嘘
カームと呼ばれた男は席に着き、そのサイドを護衛と思われる数名がかためる。
彼の横に立つ一人の女性は、先ほど食べた求肥の菓子のようにふんわり丸い体形、優しそうな印象をうけ、目が合うとニコリと微笑んだ。
そしてお互いに自己紹介をする。
カームはリベドゥーディネの代表。しかし国王や大統領という言いかたはしていないようだった。
先ほど説明した女性はウォームと言い、カームの婚約者であり秘書のような存在なのだそうだ。
「どうぞお座りください」
そう促されると、クリフが席に座る。
夢芽はクリフの横に待機するつもりだったが、クリフは席に座るように告げる。
「私の護衛としてではなく、事態の中心人物として話を聞いてほしい」
夢芽は頷くと、クリフの横の席に座った。
「なんの断りもなく戻ったこと、申し訳ないと思っています」
「いえ、あなたが意味もなくそのようなことをする方ではないということは、重々承知しておりますから。
理由を確認しても?」
「はい。と言っても、ファーレガビャを出た理由はご存じですよね」
その言葉に夢芽は目を見開いて驚く。
「え?どうやって?」
「夢芽は、ファーレガビャの空をよく眺めてみたことはない?空に見える膜のようなものを見たことは?」
「あーー、あったあった。この世界に来たときからなんだろうと思ってたんだ」
「あれは、ファーレガビャの映像を記録し、こちらに送る役割があるんだ。本来はそれに追加して、国が出ることが出来ない見えない壁を作る役割もあるんだけど、そちらの方は現在は機能していない」
「ええ!!そんな監視機能が??なんで???」
つまりファーレガビャは、つねにリベドゥーディネに監視されていたということだ。
「あの国は、古代大戦の敗者たちが送られた流刑地だからですよ」
「流刑地??
え?私が聞いた古代大戦は……」
夢芽の前世、エイリ クラムディボーズが善良な人間と龍神に仕掛けた戦争であり、勝者は人間と龍神だったはず。
つまりファーレガビャは、勝者の国だと聞いていた。
「真っ赤な嘘ですよ」
夢芽は言葉につまる。
そして、なんとか絞り出すように問う。
「どこからどこまで……、でしょうか」
古代大戦は、前世の自分が起こしたこと。
エイリのしたことで、多くの犠牲が出た。夢芽が今この世界にいるのも、真穂や幸太を巻き込んでいるのも、全てはそこに原因がある。
しかし今打ち明けられたことは、それらを否定することだ。
歴史は見る視点、見る時代によって善悪が変わる。例えそうだったとしても、受け入れるにはあまりにも根底が違いすぎた。
「ふむ、どこから話しましょうか……」
夢芽の動揺は想定内だったのだろう、手で顎に触れカームは少し考える仕草をしたあと、表情をほとんど変えず「この世界の始まり」とつぶやいた。
だいぶ長くなりそうな話だ。
だが聞かないわけにはいかない。
緊迫した中、ウォームはスッとその場を離れると、お茶を用意して戻ってきた。
優しい香りが部屋を包み、張り詰めた空気が幾分和らぐ。
夢芽が「いい香りですね。なんのお茶ですか?」と尋ねると、ウォームは「この国でとれる茶葉を使った紅茶、という飲み物です」と答えた。
夢芽は紅茶を一口飲む。
いつも飲む香りとは違うが美味しい。
ウォームの立ち振舞のイメージ、『優しくて温かい感じが同じ』そう思った。
「ネーモ」
カームが口にはした言葉は、初めて聞くものだ。
それが全ての始まり。
この世界は、元々龍神、当時は竜族と呼ばれた者たちが支配する世界だった。
争いが全くないとは言えないが、それでも平和と言って良いであろうその世界に、空から突如現れたその存在は、全てを変えた。
なぜなら、ネーモは願いを全て叶える力を持っていたからだ。
「全て?」
「全てです」
「何か決まり事とか無かったんですか?七つ揃えなきゃいけないとか、大海原に乗り出さなきゃいけないとか」
「なんです?それは」
「なんでもありません」
一呼吸おいて、カームは続ける。
「あなたは、なんでも好きなだけ願いを叶えられるようになったら、世界はどうなると思いますか?」
「そりゃあ……」
ルールもなにもかもなく、好き勝手に願いを言ったら
「シッチャカメッチャカ」
言い方が悪かっただろうかと思い、夢芽は顔をあげると、カームは少し笑ったあと、皮肉めいた表情で答えた。
「そう、世界はシッチャカメッチャカになった」




