ep16-6 暗黒魔力全開! 魔法少女絶望の戦い!
「あはぁ……♡」
あたしは思わず陶酔の声を漏らした。クリッターから流れ込む暗黒魔力は実に甘美だ。小さな体と可愛い見た目にはまるで似つかわしくないどす黒く濃厚なエネルギーが握った手から流れ込みあたしの体内に染み込んでゆく。
「あばば……魔力が……魔力があぁぁぁ! オプファー! そろそろやめるクリ! 僕死んじゃうクリィィィ!」
何を言ってんのよ、まだまだ余裕があるくせに。わかってんのよ? あたしにはちゃーんとね。
「まだ足りないのよ! 吸収するのは生命維持に支障がないレベルにとどめてあげるから安心してあたしに魔力を注ぎなさい! あんただってブリスを始末したいでしょ!?」
「ク、クリィ!? 何言ってるクリ!? ブリスは正義の……そんなこと……ち、違う、そうして欲しいクリけど……。ぼ、僕は……グ、グリィィィ!! もうわけがわからんグリィィ!!」
普段のいいように扱われていることの仕返しとばかりにあたしはグイグイとクリッターから魔力を吸い取る。命には別条はないとはいえ魔力を強制的に吸われるというのはなかなかキツイ。おそらくクリッターは今、掃除機を口の中に突っ込まれ内臓を吸われているような感覚に陥っているはずだ。口から出る言葉も支離滅裂になってきているようだ。
それとは対照的に、あたしの魔力は回復し充実していく。
くふぅ……これが、惑星プレイヤの同胞たちを皆殺しにした悪魔の妖精の力……! 本当に凄い、本当に……。まるであのドリンクを飲んだ時のような恍惚感。それにどんどん思考もクリアになって行く、心のどこかにあった迷いが洗い流されていくようだった。
「オプファー! 止めなさい! その子様子がおかしいわよ!?」
ファウルハイトの相手をしながらもこちらの様子が気になるのか、ブリスがそんな言葉を投げかける。全く、反吐が出そうな聖人ぶりね、敵に心配までしてくれちゃってさ!
しかし、あたしが言葉を返すまでもなく、ファウルハイトが「あっちを気にしてる余裕は、あなたには、ない……」と冷酷に言い放つとブリスに鋭い蹴りを見舞う。「きゃあっ!」 咄嗟にガードしたものの、衝撃に耐え切れず後方に吹き飛ばされるブリス。
「ブリス! くっ、あんたはオプファーを止めなくてもいいの? どうも様子がおかしいみたいだけど?」
「あなたもお優しいんですねぇ。クリッターちゃんのことならご心配なく、見た目以上にタフなのでぇ♡」
カレッジがヴァーンズィンに問いかけるが、彼女はそう答えるとクスクスと笑う。その返答にカレッジはチッと舌打ちをすると、「相棒のはずの妖精が嫌がってるのに魔力を無理矢理奪って回復なんて、やっぱりあんたらは悪そのものだよ……!」と吐き捨てるように言った。
ふんっ、妖精と良好な関係を築いてる正義の魔法少女らしい考えね。あたしにとってこいつは魔法少女詐欺でもって悪の道へと引き込んだ張本人の怨敵よ? この程度の扱いで済んでるだけでも感謝して欲しいくらいだわ。
――まあ、普段だったら明らかにいつもと違う反応を見せてるクリッターを少しは心配したりしたかもしれないけど、今のあたしは完全にブリス抹殺モードに切り替わっていたのだ。
「カレッジさぁん、あなたが心配すべきなのはぁ、クリッターちゃんでもブリスさんでもなくぅ、あなただと思いますよぉ?」
言ってヴァーンズィンはクルッと体を一回転させる。
「んあっ!?」
ヴァーンズィンのお尻から伸びる虎の尻尾がカレッジの体を絡め取り拘束する。おおっ、こんな技も持ってたのね! あの尻尾、ただの可愛いアクセサリー的なもんだと思ってたわ。
しかもどうやら自由自在に動かせるらしく、パワーもかなりのものらしい。獲物を狩る肉食獣の尾がカレッジの肢体を締め上げる。
「くうぅっ! し、尻尾ぐらいで……」
苦し気な声を上げるカレッジ。だが、その程度でヴァーンズィンは容赦しない。それどころか、さらに強く締め付けた。ミシミシと骨が軋む音が聞こえてくるような錯覚に陥るほどだ。
「さあ、このまま絞め殺してあげますよぉ!」
(ヴァーンズィン、油断するんじゃないわよ……)
あたしは内心で呟きつつ、視線をブリスたちの方へと移す、ブリスはとっくに起き上がり繰り出されるファウルハイトの猛攻を捌いている。
「やっぱり……訓練と実戦とじゃ、勝手が違う……それに……明らかにデータより強い……!」
ファウルハイトは攻撃の手を緩めることなく次々と攻撃を繰り出しているが、ブリスはそれら全てを捌いていく。
「だけど……防いでるだけじゃ……私には……私たちには勝てない……」
カア! カア! と不気味な声を上げて飛び交う大量のカラスたち。ファウルハイトが操っているのであろうそれらが援護射撃を行う。まるで無数の槍衾のごとく全方位から襲い来る漆黒の鳥たちにブリスは防戦一方となっている。
だが――
「くっ、このカラスたちを何とかしないと……! こうなったら使うしかない! マジカルバニッシュシュート!」
一瞬の隙を突きブリスは魔力を振り絞りステッキから暗黒魔力を消し去る光を発生させカラスの群れ目掛けて放つ!
まずいっ! カラスたちが無力化されてしまう。これでブリスはもうバニッシュシュートは撃てないがカラスを失ったファウルハイトではブリスの体術だけで手一杯になるはず……。
そう危惧するあたしだったが……。
「残念だけど、それ、無理……」
ファウルハイトが呟くと、バニッシュシュートの直撃を受けたはずのカラスたちが何事も無かったかのように彼女の周りに集まってくる。
「そんな!? 暗黒魔力は完全に消し去ったはずなのに!?」
驚愕の声を上げるブリスに対し、ファウルハイトは無表情のまま淡々と言葉を続ける。
「あなたも、そして多分オプファーたちも勘違いしてる。私はこの子たちを操ってなんかいない……」
「え……?」
なんですと? 思わずあたしもブリスの声に合わせるように目を見開く。一体どういうことなの? ファウルハイトの言葉の意味を考えているうちに、彼女は説明を続けた。
「最初に言った、この子たちは友達だって……。この子たちも私と同じ……うるさいものが嫌い、わかる、でしょ? その中には人間も入ってる、つまりこの子たちは人間が嫌い。私はただお願いをしただけ、人間を困らせたり傷つけたりするのに協力してほしいって……。みんな快く協力してくれた……。だからこの子たちは私と一緒にいるだけで操ってなんかいない、バニッシュシュートの効果の対象外……」
「くっ……そんな……」
ブリスが悔しそうに歯噛みする。な、なるほど、だから……。
あたしは、戦闘開始前にファウルハイトがカラスたちのオドモンスター化に反対していた光景を思い返していた。
暗黒魔力は宿さない、しかし、ファウルハイトの指示に従い敵を攻撃する獰猛なカラスたち、暗黒魔力の浄化によって敵を無力化することを得意とするブリスにとってこれ以上厄介な相手はいない。
ブリスのバニッシュシュートは暗黒魔力そのものを消し去る浄化の技であって、純粋な攻撃能力は無いに等しいのである。直撃されたところでただのカラスからすれば静電気で痺れた程度の影響しか受けないだろう。
「なんで……そんな……」
ブリスは青ざめた表情で後ずさる。おそらく、信じられないのだ、カラスたちが自らの意思で人に危害を加えていることが……。
「ブリス……あなたは正義の魔法少女……だけど、その正義はあくまで今世界を支配している一部の、声が大きい、うるさい人間たちだけの都合のいい考え方。私やこの子たちのように静かで、モノが言えない者にとっては迷惑でしかないの……」
「それは……でも……」
ブリスは言葉に詰まる。何とか反論しようと考えを巡らせているようだが、いい案が浮かばないのか沈黙してしまう。
「とにかく、あなたはもう終わり……。あなたを倒して、世界を変える……!」
ファウルハイトはそう宣言すると、カラスたちと共に一斉に襲い掛かった!
「確かに、あなたたちに迷惑をかけている人間もいるのかもしれない。怒ったり憎んだりする気持ちも理解できるけど……それでも、そうやって誰かを傷つけていいことにはならないっ!」
力強く宣言し、ブリスは手刀でカラスを叩き落とした。
「!?」とファウルハイトがいつもの眠そうな目を見開く。
「友達を傷つけられて怒った?」
二ッと不敵な笑みを浮かべブリスが挑発する。
「別に……戦いなんだから、それはいい。ただ少し驚いたの……。あなたは偽善者だから、動物を傷つけるなんてことできないと思っていた……」
「言ってくれるね。だけど、そんな甘い覚悟で魔法少女やってるわけじゃないの。どんな理由があろうとも、人々の幸せを壊す相手なら、事情があろうが動物だろうが、容赦はしないっ!」
「……そっか」
ブリスとファウルハイトが睨み合う、しかし、すぐに動いたのはファウルハイトだった。
「少しだけ、見直した……。でも、だからこそ、倒す意味がある」
ドンッ! と地面を蹴り、ファウルハイトが跳躍する! それに合わせるように飛び上がったカラスたちが一斉にブリスに襲い掛かる。ブリスは先ほど叩き落としたカラスをむんずと掴むとそれをカラスたちの目の前に突き出した!
ギャアア! ギャアアア!! カラスたちが一斉に騒ぎ始める。仲間の惨状を見て驚いたのだ。その隙にブリスは一気に加速し、カラスたちの群れを突破する。
ブ、ブリスってばけっこーえげつない真似を……。開き直ったわね……。
「ショックウェーブ!」
「散開!」
ファウルハイトが腕を振り上げると、それに従いカラスたちが四方八方に散って行く。しかし、その多くはブリスの放った衝撃波に巻き込まれてしまい地面に落下していく。
やはりあくまで普通のカラス、耐久力は低いわね。先ほどとは逆に暗黒魔力を与えていないことが仇となった形ね……。
「ごめんなさい……。だけど、あなたたちの犠牲は無駄にはならない……ファントムブリット……!」
ファウルハイトの掌に光弾が出現する、そして彼女はそれを放った。
ブリスはそれを受け止めようとするが、その寸前で光弾は破裂し無数の粒子となって雨のように降り注ぐ!
「くっ!」
思わず両腕で顔を庇うブリス、その隙を突いてファウルハイトが接近する。そして拳を振りかぶった。
「しまっ……」
とブリスが声を上げるが既に遅かった。ファウルハイトの拳がブリスの鳩尾にめり込む!
「がはっ……!?」
肺の中の空気を全て吐き出してしまい、ブリスは苦悶の表情を浮かべた。しかし、ファウルハイトはそこで止まらなかった。さらに連続でパンチを叩き込み、最後に回し蹴りを放つ。
「ごふっ……!」
蹴り飛ばされたブリスは地面を転がって行く。そのまま仰向けに倒れ込んでしまう。
「まだ……まだ、負けてない……」
フラつきながらも立ち上がるブリス。しかし、その顔からは血の気が引いており、立っているのもやっとといった様子だった。
「……これで終わり……」
ファウルハイトが無慈悲にもトドメを刺すべく駆け出そうとする、って――
「ちょっと待ちなさいよ、ファウルハイト! それはあたしの役目でしょうが!」
思わずあたしが抗議の声を上げると、ファウルハイトはキキッと急停止し振り返る。
「ん、そうだった。忘れてた……」
そしていつもの眠そうな目を細めると小さく笑った。
「もう、しっかりしてよ!」
「でも、回復は……終わったの?」
「もちろん、こいつのおかげでね」
言いながらあたしは干からびしわくちゃにしぼんだクリッターをポイと投げ捨てた。
何とも無残な姿だが、あくまで一時的なもの、どうせ基地に戻ってご飯を食べれば治るような単純構造の生命体なので問題ない。もし本気でヤバかったらマリス様に頼んで魔力を注いでもらえればいい。あの方は魔法少女を倒すための必要な犠牲と笑って許してくださるだろう。何よりこの馬鹿は一度きちんと痛い目に合わなきゃ分からないだろうからこれでいいのだ。
あたしはすぐにクリッターから視線を逸らすとゆっくりとブリスに向けて歩いて行く。
「さーて、ブリスぅ、いよいよあんたの終わりの時が来たようね。バッドバットメンから続くこの戦いでもうあんたの魔力は限界、それと引き換えにあたしは魔力を回復して今や万全の状態、ふふふ、ここからの逆転なんて、無理よ無理。仮にアニメだってご都合主義とでも言われかねないわね」
そう言いながらあたしはダークスティックを振るい鞭状態の先端をブリスにビシリと突きつける。
「オプファー……あなた、またちょっと雰囲気変わったみたい……?」
「そうね、今のあたしは最高に機嫌が良いのよ。クリッターの魔力を吸い取ったことで力が漲ってる感じでね。さっきまでのあたしとは一味も二味も違うわ。もちろん、強さの面でね……」
あたしはそう言って妖艶に微笑むとダークスティックを長く伸ばしそれにエネルギーを纏わせた。
「ダークブレードとでも名付けておこうかしら? これが今からあんたの体をズタズタに引き裂くのよ? どんな気分かしら? ねえ? 怖い? 恐ろしい? ああ、楽しみだわぁ……。あんたの恐怖に歪んだ顔を想像するだけでゾクゾクしちゃう♡」
あたしは舌なめずりをしながらゆっくりと近づいて行く。しかし、ブリスは気丈にもあたしを睨みつけている。その姿に思わず苦笑してしまう。まったく、健気なものね。
「さあ、覚悟はいいかしら? それじゃ、始めましょうか……」
あたしはダークブレードを振り上げた。
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