ネーモと世界の始まり
ある者が願いを叶え、不老不死の種族が生まれた。
ある者が願いを叶え、不老不死の種族をこの世から消し去った。
ある者が復讐し、争いの火種を蒔いた。
ある者が何も考えず、人の心を変えた。
ある者は何も考えず、無尽蔵に金を作った。
世界は息を飲むような速さで滅びの危機へと進み、そして同じような速さで復活を繰り返した。
そこにいる者たちは疲弊した。
それでも何度も同じように過ちを犯し、苦しみ喘ぎ、束の間の幸福と永遠に続くかのような地獄を味わった。
そしてあることに気づく。
『ネーモに何度も願いを叶えて貰った者は、心を失っていく』
何を見ても何も感じない。
好奇心や探究心が消えていく。
心が死んでいく。
「それは、なんでも願いが叶っちゃうからでしょうか」
なんでも叶ってしまえば、達成感はない。
夢を見ることすらなくなってもおかしくはない。
しかし、夢芽の問いにカームは首を振る。
「最初はそう思われていたようです。
しかし、どうにも違う。願いを叶えるごとに、ネーモから体内に特殊な魔術が流れ込み、身体に変化をもたらす。
竜たちは、原因を探りました。
ネーモを調べ尽くし、ある事実にたどり着きました」
ネーモは、別の星からやってきた生命体。
大地に住まう生命の行き着く先。
星が寿命を迎え命終える時、その恐怖から逃れるため進化した存在。
星が消滅した後、別の、まだ若い星へと渡り、進化を促す存在だったのです。
話が大きくなってきた。
夢芽の思考は停止する。
そのことを察したカームは、話が飛びすぎたと謝罪し、まず星とはなんなのかを説明し始めたので、
「え?あ、ああ、星は分かります。私の故郷でも私たちの住む世界は丸くって、宇宙ってとこにあって」
自分で説明することで頭の中が整理出来たのは良かった。
目の前の紅茶を勢いよく飲み干し、
「だ、大丈夫です!ついていけそうです」と話の続きを頼んだ。
ウォームは空になったカップにトポトポと紅茶を入れる。
のんびりでマイペースな彼女は、今の夢芽にはありがたかった。
カームは話を続ける。
竜たちがそのことに気づいた時には、竜たちの願いによって様々な生物が生まれていた。
愛玩用にホコホコ族
奴隷用に人間族
闘技奴隷に多種多様な獣たち
彼らは竜たちに貢献すれば、ネーモに願いを叶えてもらうという褒美が貰えた。
もちろん、竜たちにとって不都合なものは許されなかったが。
愛玩用だったホコホコ族は、特に願いの数が多く、心を失うのがはやかった。
「じゃ、じゃあ、あの村のあの現状は願いを叶えすぎた代償なの?」
「そうです。
だから竜たちは、ネーモを使うことを禁止した」
愛玩用に制御した願いでもそうなのだ。
好き放題願いを言っていた竜たちは深刻だった。
ほとんどの者が虚無の塊の化した。
彼らは受け入れざる得なかった。
我々はもう種族としての存続は不可能。
ならば、せめてこの星の終わりまで生きる生命体を残したい。
心を持ち、あらゆることに夢や、時に絶望をもち、間違いながらも生きることに懸命な命を残したい。
「その為に選ばれたのが人間なのです」
竜たちは人間を奴隷から開放し、ネーモを使わずに発展していく道を説いた。
しかし、一部の人間は納得しなかった。
「な、なんで??奴隷じゃなくなったんでしょ?
良かったじゃないですか」
「ネーモを使ってはいけない。それが竜たちの決めたことだったからだよ」
クリフが答えた。
「いやいや、だって、ネーモ使ったら心無くなっちゃうんでしょ?そんなの怖いじゃん。なんで使いたいの?」
その問にはカームが答えた。
「ネーモは、一度使ったくらいでは大した変化は無いのです。
何度も使ううちにジワジワと心を失う。
人間たちからしたら、今まで竜たちが好き放題使って楽をしてきたのです。
散々使って、これからは一切無しで一から文明を発展させろ。
それを不公平と感じる人間は少なくなかったと聞きます」
少しだけなら問題ない。
しかし、どこまでが少しなのか。
なんでも叶う便利なものを、一度味わって手放すことができるのか。
自分なら制御できると、その根拠ははたして確実なものなのか。
「もちろん、人間の中には竜たちの意見に賛成する者も多かった。
古代大戦は、ネーモを使おうとする人間と、それに反対する人間、竜たちとの戦争だったのです」




