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五話 ぶっ殺す









蓄積したダメージに朦朧としている肉塊を喰らわんと、甘美な感触を思い描く指先が迫る。


「まさか、《起動》することにはなるとはな。」


無防備だった脳天から、突如として降り掛かった眩い魔力の本流が全身を駆け巡った。


「悪魔に魂を売ったのが、貴様だけだとは思わないことだ。」


彼方へと飛んでいた意識が僅かに聞こえて来る不愉快な声音に、癒えることのない憤怒を現世に携えて顕現した。


「何が起こった。」


酩酊にも似た状態異常が緩和するにつれ、限界を訴える肉体の惨状を目紛しく知覚する。


「折れてたまるか」


一周する節々の異常な感覚に、構うことなく膝を奮い立たせた。


「まだだ、まだ俺は、戦える」


余すことなく肉体は爛れていたが、肝心の中身は機能不全を起こすことなく持ち堪えていた。混濁する意識の中で、二発目に備えて警戒心を巡らせる。


(あー、痛い痛い。しかし、追撃が来ないのはどういう了見だ?)


俺の肉体は、凡ゆるダメージを後遺症なく回復する自然治癒能力を持つ。故に、再生する猶予を与えるだけのこの都合の良い時間に疑問符を浮かべた。


「この千載一遇の好機に指をくわえて、どうした?」


暫し眼球を休ませて、束の間の時間を最大限に有効活用することにする。


「俺の肉体は、今も再生を繰り返している。俺の首を狙える瞬間は、この時を除いて他にない。挑発ではない。ただあとで許しを乞うて泣き付くお前が、ひとえに心配なんだ」


親切心から発した俺の忠告に、何の関心も示さない竜殺しの瞳の奥には確固たる自信が窺える。


「素晴らしい耐久性能に心を奪われていた。気を悪くさせたかね?」


突発的に内側から噴き出した業火が、俺の視界を悉く埋め尽くす。


「少し炙った程度で、この俺を下したと錯覚しているのか?」


憤怒が身を焦がすが、同時に抑え込む方法も知っていた。自然に走る手段を失えば、満足に殺しは行えなくなる。求めるべきは結果ではなく、肉を追い込む過程である。


「どうやら、許容量のないゴミが甘露を手にすると際限なく肥えちまうらしい。」


抉る痛覚に悶えながらも続投の意を叩き付けると、相対する者の瞳は不愉快な質感を纏う。ゴミに集る羽虫を払うかの如く振り下ろした指先からは五層に連なる斬撃が飛来する。


「ほう、躱すか」


肉を抉る必要最低限の手応えに、竜殺しは瞠目する。


「あの一撃も、常人なら消し炭と化しているのだがな。」


仮に敵へと届く牙を構築したとしても、無謀な反撃手段では絶え間なく血潮を飛ばす肉体が伴わない。柔軟性を失った皮膚が常に反吐が出る質感を訴え、不利益な軋轢を生む。


「どうも、貴様の肉体には好奇心を抑えられる気がしない」


「連発は、出来るのか?」


もし、意識を喰い千切ったあの魔法を自由自在に扱えるとしたら、俺に勝機はない。


「いや、出来るわけがない」


遠距離性能に乏しい自身に対する擬かしい思いを噛み締めて、何の保証もない希望で紛らわせる。


「答えは、既に出ているのではないかね」


遠距離だけではなく、帯電する魔法は接近戦でも牙を剥く。身を切る戦闘条件を総力戦から消耗戦にへと意識を切り替えたことで、盤面は防戦一方となる。


「いい判断だ」


臓物を駆け巡る烈火の情が、地面を舐めながらも、不協和音と化した賞賛に衰えることのない殺意を覗かせる。


「魔力を持たない劣等種族ということを加味しても素晴らしい。出来ることなら、代用パーツとして飼いたいところだ。」


想像力に乏しい凡人の目には、篩に掛けられた犠牲は疎かこの業火でさえも飛び越えて、目先の利益しか映っていないらしい。


「精神とは、肉体に直結する。俺という名の燃料なくして、この肉体が輝くことはない。」


「何らかの制約があるのか?」


「絶え間なく肉の底で遍く憤怒と自我を奪い合いながらも、一つの共同体として、構築した利害関係の中でこの業火を飼い慣らしている。何の憂いもなく拵えた甘露を貪るだけの蛞蝓風情に扱える代物ではない。」


「そうか、それは惜しいな」


帯電した魔力を伴う、指先を眼下に掲げた。悪寒が走り、的が絞られる前に地を蹴った。










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