大掃除
「なんで、ファーレガビャの人たちは変わってしまったんですか?」
カームたちの話が事実なら、彼らの伝えている歴史は嘘で塗り固められている。
なぜそんなことが起こったのか。
「それです。私どもとしても不思議でした。徐々に人々の中に信仰が生まれ、王族が生まれ、本来監視役として派遣された看守たちは、いつの間にか彼らに仕える騎士団などと呼ばれるようになった。
それに、いつの間にか教会はネーモまで所持している」
「え?ネーモって今、教会にあるの?」
「夢芽も見たことあるはずだよ」
夢芽の問いに、クリフが答える。 顔は下を向き表情は見えないが、心が沈んでいるということは確認しなくても分かる。
それでも、話を中断することはしなかった。
「いつ?どこで?」
確認せずにはいられない。
「現在のネーモは、古代大戦の英雄の一人、アーシャ姫と同化しています」
しばしの静寂。
「え………………、あ………、ああ!もしかしてあの石像が!?!?」
考え込んでいた夢芽は、ネーモの所在に気づき自然と声が大きくなった。
それとは逆に、カームの声はとても低く小さく、苦味潰したような顔になって話は続く。
「なぜそんなことになってるのかも、分かりません。
記録では、古代ファーレガビャ王国で保管されていたはずなのに」
「こ、古代ファーレガビャ??」
ハッと我に返ったようにカームは顔をあげる。
そして無理矢理表情を作り、平静を装った。
「あ、失礼しました。ファーレガビャは、本来古代大戦時にあった国なのです。大戦終了時に滅びました。
これもなぜか分かりませんが、現在流刑地の彼らが自分たちの領土としてファーレガビャを名乗っています。
まぁ、言うなれば新生ファーレガビャと言った所でしょうか」
カームはカップに手を添える。
冷たくなってしまった紅茶を入れかえようと、ウォームが動くが、それを静止して喉を潤した。
そしてふっと一息つき、話を続ける。
「捨て置くにはあまりに不気味なことばかりです。
ですから、それを調べるために彼、古代大戦の英雄クリフを眠りから覚まし、ファーレガビャへ派遣したんです。
そしてクリフ様の目覚めに呼応するように、異世界で夢芽、あなたが生まれた。
彼とあなたは、古代大戦より残された、私たちの切り札なのです」
世界誕生から世界情勢、スケールの大きい話から、突如出てきた自分の名前におもわず動揺する。
「クリフはともかく、わ、私が?なんで?」
「あなたの体内には、ネーモを破壊することが出来る武器が眠っているのです。
それを発現させ、クリフ様が使いネーモを破壊する。
エイリは戦争を起こした原因ではありません。
古代大戦の英雄の一人であり、その命の中に武器を内包する役割を背負った存在なのです」
「カーム様……」
下を向いていたクリフが顔をあげた。 クリフがずっと隠していたことはこれだったのだ。
「クリフ様、隠しておけることではないはずです。
夢芽様、あなたの命を使って武器を発現させてください。
ネーモを、犯罪者の子孫である彼らに持たせておくにのは危険すぎる」
「わ、私の命……」
夢芽の体内には強力な武器が眠っている。
おそらく、特殊な環境で条件で死ぬことで発現する武器。
だからこそ、ずっとクリフは夢芽を守った。
条件以外で死ぬことは、武器を失うこと。
「あなたが儀式によって死ぬことで、あなたの中の術式は発動し、武器が生まれる。
もちろん、あなただけに全てを背負わせるつもりはありません。
我々も戦います」
「カーム様、それはどういう……」
クリフの声色が変わる。 自分を責めるような、内に向かうような言葉が、外にむき出したように感じた。
「リベドゥーディネの民は、新生ファーレガビャと戦争を開始します。
教会の内部へと食い込む。そしてその先でクリフ様が夢芽様を使いアーシャと同化したネーモを破壊するのです」
「待ってください!穏便に済ますよう話していたはずです。
戦争?リベドゥーディネの民が納得するはずがない」
クリフの声は大きく、叫びのようにも聞こえた。
クリフの焦りは、逆にカームを冷静にしていくようだった。
「いいえ、しますよ。
仕方のない事情があれば」
優しげな表情が、残忍なものへと変わっていく。
「え?」
「戦争をしかけてくるのは、新生ファーレガビャの方です」
カームの口の端が上がり、瞳はとても冷たく、見る者に恐怖を与えた。




