ep16-5 出番よ秘密兵器! マギーファウルハイト!
「やった、の……?」
「カレッジ!」
もうもうと煙が立ち込める中カレッジの漏らした呟きにブリスが咎めるように声を掛ける。ふふ、わかってんじゃないブリス、そう、この状況においてその言葉が発せられた時、結果は大抵――。
「あ、ああっ!」
本気であたしがやられてしまったと思ったらしくガックリと膝をついていたヴァーンズィンの瞳が大きく見開かれる。彼女の視線の先には、今まさに晴れゆく爆発の煙の中に立つあたしの姿があった。
しかし……。
「なんだ、そりゃそうだよね!」
二ッとカレッジが口元を歪める、彼女の視線の先のあたしは何というかもうボロッボロ、元から露出度の高い衣装は至る所が破れ大事な部分が見えそうになっているし、息は絶え絶えでフラフラと立っているのがやっとという状態なのだ。
「あれに耐えたのは凄いけど、もう満身創痍って感じね。今のあなたなら次の攻撃で確実に倒せる! 消耗は激しいとはいえ通常版のバニッシュシュートなら後一発くらいは撃てるわ!」
再びステッキを構えるブリス。
「させませんよぉ!」
ヴァーンズィンが阻止しようとするも、「おっと! あなたの相手はアタシだよ?」とカレッジに邪魔され思うように動けないようだ。しかし、あたしは気づいていた、ヴァーンズィンの口元がニイッと歪んだことに。
あたしは一言も発さないままただ息を整える、観念したと思ったのかブリスが再びステッキを振り上げ攻撃態勢に入った、刹那――
「クロウ・クロー……」
ボソッとダジャレ染みた台詞がどこからともなく聞こえたかと思うと、ブリスの右肩からいきなり血が噴き出した!
「きゃあああああ! な、なに!?」
突然の出血にブリスが狼狽える。それを見たあたしは会心の笑みを浮かべた。
「オプファーが何か……!? いや、あいつは動いてない! なら、ヴァーンズィン、あんたが……!?」
カレッジも狼狽した様子でヴァーンズィンに問いかけるが、その行動は大きな隙となりヴァーンズィンが繰り出した爪の一撃を左の腿に受けてしまった。
「ぐうっ!」
短い悲鳴を上げて地面に倒れ伏すカレッジ。
「カ、カレッジ……」
肩を抑えつつも手を伸ばすブリス、そんな魔法少女らの頭上からひらひらと舞い落ちてくるものがあった。それは真っ黒い羽だ、まるで彼女らの終焉を告げる天使の羽のようにも見えるその羽を浴びながらブリスとカレッジが顔を上げるとそこには――
「な、なんなの……あの子……」
ブリスが呆然と呟く、それも当然だ、そこにはもう先端しか見えない夕日に照らされた昏い空で翼を広げるマギーファウルハイトの姿があったのだから……。
「やったぁ! ファウルハイトちゃん!」
ヴァーンズィンがパチパチと手を叩きながら喜ぶ、あたしもにっこりと笑いファウルハイトに声を掛けた。
「最高のタイミングだったわ、ファウルハイト!」
「待たせすぎ……もう少しで眠るとこだった……」
くあああっと大きなあくびをしながら大量のカラス(とクリッター)と共にファウルハイトは静かに地面に降り立つ。
「というか、ホントに寝てたクリ。僕が叩き起こさなければあのまま睡眠タイム突入だったクリよ?」
「そ、そうなの……」
あ、あぶねー! 危うく計画がおじゃんになるどころか、あたしの暗黒魔力が消される瀬戸際だったわけね、しかもその理由がファウルハイトの睡眠欲のせいでは死んでも死にきれない。まあでも、結果オーライ、先ほどの攻撃で受けた傷の痛みも今は心地よく感じる、魔法少女どもが恐怖に慄く表情を見ていると何とも言えない満足感に満たされていくのだ。
「あ、新手の……暗黒魔女……!?」
カレッジが信じられないものを見るような目でファウルハイトを見つめる。ブリスもまた肩を抑えたままじっと彼女を見据えていた。
「その通り! 彼女は――」と言いかけやめる。そしてあたしは改めてファウルハイトに向けて言った。
「せっかくのデビュー戦なんだし、ここは一発あんた自身の口から自己紹介をしてもらいましょうか?」
「……」
あたしの言葉に彼女はじっとあたしを見つめる。え? なんかあたしマズいこと言ったかしら……?
「……めんどくさい……」
しかし、ファウルハイトが返してきたのはそんな呟きだった。まあ、彼女のキャラなら予想できた答えだったけど。でも、ここは一つ頑張って欲しいところなのよ。
「いいじゃないですかぁ。センパイはファウルハイトちゃんに華を持たせようとしてるんですよぉ。ここはセンパイの厚意を汲んであげましょお?」
助け舟を出してくれたのはヴァーンズィンだった。彼女がにこにこと笑顔を浮かべて言うとファウルハイトは「二人がそう言うなら、わかった……」と言って一歩進み出た。
「私は……マギーファウルハイト。最近アントリューズに加入した三人目の暗黒魔女。よろしく……」
いつもの淡々とした口調で名乗りを上げ、ぺこりと頭を下げるファウルハイト。その様子に緊張の色は一切なく、むしろリラックスしているようにすら見える。対するブリスとカレッジは警戒心を露わにしている。
「私はうるさいのが嫌い……ずっと静かに眠っていたい……だけど、今の世界はうるさすぎる……眠れない……アントリューズが作る世界なら、私は静かに眠れる……だから、それを邪魔するあなたたちを倒す……」
「ふん、よくもぬけぬけと! そんな理由で世界征服に手を貸すっていうの!?」
カレッジが憤慨した様子で叫ぶ。それに対してファウルハイトは首を傾げた。
「眠るために、世界を変えたいと思うことの、どこがいけないの……?」
「全部だよ!!」
すかさずツッコミを入れるカレッジ。
「とにかく、あんたがどんな思想を持っていようが関係ない! あんたはオプファーとヴァーンズィンと同じ悪の組織の一員なんだろ!? だったら問答無用で退治させてもらうよ!!」
そう言うとカレッジはステッキを取り出そうとするが――バシッと彼女の手を黒い影が襲う。
「……っ!」
「紹介が遅れたけど……この子たちは私の友達……知り合ったのはさっきだけど、快く協力してくれるって……」
「くっ、カラスか……」
ファウルハイトの言葉にカレッジが忌々しげに唸る。そう、ファウルハイトをサポートするために集まった大量のカラスたちだ。
「それがあなたの能力ってわけね!」
「まあ、そう思ってくれて、いい……」
ファウルハイトの口調には力を誇示しようとかそういう意志は見られない。ただ淡々と述べるだけ。先輩魔女、そしてリーダーとしてはちょっと癪だが圧倒的な強者感がそこにはある。それはともかくとして……。
「さあ、お喋りはここまで、カレッジ、そしてブリス、こっからが本当の戦いよ? あたしやヴァーンズィンは確かにダメージを受けているけれど、あんたらの消耗はそれ以上、ファウルハイトもいるし、こっちが圧倒的有利に立ったわ」
「それがあなたの狙いだったのね、さっきもわたしを消耗させるためにあえて……」
まんまとあたしの作戦に乗せられてしまったことが悔しいのかブリスが悔しそうに唇を噛みしめる。そうよ、あんたたちのその表情こそあたしの求めていたもの。もっと見せて欲しいわ。
「ちっ! よくよく思い返してみれば、ずいぶんな大根演技だったのに気づけなかったなんて……!!」
カレッジも忌々しげに舌打ちしている。ああ、なんていい気分なのかしら。
「キャハハ! 今更後悔しても遅いですよぉ? というわけでカレッジさぁん、ヴァーンズィンとの第二ラウンドと行きましょうねぇ♡」
言うが早いがヴァーンズィンは地面を蹴りカレッジに向かって飛び掛かる、「うああっ、ブリス! 気を付けて、こいつら今度こそ本気で来る……!!」と叫びながら辛うじて攻撃をかわすカレッジ。
「ヴァーンズィン、もう遠慮はいらないわ、思いっきり派手にやっちゃいなさい! 魔法少女どもを徹底的にぶっ潰すのよ!」
「了解しましたぁ!」
あたしの言葉に元気よく返事をするヴァーンズィン。カレッジは彼女に任せておけばいいだろう。さて、こちらは……。
「念のために聞くけど、降参する気はない? 魔法少女を辞めると誓い、二度とあたしたちの前に現れないというのなら命だけは助けてあげてもいいわよ?」
ブリスに向けてあたしは訊ねる。だけど、当然ながら彼女は首を縦に振らない。
「わたしは負けない、諦めない。あなたたちなんかに屈するくらいなら、死んだほうがマシよ……!」
「そ、残念だわ」
あたしはダークスティックを構え直す、が。
「オプファー……やせ我慢してるけど、さっきのブリスの攻撃は相当効いてる……ここは私に任せて……」
ファウルハイトが横から口を挟んでくる。確かにブリスの攻撃で受けたダメージは大きい、これ以上の無茶はできないかもしれないけど……。
「心配しなくてもトドメはオプファーに譲る。勢いあまって殺してしまうほど、不器用じゃないから……」
どうやらあたしの心情を察したらしいファウルハイトが言葉を続ける。
「わかったわ……」
あたしは渋々了承する。ファウルハイトのおこぼれに預かるみたいで嫌だと思いもするが、どちらにせよ、ファウルハイトの助力を得ている時点で変わらないと思いなおす。ちっぽけなプライドよりも今優先すべきは確実なブリスの抹殺だ。無理をして万が一あたしがやられるようなことにでもなれば総崩れということもありえる、二人は戦闘力こそ高いが状況判断能力はまだまだ甘くあたしがコントロールする必要があるのだ。
「あなたは手を出さないつもりなのね? それとも、手を出せない?」
ブリスが挑発するようにあたしを見る。悔しいが今戦えばおそらくあたしは負けるだろう。でも、心配はいらないわ、なぜなら……。
「お喋りはもういい……。私は早く終わらせて、帰りたい……」
そう、ファウルハイトがいるのだから!
「そう、あなたには聞きたいことがたくさんあるわ。だけど今は……! 行くわよ!」
言うが早いかブリスはステッキを振りかざすと高速で突進する!
「ファウルハイト、消耗しているとはいえブリスは強いわ。油断しないでね……」
耳元で囁きあたしはその場から離れる。ファウルハイトが視線を向けるのはブリスの右肩だ、そう、先ほどのファウルハイトによって切り裂かれたはずの部位。ブリスは喋ってる間に回復させていたのだ。
「オプファーが苦戦するのも当然……万全ならきっと私は勝てない……でも……」
激突が始まらんする中、あたしは一直線にある方向へと向かう。そこでは見物を決め込む珍生物の姿があった。
「クリッター! あんたの魔力、あたしに注ぎなさい!」
「な、なんで僕がそんなことしなきゃならんクリ!?」
「ブリスを確実に倒すためよ、ほれほれ、手を握る!!」
「ク、クリイィィィ!!」
逃げようとするクソッタレ妖精を捕まえ強制的に魔力を吸い取る、流れ込む魔力を感じながらあたしはブリスとファウルハイトの戦いへと視線を向けた。
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