出撃
「バーサル研究員からの報告だ。侵入者チアによって龍神が連れ去られた。それに加えチアは、龍神の力を得た可能性が高い。
そこで、君たちに助力を願いたい」
ゴートンは幸太と真穂、両名を真正面に見据え、騎士らしく凛とした声で告げた。
幸太と真穂は、自室にいた所を急に呼び出された。
雰囲気からして軽い話題ではないだろうと予測してはいたが、どうやら勘違いではなかったようだ。
ゴートンの、騎士団さながらの迫力に押されそうになりながらも、幸太は恐る恐る問う。
「話の流れ的に、龍神奪還作戦に参加……みたいな感じですか?」
「いやそうじゃない。君たちには、王宮に忍び込んでもらいたいんだ」
「「はぁ???」」
ゴートンの言葉は予想だにしないものだった。
その為2人から思わずでた返事は、その場にそぐわない妙にコミカルな声になってしまった。
「バーサルの話では、龍神は合意の上で教会へと向かったらしい。それではこちらが多少強引な手に出たとしても奪還は難しい。
今はチアがどのような力を得て、そしてそれがどのように使われるのかが危惧すべき所だ。
あまり考えたくはないが、龍神が国民の前に現れその名の下に好き勝手されるのも困る。
だがそれすらも、早急に動くべきか、どう動くべきかは慎重にならなければならない。
よって、龍神とチアは騎士団の諜報部隊が監視し、様子をみる」
「ん〜〜〜」と、幸太は考え込み、頭に浮かんだ結論をそのまま口にした。
「なんかもっともな言葉並べてるけど、今んとこ何も打つ手なしって言っているようなもんなんじゃ……」
「幸太、そういうことは心の中でだけで言ったほうがいいよ」
ゴホン
真穂は小声でたしなめたが、ゴートンにはしっかり聞こえていたようで、わざとらしく発した咳払いに、幸太も真穂も「「すみません」」と口をそろえて縮こまった。
「まぁ、いい。
君たちが言うように、打つ手がないからと言って、何もせずに手をこまねいているのも癪だ。
そこでだ。向こうが今こちらが動くとすれば龍神奪還と考えているであろうことを利用させてもらう」
一息つき、話を続ける。
「国王が国民はもちろん、議会、騎士団の前に姿を現さなくなってずいぶん経つ。表向きは体調不良ということだが、詳細は分からない。
国王直々に会っているのは王妃と巫官士だけ。何かが起こっていると考えるべきだろう。
先ほど言ったように、教会は龍神の警護を優先した動きをすると予測している。
君たち2人には、そのスキに王宮に忍び込み、国王の現状を暴いてもらいたい」
「そんな大役、できるでしょうか」
「もちろん、危険を感じたら即座に退却してかまわない。責任をおわせる気もないから安心したまえ」
「……………………………。
僕たちが逃げ出すとは考えないんですか?
僕たちの生きている世界では、殺し合いも偵察行為も非日常だと、話したことがあったと思います」
日本での日々を、わざわざ話したというわけではない。
ほんの些細は日常会話の端々、それを総合すれば、日本という国はいかに平和で、2人がいかに甘やかされて生きていたかが、頭の良いゴートンには理解できていただろうと、真穂は考えた。
その考えは間違ってはいなかったようで、ゴートンの表情には、特段驚いた様子は見えず、むしろわざとらしいくらいに軽く返事をされた。
「ああ、そういえばそんな他愛もない雑談をしたこともあるような気がするな。
勘違いしないでほしい。こちらの世界だってそんなものは非日常だ。
私が君たちにお願いするのは、君たちを信頼しているからだ。
中途半端に投げ出すような人間ではない。それに、君たちはキッカケを欲している」
「キッカケ?」
「龍神との約束を達成するには、何かしらの後押しが必要なんじゃないのかい?」
確かにその通りだった。
誰かと強く繋がろうと、強くなろうと、ゴールが分かっていても、どう動けばそこにたどり着くのか、目の前に広がる漠然としたものしか分からず、道が見えず立ちすくんでしまっていた。
そんな2人の現状を見抜かれていたのだろう。
何かしなければ変われない。
王宮に侵入することが、ゴールにたどり着く道なのかは分からない。
それでも、何もしないよりは刺激になる。
他に妙案も思いつかない。
『君たちは逃げない』という信頼を発することで、その期待を裏切りたくはない、そんな気持ちがムクムクと心の端から湧いてくるような気がするのは、彼が2人にはかけた言葉巧みな呪いでもあるようにも感じたが、意地になってそれをはね返すことは得策とも思えず、結局2人の答えは決まってしまっていたのだ。
「わかりました」
「期待しているよ」
決意の中に少し不安をのぞかせた返事。
それを分かった上で、満足そうにゴートンは笑った。




