表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/72

春の気配

長い廊下を2人は並んで歩く。

会話はない。

ふと視界を外に移す。

今いる場所は騎士団の宿舎だ。

窓から顔を出せば、遠くに教会が、王宮が見える。

この国は建物の色や形が似通っているせいで、見ようによってそれは巨大なひとつの建物のようにも見えた。

「なんか、こうして見ると、意外と王宮って近いよな」

幸太は歯を見せてニカッと笑う。

その優しさをあびて、真穂はホッとしている自分に気づく。

王宮に配置されている騎士団は、ゴートンの命令で真穂たちを見逃すだろう。

教会の軍隊である聖軍士は、龍神中心の配置、更に夢芽討伐の為に人員がさかれているので平時より少ないのは間違いない。

それでも、不安を抱えるなというのは難しい。そんな中でも、幸太は真穂を気づかってくれる。


「そうだね」

『行ってみたら、案外あっさりと任務達成できちゃうかもね』

そう言えたら良かった。

思い浮かぶ言葉が喉で止まる。

理由はわかる。真穂自身がそう思ってなどいないからだ。

この国の頂点に立つ存在。

軍属でもない、特別な訓練をうけたわけでもない自分たちが安々と侵入できるほど甘い場所なわけがない。

自分はどうしてもマイナス面を考えてしまう。


『きっと姉さんなら、幸太の背中をバンッと叩いて「おうよ!!」くらい言える。

それなのに僕は……。

幸太は、なんでこんな僕を好きになってくれたんだろう。

やっぱり……、見た目……、なのだろうか』


たとえ見た目でも、愛されているならそれはそれで幸せである。

周囲の人たちと話す上で、そういった意見を聞くこともあった。理屈では理解できる。

誰からも愛されないよりずっと良い。

理屈では分かっているのに、受け入れられない。


『僕は……なんて……』


つい黙り込んでしまった真穂の顔を、幸太が両手で挟み込む。

ムギュッと音がして、口がタコになった。


「どしたー?やっぱ不安か?なんとかなる!大丈夫だ!」


真穂はあわてて手を外し不器用に笑いながら答える。


「ごめんごめん。こんな不安になってばかりじゃダメだよね」


「そんなことないぞ!お前が慎重だから、俺が楽観的でいられる」


『ああ、また気を使わせてしまった』


「幸太」


「ん?」


「ありがとう、いつも」


「俺は何もしてないぞ」


「以前の幸太だったら、僕のことを心配してこんな作戦に乗らなかったでしょ?

幸太は、僕のことを信頼してくれてる。前とは違くて、新しい形で僕と向き合ってくれている。

そのことにお礼がいいたい。

そして今も、僕を勇気づけてくれてる。

僕は、それにすごく救われているんだ」


幸太は少しだけ頬をそめ、それを隠すように頬に腕を当てる。


「ば、ばか!いいんだよ、そんなこと。

ホント言うとさ、『俺が守ってやる!』って言い切れたらかっこよかったのにさ。

俺の実力考えたら、言葉が喉につまっちまった。情けない話なんだからさ」


「自分でやるって言いきって鍛錬してるのに、幸太に守ってもらうんじゃ最低でしょ。

むしろ後ろに下がってろなんて言われたら、自業自得の実力を棚に上げて逆ギレしてるよ」


「ははは、なんだそれ」


「おかしいよね」


「おかしいな」


照れて笑って顔を見合って、外から暖かい風が吹いて、優しい雰囲気が辺りを包んだ。


「もうすぐ春だね」


「ああ。リマの木に花が咲く」


「確か、見ごろはすごくきれいだって言ってたね」


「お前らが来た時、花はまだ咲いていたけど一番いい時は終わってたからな。

今年はお前は見れるだろうけど、夢芽にも見せたかったな」


「旅先にあるといいけど」


「いや、かなり特殊な木だからな〜。難しいかも。

それに、せっかくなら皆で見たかった」


「来年は見れるといいね」


「ああ」


自分で言っておきながら、『来年』という言葉が重かった。

真穂は、幸太と夢芽をつれて日本に帰りたい。

エレナやゴートン、バーサル、この国で出会った人との絆は少なからずあるが、それでも、自分が帰る場所は変わらない。

来年のリマの木を見るということは、1年は帰れないということだ。

夏だろうが秋だろうが冬だろうが、チャンスがあるなら帰る。それが真穂の望みだった。


ふと、幸太が真穂の手を握る。


「リマの木、本当に桜に似てるな」


「え!?あ、そ、そうだね」


「リマの木だろうが桜の木だろうが、皆で見られたら最高だ。そう思わないか?」


幸太の言葉が、じんわりと真穂の胸に染み渡る。

「うん」


「ひとまず!頑張って任務をこなそうぜ!で、成功したらリマの木の下でお花見だ。

エレナやゴートン、バーサル、皆呼んで楽しもうぜ。

で、帰ってきた夢芽に自慢話だ」


「何それ」

おもわず笑いが噴き出る。


「いいんだよ。あっちはきっと旅先の自慢話してくるだろうから、自慢話合戦といこうぜ」


「うん、そうだね。なんだったら武勇伝合戦も付け加えよう」


「いいなそれ!」


会話と共に空気も軽くなる。

同じように足も軽くなったような気がして、2人は再度笑い合い歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ