。ただ、MPの方は完全には回復していなかった。倒れる前は1億程のMPを消費した筈だが、回復したのはせいぜい2千万といったところか。現状のMPは8億と2千万ちょい。一日半だと、こんなものなのかもしれない。


 そもそものぶっ倒れた原因であるが、やはり一気に1億ものMPを消費したのが原因なんだろうな。

 二ヶ月の間にそこまでMP使う事も無かったし。そして、一億ものMPを消費した場合は、そう簡単に回復はしないという事か……。

 そうして考え込んでいると、剣さんが躊躇いがちに話しかけてきた。


『あのね、幽霊君』

『なんですか?』

『こうなったそもそもの原因はあたしだから言いにくいけど……幽霊君の場合ってHPが無いでしょ』


 頷く。

 俺のHPのステータスは、-だ。0ではなく存在すらしていない。


『だから、その場合MPが幽霊君の生命力って事になるんじゃないかな?』

『……なるほど』


 幽霊だから生命力は無い。そもそも、今の俺は精神体といっていい存在だ。そんな俺が存在していられる理由が、この膨大なMPという事なのか。


『だから、本当なら気軽に使っていいものじゃないと思うの。それは、君にとって寿命みたいなものでもあると思うから』

『………』


 寿命か。

 約9億なんて膨大なMPだし、そう簡単に無くなる事はないだろう。それに、寝たらある程度回復するから、それほど重くも感じないが……このMPがもし全部無くなったら、俺はどうなるのだろうか。


 チラリとドラ子達を見る。

 いやいやいや。こいつ等の為にも、今は簡単には消えられないと決めたばかりではないか。

 もしMPを使い切れば……なんて今は分からない。それでも、今後は慎重にMPを消費するようにしよう。


『ありがとう剣さん。今後はもっと考えてから使うよ』

『あたしとしてはあまり使ってもほしくないけどね。だって、この世界に来て初めて話の出来る人が現れたんだしさ』


 剣さんの言葉に思わず胸が熱くなる。

 それはこちらも同じことだ。

 言葉を交わせるという事が、どれだけ安心するのかよく分かったよ。


『それは俺も同じです。だから……』

『だから?』


 だから、こうして出会えた事を無駄には絶対にしない。


『必ず、剣さんをこの場から解放してみせます!』

『―――え?』


 俺の宣言に、剣さんは言葉を失った。

 俺自身だって、言ってて結構ドキドキするからな。


『俺自身は無理でも、こいつ等なら可能でしょう』

「がう」「きゅう」「ぐう」


 そう、俺には剣さんを引き抜く事は無理。

 でも、成長して魔力の数値をBに引き上げる事が出来たドラ子達ならば?

 剣さんに触れる事が出来たドラ子達ならば、引き抜く事だって可能な筈。だから、俺に出来る事はドラ子達をもっと成長させることだ。


 そうすれば、剣さんをこの呪いから解放する事だって出来る筈。


『だから、時間は掛かってもいつか……いつか必ず解放して見せます』


 俺の言葉を、剣さんは黙って聞いていた。

 そしてしばらく経った後、ポツリと……思念を伝える。


『……はぁ、涙の出ないこの身体が憎いのかありがたいのか……。ありがとう、幽霊君。……って、そう言えば君ってば名前とかあるのかな?』

『今までは名乗る相手も居なかったからね。一応、便宜上はレイって事にしてます』

『うん。じゃあ、レイ君! いつかあたしを抜いてくれる日を心待ちにしております』

『なるべく早く来られるように頑張ります。……いや、頑張るのはうちの子達だけど』

「がう!」「きゅう!」「ぐう!」


 任せろとでも言うようにドラ子達が胸を張る。

 一番可能性が高いのはセラフェイムだけど……進化次第でどうなるかは分からないな。


 さて、これからは本格的に育成モードだ。

 早いところ進化して、剣さんを解放してあげないとな。




 ようやく鬼のように忙しい日々から解放されました。

 再開します。

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