13話 剣さんとドラ子達
『という訳で、会いに来ました』
『おぞいよぉぉぉ!! 寂しかった!! あたし凄い寂しかったんだからねぇぇ!!』
日が暮れてしばらく時が経ち、剣を抜こうとする行列が無くなって辺りに人が居なくなったのを確認した俺は、ようやく剣さんの前に姿を現せたのだった。
待ちに待たされた剣さんはと言えば、足があったらそのまま体当たりでもされそうな勢いである。
『そんじゃまず、うちの子達を紹介します』
『おおう! 幽霊君の子供か!! そんな身体なのにやる事やってるなんて、隅におけないね!!』
『いや、だから本当の意味での俺の子供っていう訳じゃ……まぁいいや。じゃ、お前等挨拶しなさい』
「がう」「きゅう」「ぐう」
パッと透明化が解除されたちびサイズのドラ子達は、こわごわと言った感じでペコリと頭を下げたのだった。
俺は恐る恐る剣さんの様子を窺っていると……
『……か―――』
『か?』
『か、可愛いぃぃぃぃっ!! 何これ、このぬいぐるみみたいなの! 触りたい!! すっごい撫でたい!!』
錯覚ではあるが、そのまま自力で引け抜けてしまいそうな勢いである。
……実際には1ミリも動いてないんだけどね。
あ、ドラ子達がちょっと引いている。
俺は「うおーうおー」と唸る剣さんを「どうどう」と諌め、なんとか正気を取り戻す事に成功した。
『すみません、取り乱しました』
『まあ、元に戻ってくれたなら良いです』
落ち着いた剣さんはひとまず陳謝してくれた。
下げる頭は無いけども。
まぁ、俺としては可愛いと言われて悪い気はしない。これが親馬鹿というやつなんだろうか。
『それにしてもこの子達って……所謂ドラゴンってやつでいいのよねー?』
『そうですね。所謂ドラゴンです』
『うおお、ファンタジー!』
『喋る剣が言いますか』
とりあえず、俺はケルヴィン、セラフェイム、ソロネを剣さんに紹介する。
「がう」「きゅう」「ぐう」
恐々ながらもペコリと頭を下げるドラ子達。他人にこの子達の名前を教えるのも初めてだなー。なんか嬉しいと言うか、誇らしい気分だ。世の中の親御さんの気持ちがちょっとだけ理解出来るな。
『それにしても、幽霊ってドラゴンと子供作れるのね。あたし知らなかったわ―。へいへい、相手はどこのべっぴんドラゴンなんだいボーイ! ひゅーひゅー』
そんな微笑ましい気持ちになっていたら、そんな事を言われた。
俺は思わずガックリと項垂れる。
『いや、あのね……』
『ああごめんごめん。さすがに冗談でっせ』
なんかテンション高いお方だ。話していて、悪い感じはしないからそれは良いんだけどさ。
とりあえず、俺はこれまでの経緯を剣さんに説明する。
『ほおおん、若い身空で三人の子持ちになっちゃったんだ』
『まあ、日々楽しいから別にいいけどね』
『この子達可愛いしね。それにしても、ドラゴンなんて初めて見たよー』
『やっぱり、そうなんですか』
『この世界に来て長いけど、こういったいかにもファンタジーな生き物は初めてだねぇ』
『長いってどれぐらいなんですか?』
『おおう!? お……おほほ。女性に年齢を尋ねるものじゃないざますよ』
と言ってはぐらかされた。
今までの話から察するに、俺と同じにこの世界にやって来たという訳でもなさそうだ。自分では動けないって話だし、俺の想像よりもずっと孤独な時間を過ごしてきたんじゃないだろうか。
それがどれほどの苦難だったのかは、俺には理解できない。だから、彼女が自ら口にするまでは追及しないでおこうと決めた。
『ねぇねぇ、撫でていいかな?』
『は? いや……いいけども、そもそも手が無いでしょうアンタ』
『ふぉふぉふぉ。あたしを甘く見ちゃいかんぜよ。確かに手は無いけども、こういった事なら出来るのだぜ』
剣さんがそういうと、何やらピキーンと鍔部分に埋め込まれた宝玉が煌めき、剣さんの魔力がぶわっと放出された。
その放出された魔力は、収束されるように形を作りやがて……まるで腕のような形となる。
もう一度説明すると、剣さんは己の魔力を腕の形に変化させたという事だ。
腕が生えた訳では無い。あくまで魔力を強引に形にした腕っぽいものである。
その証拠に、魔力強い者以外は視認する事すら出来ないだろう。
『どうだー。ある程度の範囲であれば、こうして物に触れたり、動かしたりする事だって出来るんだぜ』
などと得意気に言っておられるが、同じ事なら私も出来ます。
要はこれ、サイコキネシスでしょ。
まぁ、それは今は言わないでおきましょう。
とりあえず、怖がるような事はしないでと釘を刺し、撫でる事は許可したのである。
さわさわさわ……
『うおおお』
感動してらっしゃる。
撫でられているドラ子達も、いつもと違った感触に最初は戸惑っていたが、次第に気持ちよさそうにしている。
なんかそのうちゴロゴロ言いそうだな。
『あぁ……身体があったらギュっとしたい……。心底今の身体が恨めしい』
さわさわさわさわ……
さわさわさわ……
さわさわ……
さわ……
『……もういいですか?』
『ハッ! すっかり時が経つのを忘れていた!! なんという魔力!!』
一時間も撫でていたらさすがに飽きないのだろうか?
ドラ子達にいたっては撫でられすぎて頭が熱いぞこれ!
やがて、ある程度落ち着いたらしい剣さんが改めて俺に向き直った。
『それでさ』
『は、はい』
『昼間に提案したアレ……やってくれませんでしょうか』
アレ……アレ……あぁ、剣を引っこ抜くってやつか!!
確か、魔力の数値がB以上じゃないと、抜けないんだったな。
『いいの?』
ここで俺が抜くという事は、俺が所有者という事になる。今日会ったばかりの俺にそんな事を委ねていいものか? 俺は剣さんに再確認した。
『いいともさ! というか、あたしの声が届く人なんて初めて会ったんだ! だったらここで逃す手はあるまいよ!!』
俺としても、会話が出来る人が傍に居ると言うのは有難い。それに、剣さんとの会話も結構楽しいからな。道連れが増える事は俺は問題ない。
問題はドラ子達だけど……。
「がう」「きゅう」「ぐう」
声からするに特に問題は無いみたい。意外や意外、他の人に撫でられると言う経験が思いのほか良かったのだろうか?
まあ、当人やドラ子達が良いと言うのならば、やってみましょうか。
でも、これって抜けてしまったならば俺が聖剣の勇者になるのだろうか?
幽霊が勇者って、この物語それでいいのか?




