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七話 真実とは、失って初めて顔を出すのだ。










「客ごとトドメを刺すべきだった」


客諸共消し炭に変えても不思議ではない竜殺しが律儀に待っていた理由の大半は承認要求に起因している。


「例え、陳腐な喝采を送る観客を削ってでもな」


「妄想の域を出ない希望に縋るとは、滑稽だ。」


客席で手に入れた酒瓶を勢い良く放つと、簡単な武器の使用も想定済みなのか、竜殺しは次の予備動作にへと澱みなく入る。


「希望?」


迎え撃つ魔法に、俺はこの身一つの脳死の突撃で対抗する。想定外の行動に距離感を見誤った雷撃は、地面を虚しく打ち砕くに留まる。


「反吐が出るね!」


飛び出した勢いを殺すことなく、砕け散った酒瓶諸共拳を握る。染みるアルコールと悪臭に口がへの字に曲がる。


「《二連》」


身の丈を超える出力から、極限まで圧縮した魔力の塊が鋭利な形状を象った。


「《雷の槍》」


一発目は迎撃に、続く二発目は意識外への潜伏を狙ってか、土煙を巻き上げながら側面を滑空する。小規模の爆発を推進力に、魔法の勢いは更に増す。


(考えている暇はない)


意識を切り替えて、円を描くように走った。追尾し、目前に迫る圧倒的な質量に身を屈める。


「《弾け飛べ》」


その合図を引き金にして、躱した筈の魔法が至近距離で炸裂した。


「っっ!!?」


同時に身を引き裂く破片を撒き散らす二段構えの衝撃に、為す術もなく身を投げ出す。肉体が訴える危険信号に視線を這わせると、露出した内臓が体外へと飛び出し続けていた。


「《穿て》」


失った内臓を掴む暇もなく脇腹には灼熱が加わる。


「うげぇっ」


到達した本命の二発目が、俺の内部を通過したのだ。突き抜ける怒号の裏で悲鳴が木霊した。優先的に内臓の回復に努めながら出処を確認して、反吐が出る感覚が脊髄を駆け巡った。


「最高だぜぇー!」

「金が落ちてやがる!」

「今日は運がいい!」


魔法の余波によって地獄へと姿を変えた観客席にへと、五体満足の人間が安全圏から瓦礫の山に嬉々として殺到していたのだ。


「死んだヤツに金は必要ねぇよ!とっちまえ!」

「すげぇっ!金が湧いてやがる!!」

「てめぇ、こいつは俺が先に拾ってんだ!触るんじゃねぇ!!」

「うるせえ、引っ込んでろ!」

「独り占めしようってのか!?ふざけんじゃねえ!!!」


聞くに堪えない不協和音を漏らす羽虫共が、肉片で着飾った墓石を何の躊躇もなく荒らし回っている。中には啀み合い、殺し合いにまで発展している愚か者も出始めて始末に追えない。


「余所見をしている場合かね」


再生する前に、捉えられた追撃が脳天を貫く。痙攣する肉体に主導権を奪われ、抵抗力する余力でさえも貫通して無様を晒す。僅かに残った鼓膜を、羽虫の不協和音だけが劈く。


「ころす!」


肉体の主導権を強引に引き摺り戻して、まるで見せ物小屋を鑑賞するかのような、巫山戯た視線にへと凶悪に剥いた眼球を投じる。


「ミンチにしてやっても、分からないのか?」


身を連ねる伸縮に抵抗した指先は生々しく皮膚を喰い破っていた。


「つくづくイラつく奴らだ。少しは学べよ、このクソ野郎共がー!!」


眼下の火事は己への戒めにへと費やせ。俺を嘲笑ったゴミは、一匹残らず地獄に送ってやる。


「ぐるあああっ!!覚えたぞ、おまえら全員の舐め腐った顔はなああ!!!」


身を抉るような咆哮も、所詮は実体のない情念。目の前の紙切れに、目を輝かせるような伽藍堂の鼓膜を震わせることはない。


「金だ!金だあ!」


「ぶっころしてやる!」


轟く雷鳴から、身を投げ出すようにして躱した反動で溢れ出す内臓を強引に中へとぶち込む。


「やめておけ、臓器がまろび出ている。血の海でのたうち回ることになるぞ」


不愉快な景色を映す眼球から噴き出した熱が脳天を突く。


「この俺に、指図するんじゃねえっ!!」


這い蹲って何になる。誇りを捨てて敵に傅くことが正解なら、俺はこの世の法則を何一つとして信用することが出来なくなる。


「皮が飛んで、腸が露出した。手足が痙攣し、頭蓋が震えた。勝負は既に決している。だから、首を括って清く死ねと?何の冗談だ。」


隙間から顔を出す臓器を肋骨内に収めて、捲れ上がった皮膚を繋ぎ合わせる。何回殴られ、焼かれ、斬られようとも、敵が待つ闘争の舞台にへと血を噴き出しながら地を這ってでも向かう。


「醜い……貴様の回復力は一種の呪いだな。まるで第三者が、黄泉への旅路を阻んでいるかのように思える」


「この不死性が、まるで第三者に与えられた泡銭とでも言いたいのか?」


「常軌を逸した権能に、何者かの介入を疑わざるをえないと疑問を呈したまでだ。」


「この俺を肥えた家畜と同じ尺度で図るのはやめろ。」


癒着し合う皮膚の回復を阻害するように隔てる破片は、摘むと光を反射した。


「不愉快だ」


盛り上がった筋肉が有機物を体外にへと自動的に選別して放出する。肉片に塗れた破片がゴロゴロと皮膚を裂いて転がる。その常軌を逸した光景に、客席は吐き気を催すどころか歓喜に酔い痴れていた。


「すっげぇぇっ、再生力だァー!!肉体的損傷では、もはや!修羅を宿す悪鬼の精神に届くことはないとでもいうのかーっ!!?」


崩落した観客席に殺到していた羽虫の関心が、甘美なる実況に刺激され、再び矛先を闘争の行方にへと合わせ始める。


「棄権するべきだ」


「俺は、殺しに伴う凡ゆる不利益を了承している」


「何も、娯楽に命を賭ける謂れはないだろう?」


その醜悪な考えを都合良く他者に擦り付けることで、自らを肯定する屑の常套句に、『俺にはあるよ』と何処までも純粋な悪意が応えた。


「いや、思い出せ!何者でもない貴様には、失うものなど何もない筈だ!!」


「俺の世界には、二つの命がある。一つは尊ぶべきもの。もう一つは、優先的にぶっ殺すべき悪性腫瘍となる。俺は、後者には一切容赦しない。」


俺は、何を許容するべきで、何を許容するべきではないのかをよく知っている。答えとは、時に力となる。


「殺しが何かを履き違えることなく、弛まぬ信念を宿し、散る命があるのだとするのなら、俺は、




故に目の前の模造品は、自らの限界を叫ぶだけの意味を、俺に擦り付けようと模索していた。臓物を引き摺りながら前線にへと、小賢しい意図に構うことなく向かう。


「問答無用、とりあえず。その両脚、頂戴する」


信念の伴わない愚か者が繰り出す都合のいい茶番には辟易している。何より、所詮は楽な方へと流れているだけの蛆虫の懺悔など高が知れている。


「次も、無事でいられる保証は何処にも!」


まるで、地球人と相対するような違和感に唇が弧を描く。


「保証って、なに?地球人ジョーク?」


「私が、貴様の権利を保証してやると言っているのだ。」


「やっばり、屑が行き着く先はそこら辺になるんだろうねぇ。凶行に対する術に限界が近付けば、途端に愉快な面が顔出す。」


「大人しくしたまえ、見せ掛けの回復で客席は欺けても、対峙する私の目までは誤魔化せない」












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