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十四話 生首と狭間にへばりつく芸術的観点と









道化師Bの方へと向かい、鎖を掴むと同じようにナイフを入れる。角の生えた女は槍に体重を器用に乗せて鎖を断ち切っていた。


「持っていても扱えなかったら意味はないと僕は思うけどねー」


能天気に武器を持て余し、解決しない不満を零す未熟者に俺は爆弾を投下する。


「脱獄がバレた。腹を括れ、殺し合いが始まるぞ」


前提として、自由とは与えられるものではない。都合のいい幻想を信仰し、戦闘を放棄するのは勝手だが、その選択の先に愚か者共が宣う当然の権利とやらが伴うと思うなよ。


「もう終わりだ、逃げられない」


例え降参したところで、碌な未来は望めない。そんな簡単な答えですらも、肥えて歪んだ認知機能によって拒むのだ。


「ねぇ、もう諦めようよ。全部こいつがやったことだ、僕達には関係ない!」


目先の利益に目を輝かせる愚か者の宣う『暴力反対』とは、即ち。他者を生贄に、義務を放棄する行為であり、都合のいい理想を掲げる根っこには、必ずそいつの恥ずべき本質がへばり付いている。


「そんなに命が大事か?」


反射的に、愚か者は不快感を剥き出しにして吠える。


「お前のような狂人と一緒にするな!」


「どう喚こうが、乗り掛かった船から今更降りることは出来んぞ」


「それは何の了承もなしにお前が……」


俺には、例え生首だけになったとしても敵を噛み殺せる狂気が備わっているが、羊には降伏することでしか命を続ける術がない。


「皿に乗った生肉の意思を尊重する捕食者が何処にいる」


何処までも真理に寄り添った答えに、何者でもない肉塊は言葉を詰まらせた。


「少しは学べよ。今も然り、捕食者に運命を握られて、お前は何を得て来た。不条理に屈した結果、どうなった。鎖に繋がれ、醜態を晒して、満足か?敵を殺す牙なら既に握っているだろう。全てお前次第だ。」


「雑魚を何人殺したところで、どうせボスには敵わない」


下唇を突き出して、不貞腐れたようにそのナメた視線を腕にへと移す。


「既に深手を負っているじゃないか。所詮はそのレベルだったってことだ」


何の役にも立たない荷物風情が、下で腕を負傷したことを槍玉に挙げて自信の在処を問うて来る。


「震えていた蛞蝓風情が、大層な口を叩くようになったじゃないか」


耐久値を削る負荷と並行して、根元からナイフが砕け散った。跳ね返った破片を振り解くように、役目を失った柄を放り捨てる。


「任せて、私がやるよ」


見兼ねた角の生えた女の助け舟に応じて一息着くと、ガキの言っていた言葉を思い返す。


『今のアナタでは到底太刀打ち出来ませんよ』


どうやら幽霊にも面識があるらしい。


『悪戯に散らしては、何の為に契約に及んだのか分かりません。一旦冷静になって、先のことに焦点を当てるべきでは?』


「この俺に小賢しく売って、生き永らえろと言うのか」


握り締めた拳が燃えた。頭の奥が沈むような熱気と、臓物を駆け巡る不快感が綯い交ぜに鬩ぎ合い。ドロドロと熱した鮮度抜群のヘドロをぶち撒ける。


「この俺に指図するな。許容出来るものか。俺は、命を食らう行為に付随する意味を疎かにしたことはない。女共を生贄に命を繋ぐなど、俺の血肉となった者へ対しての冒涜に他ならない。俺は、要求や神にではなく、命に傅いているのだ」


行動には責任が伴う。都合の悪いガキを糾弾し、角の生えた女の好意的な解釈だけを許容し、悦に浸るような蛞蝓に生存する資格はない。巻き込むつもりはなくとも、結果的にそうなっている。地下で停滞し明日を拝む者の意見を、問答無用でぶっ壊した俺に糾弾する資格こそないが、身を削って救ってやる義理もない。但し、責任とは俺を構成する上で、俺が俺である為に不足してはならない、重要な要素の一つであることも紛れもない事実である。


「新入りは誰と喋っているの?」


煌々と燃え盛る業火を角の生えた女は上目遣いで伺う。


「答えにくいなら、別に答えなくて大丈夫だからね」


そう言って怯えを庇うように、顔を伏せた。束の間の自由だというのに首輪は未だ健在のようで、培った痛々しい鞭の痕跡が言動の裏に翳りなく見え隠れしている。


「そうか」


俺とは、性質の異なる家畜に憐れみの目を向けた。


『金と時間で解決出来ます』


角の生えた女はせっせと差し込んだ槍を捻って、鎖に負荷をかけて砕く。


『同僚に頼んでもいい、代わりにここを潰して貰いましょう。彼らもあと数日間耐えることが出来れば、自由の身です』


垂れ流す甘い蜜に、嘘臭ぇと目を細めた。幽霊の言動や理念と照らし合わせた結果、俺の中で即座に虚偽だと断定した。


「小癪な蛞蝓が頭の中を這っているだけだ、気にしないでいい」


親指を笑窪に添えて、指で唇を覆う。何が最善か、何を準備するべきかと先のことへ思考を加速させる。


「大丈夫?何か出来ることがあれば言ってね、力になるから」


這い寄る透明な荒縄に思考を妨げられ、余り経験のない感覚に陥ってしまう。首を押さえながら顔を上げると、角の生えた女が出迎える。悪意のない苦笑が印象的だった。双子が従順な道具なら、ガキは未熟者。そんな中で角の生えた女だけが、人の形を保っていた。俺の目に、肉ではなく人が映ったのだ。


「壊すよ」


了承を得て、鎖を捻じ切る。一貫して、状況に応じて準ずる角の生えた女の適応力には無二の価値を覚える。俺にはない特性だ。感心したような、讃えるような、そんな一過性の変化は深層意識へと溶け込んでゆき、一種の尊敬のような異物を無意識に抱える。


「アイツが来るとは思えない」


作業に没頭しながら、抱えきれない不安要素はなけなしの泥舟を共有することで、脆弱な人間性を同居人は支え合っていた。


「単純に考えよう、アイツは一つの根城に長居するタイプじゃない。無益に戦意を削ぐべきではない、力を合わせよう」


側でこうべを垂れて、無気力を晒す。見窄らしい姿を嘲笑う。


「遺言は決まったか?」


「うるさい」


啄けば露呈する愉快な反応を眺めながら久しぶりの自由を噛み締める。肉体が劣化したとは言え、代わりに縛りが消えたのは喜ばしいことだ。


「新入りは会ったことある?気を付けて、一人だけ危険な男がいる。金と気に入った女を独占し、不満を訴える者は鏖殺した。ここのボスだ。誰もその男には逆らえない」


前の俺ならいざ知らず、今となっては脅威でしかない。しかしだからと言って、俺の闘争心が衰えることは絶対にない。


「関係ない、枷はなくなった、全員殺す。生皮を剥がして、晒し首にしてやる。報復だ」


余裕とは強者の特権であり、力の伴わない殺害予告は雑魚が振り回したところで道化にしか映らない。そう、本来ならば。


「精一杯、サポートするよ」


「あぅーっ」


救世主を根底で渇望する同居人には、別の何かに見えているようで。道化の宣う虚勢も、現状ではトラウマや環境、妄想に苦しむ同居人を支えるかけがえのない精神安定剤になっている。弊害は支えを失ったら依存する愚か者共は容易く崩れ去ることだろうか。


『全滅しますよ』


滾る要求は鎮まることなく臨戦態勢を整えつつある。この衝動を抱えて、我慢するのは少しばかり骨が折れる。縛りのないシチュエーションで態々要求を抑え込む気などないのだが。


「迎え撃つ暇はない、腹を括ったなら行こう」


不意に入り込んだ粘着質な音が脳髄を擽った。毛の生えた物体が、驚愕に広がる同居人の眼球へと転がり込む。


「うそ、なんでアイツが」


絞り出すように喉を震わせる。まるで、培った常識が一夜にして根底から覆るような、漠然とした不自然な雰囲気。


「一体何が」


肉を打つような音を残す物体の正体は人間の頭部だった。だらしなく土を舐めており、恐怖を象った状態で時を止めている。同じ不安を共有する者共は一様に顔を見合わせ、無条件で全幅の信頼を寄せる者へ縋り付くように判断を仰ぐ。


「新入り……」


敵の攻撃に備えて臨戦態勢を整えつつも、不足している判断材料を理由に行く末を黙って見守る。


「良い顔じゃろ」


瞬時に場を打った声の出所へと眼球を踊らせる。


「生首」


そこには身の丈を超える背嚢を背負った闖入者が出口を塞ぐように、立っていた。背丈は低く、ボロ布から覗く年季の入った肌色は色褪せて、相応に窪んでいた。ドス黒く変色したボロ布からは絶え間なく濃密な殺しの残り香を放っている。


「金に目が眩んだ愚か者の末路としては、幸運じゃろ。私の作品になる名誉を与えてやったのだ。地獄で咽び泣いておるじゃろうて」


『金に目が眩んだ』と『作品になる名誉』と老婆が話すピースを断片的に紐解いて、思考を巡らせる。生首が何らかの組織に属しているのは明白で、眼下の老婆を上司と仮定する。組織の金と言われ、法によって扱いを禁じられた悪意の私物化に思い至る。差別化とは良くも悪くも利権を生む。そして莫大な金が絡む蜜を、浅ましい羽虫が見逃す筈がない。法にも勝る権力者の影に巣食って今も肥えている場合を想定し、想定を上回る組織の影響力に沸々と嫌な予感が膨らんでゆく。


「一人でやったのか?この男を」


咄嗟に口走って、生首の生前を知る同居人は血相を変えて、言葉にしたことを後悔する。


「くだらぬことを聞くな」


短い悲鳴が木霊した。絶対的な強者の何気ない所作に、脆弱な者は抗えない。


「いい表情だ」


与えられる畏怖の念に、老婆は薄汚れた口内を頗る上機嫌に晒す。たるんだ歯茎から細長く変色した歯が覗いている。


「なら、行ってもいいですか、ここの連中とは関係ないんだ」


「残念だが、逃がしはせん」


言外に告げられた処刑宣告に身を竦める同居人を置いて、好奇心の赴くままに生首へと至り、その髪を鷲掴む。


「……新入り?」


目線を眼球から、鼻筋へと舐めるように滑らせる。唇を摘んで、中を確認する。質感はゴム。歯は無事に揃っていた。生え際と眉の形にも好奇心を焚べた。


「誰が触れてもよいと言った」


片眉を曲げて、肌を捲るような刺々しい雰囲気を一瞥した。無言の圧力は更に増す。運命を享受するしかない獲物が捕食者の前で取るべき選択とは、命乞い一択である。何故なら、力とは普遍的な摂理であるからだ。しかし、捕食者すらも狩る牙を備えている俺は断じて獲物ではない。堂々と殺意の海を跨ぐ不遜な態度に、目に見えて空気が鈍く沈んでゆく。


「淡白過ぎるな」


高が一言。しかし釜戸へと薪を焚べたかのように、老婆は渦巻く激情に身を任せて眼球を凶悪に剥く。


「ならば何を加える」


批判するのは簡単だ。故に生み出す者として、稚拙な発想や付け焼き刃だと判断出来る内容は、翻ってそいつの能力を図る鏡となる。


「何も。」


舌の上で転がした要求は、形にすることなく蓄えた。


「俺の要求を滔々と語ったところで、意味がない。アンタが整えた白紙だ。部外者が付け加えていい道理はない。」


一瞬にして燃え上がった筈の炎は、俺の答えによって即座に鎮火した。数刻前とは異なり、コロコロと上機嫌に喉を鳴らす老婆は俺の意図を噛み締めるように瞼を閉じる。


「そうか、これを白紙と形容するか」


喘ぐように呟くと、震える身を枯れ木のような腕で持って抱き締めた。


「丹精込めて整えた苦労を、お前は理解してくれると言うのか。ああ、いいな。気持ちがいいものだな、理解者の賞賛とは……!」


高揚した目元を更に輝かせる老婆は新しい玩具を見付けた子供のように、利己的な要求を唇に描く。同居人は常軌を逸した言葉の応酬に畏怖の念を込めて、成り行きを見守っている。


「難しいから、想像力を働かせるしかない。分かるよ。理想に寄せる為に様々な素材を用いてみたり、構造上の限界値を超える実験や、剥ぎ取った素材を有効活用しようと画策したりして。最終的には無駄を削ぎ落とすことの美しさを知るんだ」


「無駄を?」


老婆は転がった生首へと目線を走らせて、抉り出すジェスチャーを反復するように繰り返す。


「バランスが大事だ。無駄に手を加えれば、寒い意図が露呈してしまう。躊躇いのない機械的な断面は、非現実的な悪夢へと常人を誘う。脳が目の前の景色を拒むんだ。ほら、恐怖とは経験や技術だけでは言い表せない、極致が存在する。掴めない精神を握ることが出来るのは、狂気だけだ」


「……輝きを衰えさせぬ方法はないのか?」


感銘を受けたのか、老婆は身を乗り出して俺の言動の一つも見逃すまいと眼球に収めた。悪意と好意が利己的に入り交じった赤黒い雰囲気は、母の愛へ盲目に従う幼子のような純粋さが垣間見えている。


「形に拘らない方がいい。他者からの理解も同様に」


生首の角度を傾けて、生者としての証が溢れ落ちないように側面を指先で支える。過大に募った期待感に老婆は身を捩る。


「生々しい苦悩、人間らしさ。この目に映した真実だけが、不確かな臓物の中から人格を縁取る。正解はない、結果に惑わされるのは、そいつが自分の価値に自信がないからだ。」


「人としての形から抜け出し、孤独を、飼い慣らせというのか?」


まるで、未知を探求する冒険者のような面持ちで老婆は感嘆の息を零す。


「分からない、これに答えはないんだよ」


「なら、惨めなだけではないか」


「無駄なことってあるのだろうか」


素朴な疑問を咀嚼するかのように、老婆は窪んだ瞼から覗く瞳を物憂げに漂わせる。


「意味を持たせることが出来るのは、自分を除いて他にいない。何より、自分と同じ目、同じ価値観、同じ苦痛を、持つ者がこの世に何人いると思う。他者に報いを求めるだけ、無駄だ。この身一つ、他者とは言葉を介す煩わしい景色でしかいない。俺は、何者の目も意図も、介さない。この手で彩る惨状は、この目にしか映ることはないから」


喉を鳴らして、掻き抱いた全身の筋肉を痙攣させると、身を喰らう未体験の衝撃に老婆は抗うことなく絶頂した。


「ああ、欲しい。やっと、分かった。この、言葉に出来ない違和感が。相反する性質を持ち、傾倒するどころか、支え合っている。何者の目にも映らないのならば、何一つとして賞賛は得られない。にも関わらず、お前は、成し得たんだな」


「抽象的過ぎる」


「ふふふっ、ダメだ。我慢出来ねぇ、好奇心が盛りつきやがる。もう、逃がさない。全てを征服し、食らってやる。お前は、私の物だ」


何処までも利己的な好意が枯れた肉体から噴き出す。常人の精神を削る狂気の一端に、拒否反応を起こした同居人は迫り上がった不快感に屈している。


「外の状況を教えてくれないか」


「知ってどうする、お前には関係のないことだ」


紡ぎ出した淡い期待は、生首と同じく狂気の沙汰に沈んだ。道は二つだと悟った。自由を得るか、同じ末路を辿るか。


『その老婆は嫉妬の名を冠する芸術家であり、盗賊ギルド序列一桁の上位者です。今のアナタは一般人と同等だと言いました。嘘です。膂力だけなら、前の出力を解放出来ます。……私の肉体は持って数分でしょうね』


「細かいことはいい。寄越せ、速攻で片をつける」


『ご武運を』


恐怖を象った生首を投げ返すと、芸術家は恭しく背嚢の中に仕舞い込んだ。


「俺がやる、お前らはその隙に抜けろ」


前と同じ使い方では負ける。最低限の加減は行い、両脚に殺意を溜めた。


「待って!」


制止を振り切って、飛び出した。


「《能力解放》《感覚強化》」


助走の勢いを有効的に使い、芸術家の顔面へと膝を打ち込む。


「《能力解放》《感覚共有》」


背嚢から左右に義足と義手が二本ずつ這い出し、肉体とは別に自立する義足が地を蹴って的をズラす。掴み損ねた獲物を求めて、身を翻した。無防備な時間を最小限に、天井で体勢を整えて迎撃に向かう。


「何故、お前ほどの者がこんな底辺で燻っていたのか。理解出来ん」


迎え打つように両側から並ぶ無機質な腕が視界を埋める。内包する膂力は軽い接触ですらも、致命傷になり得ると警鐘を鳴らしている。


「《分離》」


関節部分が砕けたかと思えば、肘から下が落下した。間には銀色の光が煌めいていた。


「早く!」


未だに立ち竦んでいる同居人へと、半ば絶叫するように戦線離脱を迫る。リーチの開いた義手の前では、自衛手段を持たない羊は格好の的でしかない。背嚢越しに火花を散らし、強靭なワイヤーを引き連れ、不規則な軌道を描きながら義手が迫り来る。後方には、同居人が控えている。


「道は俺が切り拓く」


暴風と化した殺意の中心へと、先陣を切って飛び込んだ。頬を掠めた義手が、天井と激突した反動を利用して回転する。繋がるワイヤーが壁面を削りながら目と鼻の先に迫る。


「早く行け!足手まといなんだよ」


伸縮自在の軌道に、転がっていた砕けたナイフの柄を投擲した。身を屈めて、狙いから逸れた一閃を首の皮一枚で通り抜ける。


「諦めろ、少なくともお前以外は消す。」


本体へと手を伸ばさない限り、義手は同居人の命を順当に刈り取ってゆくだろう。統率を失った義手の手首部分を掴み、横薙ぎに迫り来るワイヤーへと巻き付ける。更に手繰り寄せて、外部からの軸を入れることで主導権を奪う。操作不能に陥り暴走する嵐の中心へと、足首を庇いながら肉薄した。


「そんなに大事か?矮小な者の命が」


本体に蹴りを入れて、千載一遇のチャンスに振り返った。


「行け!」


「また会えるよね、これで終わりじゃないよね……!」


この期に及んで縋るような目を向けて来やがる愚か者へと焦燥感を滲ませながら吼えた。


「約束してやる!」


緩んだ唇を引き締めて頷くと、角の生えた女は仲間を引き連れ、横を通り抜ける。芸術家の眼球が後を追う。体勢を入れ替えて、拳を振るった。同時に背嚢から繋がる義足に腹部を蹴り飛ばされ、数刻の浮遊時間を体験する。


「とんだ茶番じゃな」


老婆を支える義足が体勢を整え、目線を下げる。義足の膝部分が弾けて、白煙が噴き出した。未知の予備動作に、身を翻して距離を取る。


「《撃て》」


呼応するように連なって支える義足の膝から、機械仕掛けの銃口が飛び出した。照準の先には同居人が映っている。


「俺の戦いだ!」


歯を食いしばった。絡まり合い沈んだ義手を浮かせることで、芸術家の体勢を崩す。義手を掴んで芸術家と交差するように外とは反対方向に走った。


「《硬化》」


銀色のオーラを纏い鋼鉄と化した皮膚はワイヤーと反発し合い、火花を散らす。体勢を崩し、四方に散った弾丸が爆音を奏でて、土煙を上げる。


「許さん」


強引に芸術家は腕を添えて、身を屈めた。重りを失ったワイヤーは破裂音を響かせ、壁面を削り取る。崩落する瓦礫の先に、同居人の姿は既にない。


「この代償は高く着くぞ」


背嚢から垂れ下がった義手が自動で切り捨てられ、消耗戦は無駄だと言わんばかりに新たな義手が這い出して来る。


「やっぱり殺すしかないか」


殴るしか能がない俺が打撃を多用しないのは、この肉体の強度に起因している。砕けてしまった拳では大した威力は期待出来ない。全力が出せるのは数回が限界だ。


「もう五体満足はいい、諦めた。喧しい手脚を削いでから、私が飼ってやろう。なに、有効活用するさ。血も肉も骨も、余すことなく!」











嬉しかったので、出来るだけ早めに頑張った。

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