愛着障害の彼女―終章
女性視点終章
火葬も終わった頃にスマホが振動して、FINEの通知を告げた。悠樹からだった。
『お葬式、大丈夫だった?』
『うん。平気だよ』
『そう、よかった。…それで、ちょっと言いにくいことがあって…ロマンがないって怒られそうだけど』
『なに?』
『榛子の誕生日…仕事の残業が入りそうで、行けないかもしれない』
もう慣れたものだった。ほとんど動揺しなくなった。私を嫌いだからとか、大事にしてないからじゃない。だからわざわざ先に教えてくれたんだ。今はきっと前よりは信用されているってことだろう。
『そう。わかった。あとでもいいよ。先に教えてくれてありがと』
『ごめん。榛子、好きだよ』
『うん。私も好き。…それと、私も言わなくちゃいけないことが』
『何?』
『まだ日取りは確定してないけど…少しの間、実家に帰るの。その間は遠くなるから、あまり会えないかもしれないけど…忘れないでね。Rescordしようね』
『ちょっと、どうして?』
『お母さんから料理を教わりたいから…普通の料理教室は、私のトラウマを知らない。パニックを起こしたら迷惑になる。だから、スミコさんしかいないの』
『でも、それは慌てなくてもいいんじゃないかい?』
『わからないわ。就職したら私も時間がなくなるかもしれないし、そもそもお母さんがどこまで長生きするかは誰にもわからないから…』
『そうじゃなくて、僕はきみが料理を作れなくても気にしないし、命令して作らせたりするつもりはないよ』
もう…本当にこういうところだけ鈍いんだからなぁ。
『初めて「いただきます」って言われたとき…初めて「おいしい」って言われたとき…嬉しかったの。もちろんマズかったら不味いって言ってもいい。もう一度ああやってご飯を食べたいの。そうしながら悠樹の顔が見たい』
それまでテンポよく返事が来ていたFINEが一瞬止まった。
『そうか…ありがとう、榛子。それなら、応援する。ずっと待ってるから、ちゃんと戻ってきてね』
『うん』
私は最後に可愛らしいスタンプを送ってその会話を閉めた。
ちゃんと待っていてくれるか、忘れ去られないかの不安はゼロではない。でもきっと大丈夫だろうと心の隅で思っている。
たとえ悠樹が私を忘れ去ったとしても、死ぬわけじゃない。死ぬほど悲しいだろうけど死ぬわけじゃないんだ。むしろそこだけは少し残念だ。私は悠樹の隣で生きて悠樹と一緒に死にたいから。もちろん現実にはそんなことはできない。
わかるようになったことが、少しばかり、淋しい。




