14話 1億パワーサイコキネシス
ドキドキしつつ、俺は台座に突き刺さっている剣さんの柄へと手を伸ばした。
映画やゲームでよく見る、運命の瞬間。とはいえ、俺に勇者の資格があるとかじゃなく、魔力の数値がべらぼうに高いという理由での選定であるから、特に重く受け止める必要もないんだけどね。
だが伸ばした手は、柄に触れる事なく宙で止まる。
カツン……カツンと、まるで見えない壁でもあるかのように、柄よりも数センチ離れた場所でその手は遮られる。
『うぬぬぬぬぬ!!!』
かなり力を入れてみるのだが、その壁は突破できない。
試しに柄だけでなく刀身の方にも手を伸ばすが、結果は同じ。ちなみに台座には触れた。
『ひょっとして……ダメ?』
『いや、諦めるのは早い!!』
この異世界に来てからの初めての困難が俺に訪れたのだ。ここで簡単にあきらめる訳にはいかない!!
触れないのならば、サイコキネシスで無理やり動かしてやる!
ゴゴゴゴゴゴ……
剣さんの周囲がガタガタと震えだす。触れられないのならば、その周り事動かしてやる! とばかりに魔力を駆使するのだが、肝心の剣さん自体はピクリとも動かない。
俺の中の何かがプチっと弾けたような気がした。
『ほほう……いい度胸じゃねェか』
『あたしじゃないよね? あたしに対して怒ってるんじゃないよね?』
今度は、地面に向かってサイコキネシスを発動させる。地面ごと持ち上げてしまえば、抜いた事と同じだろう。要は、移動が出来ればいいのだ。
一分経過……動かない。
『……にゃろう!』
五分経過……動く様子は見えない。
『……ハハハ。俺を本気にさせたか……』
魔力をさらに高める。俺の魔法は、MPを捧げるだけ捧げたらその魔法のパワーもアップする仕組みだ。どうせ、8億以上もMPがあるのだから、1億くらい捧げても問題はあるまい。
……どうせ、一晩寝たら回復しているんだし。
『うおおおおおっ!!!』
1億のMPを捧げたサイコキネシス!
それだけに影響は凄まじく、周囲だけでなく町全体がガタガタと震えている。少し大きめの地震ぐらいの振動だ。今回はサイコキネシスだけど、本気で地震起こそうと思ったら、この比じゃないぞ。
……やらないけどな。
さて、これだけのMPを捧げたら、さすがに剣さんの方にも影響が出るでしょう。
『!!』
影響があった。じわりじわりと、剣さんの身体が動いているのだ。
……下に向かって。
つまり、台座ごと地面の中に沈んで行っている。……上に行くならまだしも、何故に下に!?
『ス、ストップストップ!! これ、町全体が浮き上がってるよ!!』
剣さんの言葉に、俺はようやく気付く。
どうも、剣の周りを浮かせるのではなく、自分達の方が浮き上がってしまったようだ。
ただならぬ事態に、寝ていた住民達が騒ぎだし、犬や馬等の動物達が暴れている音が聞こえる。
町ごと地面を浮かせるとか、自分がやったことではあるがとんでもねぇ。俺はそろりそろりと、浮かせていた地面を元に戻す事に成功する。……ざっと見渡した限りだと、大きな異変は無いみたい。
……そして剣さん自体に変化は無い。
まるで俺をあざ笑うのように、剣さんの周りのみが魔法の影響を受けていない。
MPをドッと消費した事で俺は思わず地面に尻餅をついた。
さすがに普段の生活でここまでMPを使う事もないから、疲れみたいなものが出てきたようだな。
住民の皆さんも、騒いではいるみたいだが、結局は単なる地震だと認識されたみたい。……まぁ、地面が浮いたとは誰も思わんわな。
『だ、大丈夫?』
『……剣さんの方は何か変化ありました?』
『い、いいえ……。何もありませんです』
剣さんが申し訳なさそうに言う。
俺を怒らせてしまったと思っているようだが、怒っているのは剣さんに対してでは無い。俺に剣さんが触れないのは、恐らくはこの世界のシステム的なものが原因だろう。
ならば……と、チラリとぼんやりその様子を見守っていたドラ子達を振り返る。
『この中で魔力が一番高いのは……セラか』
「きゅい?」
『ちょいと、試しに柄を持ってみてくれる?』
「きゅ、きゅん……」
今までの様子を見てさすがのセラフェイムも不安な様子。それでも俺の言葉には従い、剣さんに恐る恐る近づくと、ツンツンと柄を鼻先で突く。
『はう』
そして、その柄を一気にパクっと咥えたのだった。
『はう……甘噛み気持ちいい……』
恍惚な声の剣さんはほっといて、やはり俺以外には触れる事が判明した。セラフェイムはチラリと俺を見る。そのまま抜けるかどうか試してみろと指示すると、セラフェイムはぐぐっと口元に力を入れてみる……が、やはり抜ける様子は無かった。
セラフェイムの魔力数値はまだC-だからな。Bになるにはまだまだ進化が必要だろう。
……結論。
俺では、剣さんを引き抜く事は無理のようだ。
俺と言う存在が駄目なのか、生きている者でなくては触れないのかは不明だが、俺では剣さんに触れる事すら出来ない。彼女を呪縛から解き放つ事は諦めるしかない。
その後、ものは試しという事でケルヴィンとソロネも剣を抜けるか試してみたが、やはり結果は×。剣さんを抜くには、魔力B以上の“俺以外”の存在の力という事だ。あくまで俺以外の。
ハハ……渇いた笑いが出るな。
俺は改めて剣さんに向き直ると、深々と頭を下げた。
『……ごめんなさい』
『そ、そんな……君のせいじゃないよ。あたしが君なら抜けるって勘違いしたんだから』
「がう」「きゅう」「ぐう」
剣さんにドラ子達も俺を慰めようとするが、今はとにかく自分が腹立たしい。
本気出せばなんでもできると自惚れていた結果がこれだ。いくら規格外の魔力を持っていたとしても、世界のシステム的なものには決して敵わないと言う事か……。
『大丈夫なの? MPとかごっそり減っているけど……』
『あぁ、心配いらないです。こんなの、一回寝たら回復していますから』
これも、二ヶ月の研究で明らかになった事実だ。
実験の為にどれだけMPを消費しても、一晩眠ったら大体回復していた。まあ、俺の場合は普通に生活しているだけでも、ちょっとずつMP消費しているらしいからな。一度気になって丸一日一切何もしないで調べてみた事があるのだが、大体一日で3600程のMPを消費している。
と言っても資産が約9億もあるのだから、消費魔力も微々たるものである。ただ、多く使えば使う程、疲れが出てくるというか……眠気を感じるのよね。
人間三大欲求のうち、食欲と性欲は全く感じなくなったが、睡眠欲だけは人並み以上に感じるのである。幽霊なのに……。
……はあ、そう考えたら一気に疲れが出た。
『あれ……君大丈夫? なんか、身体が余計に半透明になった気がするけど……』
「がう!」「ぎゅう!」「ぐう!」
なんか剣さんとドラ子達が心配そうな声を出しているが、俺の身体が更に薄くってそんな馬鹿な……ってマジだ!
力が抜けたら、存在感まで薄くなっちまったのか!?
―――って、アホな事言ってる場合じゃない。今まで透明度が50パーセントくらいだったのが、30パーセントくらいになっとるぞ!?
あう……。
なんか自覚したら、急に眠気が……。瞼が……瞼が異常に重い!! この状態で生きて(?)きて、ここまで眠くなる事なんて初めてだぞ!
うが……これって、ひょっとしたら俺も天に召されるんだろうか……。
ドラ子達よ……強く生きるんだぞ……。
おやすみなさい。
……こんな引きですが、別に死んでません。
今週は仕事が鬼のように忙しくて、満足に書けませんでした。来週も忙しいみたいですが、なんとか頑張ります。




