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夏休み最終日の終わり

 こいつ、ナギは随分変わったと思う。

 少し前までめそめそと泣くことしかできなかったくせに。

 一体何があったというのか。

「莉音はどこにいるんでしょうか?」

「⋯⋯彼女は僕のものだ。悪いけど君に教えることはなにもないし、早く帰ってくれないかな」

「でもみんながいってましたよ。意地悪な先輩が莉音を連れてっちゃった、って」

 随分ないいように思わず笑みがこぼれる。

「ひどいいいようだな」

「⋯⋯莉音に、会わせてください。」

「嫌だ。もう帰ってくれ」

 冷たい声音でそういって戸を閉めようとする。すると⋯⋯

「ナギっ!?」

 彼女の声音がとても嬉しそうなものだから、胸がギュッと鷲掴みにされたようになる。


 もう少し、隠しておきたかった。

 僕だけの莉音で、いて欲しかった。


「莉音⋯⋯」

 そういってナギが浮かべた、切なげな笑みが胸をかきむしる。


「不審者だったられん兄が大変だって思ったから来たんだけど⋯⋯」

 そういう彼女の手には芯が出ているシャープペンシルが握られている。

「それで不審者を撃退しようとしたの?」

 僕がたずねるとニコリと笑って

「うん!シャー芯って刺さるとすごい痛いし、凶器になりうるんじゃないかな、と思って」

と答える莉音。

 そんな莉音に僕も、ナギも微笑んでいた。

 ほんとに敵わない子だ。

「それで、ナギは」

「ナギは僕と仕事の打ち合わせをしに来たんだよ」

 莉音の声を遮ってそういう。

 ナギと二人なんてごめんだが、今は仕方ない。ナギと莉音を二人にするよりはずっとましだ。

「違うよ」

 そういうナギを睨みつける。

 ついこの間までは僕が睨めばすぐ黙り込んでいたくせに、睨み返してきたナギにイライラしてくる。

「違うだろ、ナギ」

「連斗さんこそ嘘をつくのはやめてください。」

 無言の目線での言い合い。目線をそらせば負け。そんな、唐突な上に暗黙のうちにできたルールに負けまいとナギを睨みつける。


 絶対に、負けるものかーー。







〜莉音〜

 えーと、どういうことだろう。

 いきなり不穏な空気が満ちてきてなにも言えなくなる。

 二人とも怖い⋯⋯。

 ⋯⋯これってケンカなのかな。だとしたら止めた方がいいだろうな。そう思って口を開く。

「二人ともって⋯⋯」

 途中まで言ったところで、呆然とナギの後ろを見つめる私。

「莉音、どうかしたの?」

 そうたずねるナギを無視して、私は外に駆け出した。

「ちょっと、エロ!あんた、何やってんのよ!!」

 そう、そこにいたのはエロもといヨウ。

 私の家に向かっているのがナギの肩越しに丸見えだったのだ。

「さっきメール送ったでしょ?僕の莉音ちゃんへの愛をいーぱい込めた、ラブメール」

 そういってウインクするヨウ。

 真夏だというのに寒気がした。すごいな。エロがいたらエアコンいらずだ。

「あんたのメールへの返信なら、来るな、と送ったはずですが」

「うっせえなあ。とっとと家に上がらせろよ。こっちは暑くて死にそうなんだよ」

 そういうサルゴリにベーっと舌を出す。

「私の家以外で勝手に涼んでればいいじゃない。っていうか、そうよ。ネクの家でやればよくない?」

「いや⋯⋯。それが、俺達の家はここから遠くてな。そこまで行く体力がないんだ」

 そういってネクが見やったのは、ソラがおんぶしているキールくん。ソラの背中でスヤスヤと寝息をたてている。普段なら「おんぶなんて絶対嫌だ!離せ!」という子がスヤスヤと眠ってるなんて。相当疲れているのだろう。

「それで、ファミレスに一番近いのが莉音の家でな」

 申し訳なさそうに深々とお辞儀するネクに慌てる。

「ちょっ、ネク!?」

「どうか、どうか、莉音の家で勉強させてはもらえないだろうか」

「こーんなに真面目に頼まれたらさすがの莉音ちゃんも断れないよね〜」

 ニヤニヤとそんなことをいってくるヨウをひと睨みしてから口を開く。

「わかった。まだ母さん達帰って来てないだろうし、リビング使っていいよ。でも、あんたは外ね」

 そういってヨウをみやる。

「ええ〜!?莉音ちゃん、ひどいよ!はっ。でも、これも愛のムチってやつかな?嬉しっ」

 そんなことをひとりでべらべらといっているヨウには呆れてため息がでてくる。

「莉音」

 ふいに肩をつつかれて振り返るとニコリと優しい笑みを浮かべたナギがいた。

「なに?」

「莉音と連斗先輩も一緒にやろうよ」

 そういわれて戸惑う。

「でも⋯⋯」

 ナギの肩越しに見えるれん兄。遠くて、どんな表情をしているのかわからない。


 そんな時脳裏をよぎるれん兄の言葉。

「今日は泊まってく?」

 私よりずっと大人なれん兄の言動。

 れん兄よりずっと子供な私は毎回動揺してちゃんとした受け答えができなくて、すぐに逃げたくなってしまう。


「そう⋯⋯しようかな⋯⋯」

 気づくとそういっていた。

ああ⋯⋯まただ。私はまた⋯⋯。

 都合のいい時だけ甘えて、都合の悪い時は逃げる、嫌な女だ。

「ほんと!?」

 目を輝かせるナギに

「先に行ってて」

 そういって私はれん兄の元へかけていった⋯⋯。







「ふう〜、やっと終わった〜!!」

「疲れた⋯⋯」

 宿題を終え、次々に倒れていくSUNNY'S達。

 そんな彼らの横で宿題を片付けながら一つ深いため息をつく私。


「いいよ。いっておいで」

 そういって微笑んだれん兄。

「じゃあ、おやすみ」

 そういって私をそっと、強く抱きしめたれん兄。



 疲れと眠気でボーッとした頭の中はれん兄のことで埋まっていく。

 れん兄、微笑んでたけど、心の中では怒ってたかな。ひどい女だと思ったかな。

 いろんな思いが駆け巡ってどうしようもなくなる。


 グゴーグゴーグゴーグゴー。


 地鳴りのような寝息でそんな物思いも忘れ、カッとなる私。

「うるっさいなあ。誰?あと、ここで寝ないでよ!」

「今のはね〜⋯⋯」

 そういってユータを指さすとむにゃむにゃいいながら寝返りをうつヨウ。

 その横ではネクが仰向けで微動だにせず寝息をたてている。ネクらしい⋯⋯。

ナギは私の横で座布団を人形のように抱きしめて寝てるし、ソラは幸せそうな顔で時節寝言を言っている。ユータも地鳴りのような寝息をたてながら熟睡中。

 そして、キールくんのみがソファで寝ている。

 今は夜の十二時をまわったとこ。キールくんは小学生だし、こんな時間に帰すのは危ないから泊まっても仕方ない。母さんと父さんもきっと許してくれるだろう。

 けど、SUNNY'Sに関しては話が別だ。

 ⋯⋯だというのに⋯⋯⋯⋯。



 グゴーグゴーグゴーグゴー。

 グガーグガーグガーグガー。



 凄まじい寝息をたてながら熟睡するSUNNY'S達に言葉が出ない。

 起こすのも帰すのも大変だろう。


 なら、いいか。

 もう疲れと眠気でどうにかなりそうだった私はそのまま眠りについたのだった⋯⋯。



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