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謝罪と始まり

 楽しかった夏休みが終わり、宿題も無事終わり、私達の高校一年生二学期が始まった。

 宿題に関する記憶はどれも壮絶すぎて脳から抹殺してしまった。なのでもう思い出すことはできない。というか思い出したくもない。

 あの眠気と頭痛と腹痛の二日間は私にとって悪夢でしかなかった。始業式の朝、SUNNY'Sを追い出した途端に私の記憶は改変されたのだ。あの二日間はなにもなかったのだ、と。


 まあ、そんなことはおいといて⋯⋯。

「なにボーッとしてるんですか。遅れますよ」

「あ、うん。ごめんよ」

 そういって私が苦笑を浮かべる先には、呆れた表情のモモちゃんがいる。

 私達二人は今からSUNNY'Sのライブに向かうところ。

 何故こうなったのか、正直私にもよくわからない。


 事の発端は、つい先日。

 モモちゃんからメールがきた。

〈SUNNY'Sのライブに当選しました。二枚チケットがあるので、良かったら一緒に行きませんか〉

 この間のようなうっとおしさ⋯⋯いや、モモちゃんらしさを感じさせないそのメールの文面に違和感を覚えた。

 なにかあったのだろうか⋯⋯。

よくわからないけど、誘われたのを断るのもどうかと思うしSUNNY'Sのライブって当選率が相当低くてなかなかいけないしなあ。この際行ってみようかな。

そう思った私は

〈うん、行く!〉

と返信したのだった。


 そうしてむかえた今日。

 「え?あれ、ウソですよ。騙されるなんてバカですね」「あなたの席はありません。お帰りください」などといわれてあざ笑われたりするかも、とある程度の覚悟をして現地に向かった。

 しかし、そこにいたのはどこか元気がない様子のモモちゃん。

 「ドッキリでした」なんてネタバレをされることもなくどこか悲しげな微笑を向けられ、私達は仲良く(?)ライブ会場の中に入った。



「結構前の方ですね。良かったです」

「ほんとだね〜」

 そういって席に座る。

 それにしてもモモちゃんの運強いな。

 アリーナ席の前から三番目とか、すごいステージ近いよ。


 スマホをひらくとライブ一時間前だった。

 あと一時間かあ。その間モモちゃんと会話しなきゃいけないよね。色々気まずいんだけど⋯⋯。

「なんですか。チラチラこっち見ないでくださいよ」

 冷たい声音でそういうモモちゃん。

「あ、ああ、ごめんね。無意識でさ」

「無意識って⋯⋯」

 「キモイ」ということをあえて言葉にせず視線で訴えてくるモモちゃん。

 その視線から逃れるようにカバンの中を漁っていると、

「⋯⋯私、海に帰ります」

 唐突にモモちゃんの口から飛び出る言葉。

「え?⋯⋯」

 思わず落としてしまったカバンを慌てて拾い上げ、モモちゃんを見やる。

 その真剣な瞳は嘘をついているようには見えない。

 モモちゃんに元気がなかったのはもう少しで海に帰らなくちゃいけなかっから?⋯⋯。

「私、悪者の力を頼って、こちらに来たんです。ナギを追いかけるのにはどうしてもそいつらに頼るしかなくて。」

 ライブ前のざわざわと落ち着かない空気の中、淡々と言葉を紡ぐモモちゃん。

「父は私が地上に行くことに猛反対していて、監禁されてたんです。それで、自分の力ではどうにもならずやつらを頼った⋯⋯。今更ですけどほんとにバカな話ですよね」

 そういって自嘲気味に笑う。

「そんなことないよ。モモちゃんはバカじゃなくて、ほら、バカの反対だから賢明っていうのかな。とにかくね、私、モモちゃん程まっすぐに人のこと想ってる人見たことないんだ。だから、すごく、すごいと思う」

 思ってることをうまくまとめられず、口らからでるのは拙い言葉ばかり。だけど、私の思ってることがちゃんとモモちゃんに伝えわるようにまっすぐにモモちゃんを見つめる。

「⋯⋯。言語能力皆無ですね。あと、そんなこと言われなくても知ってますから」

 ツンとした様子でそっぽを向くモモちゃんだけど耳が若干赤い。

 この子、ツンデレ気質があるのかしら。なんて心の中でニヤニヤしてしまう。

「その悪者達のせいで海は荒れてます。SUNNY'Sはそれをどうにかしたくても海に入れないからどうしようもない。なのに、海にいた私はわざわざ悪者に頼ってこちらに来てしまった⋯⋯。もう遅いかもしれないけど、つぐないたいんです」

「⋯⋯だから、海に帰るの?」

「はい。SUNNY'Sの為にも、キールの為にも⋯⋯。私に出来ること、なにかあるはずだから」

 今日、私が呼ばれた本当の目的は、この話を聞いてもらうため、だったのかな。

 ってことは、私、モモちゃんに少しは信頼してもらえてるんだよね。そう思うとなんだか嬉しくて笑みがこぼれる。

「⋯⋯よく、そんな能天気な顔で笑ってられますね」

「だって、なんか、嬉しくて」

 そういってはにかむ。

「⋯⋯⋯⋯私のこと、都合がいい女だって思わないんですか?」

「え?⋯⋯」

 なにを今更、と思いながらどこか取り乱した様子のモモちゃんを見つめる。

「私、あなたの貝を無理矢理取っといて、今こんなふうに話していい感じにして、ちゃっかり帰ろうとしてるんですよ!?」

 その叫びはとても痛々しいもので、私はそっとモモちゃんの背中を撫でてやった。

「まず貝ってなんなのかよくわかんないだけど⋯⋯」

 確か四月の頃にSUNNY'Sから聞いた話では「人魚の証」なんて言われてたけど未だにちゃんと理解していない。

 しかも、貝を無理矢理取った、っていわれたけど私にはモモちゃんに貝を取られた記憶がない。というか、私、貝なんて持ってなかったと思うけど⋯⋯。

「魔力を封じ込める特別な貝殻のことで、正式名称はやたら長いのでみんな貝って呼んでるんです。貝にはその人の魔力が込められていて、人魚の証そのものなんですよ」

「ほほお⋯⋯」

 わかるようなわからないような。

「それで私や、その⋯⋯私の他にも悪者に頼ったり協力した者達がいて、その人達であなたの貝を狙っていたんです」

「ほお⋯⋯」

 そんな風に気づかぬ間に狙われていたなんて⋯⋯。実感がわかない。

 そもそも、貝を持ってた記憶がないんだけど⋯⋯。

「あなたの貝は、特別な禁忌の魔法で、あなた自身の中にしまわれていたんです。でも、私達は」

「モモちゃん!?」

 そこまで言ったところで急に苦しそうにしだすモモちゃん。呼吸は浅くなり、額に玉のような汗が浮かんでくる。

「⋯⋯痛い⋯⋯!やめて⋯⋯!もう⋯⋯⋯⋯」

 そういってハアハアと荒く息をするモモちゃんの背中を優しく撫でてやる。

 まるで誰かが、ここから先は喋るな、といっているみたいだった。

 モモちゃんはこんな小さな体でどれだけ重く大きいものを背負っているんだろう。

 自分の体を抱え込むように前かがみになっていたモモちゃんだけど、やがて痛みもおさまってきたのか背もたれに寄りかかる。

 その表情は先程よりずっと穏やかで、モモちゃんを苦しめていた"謎の痛み"がひいてきたのが見てとれる。


 良かった⋯⋯。とりあえずは大丈夫かな。そう思っていると、ふとモモちゃんの右手に目がいく。

 そこには「中二病」のような複雑な紋様が刻まれていた。

 最初は強く光っていたものの、モモちゃんの息が整うにつれ光は弱まっていき、やがて元からなかったように消えてしまった。

 さっきの紋様が、モモちゃんを苦しめた要因なのだろうか。よく、わからない。

 こういう時自分の無知さ加減に腹が立ってどうしようもなくなる。


 またなにか喋ったら、"謎の痛み"によってモモちゃんが苦しむかもしれない。

 なら、たずねてはいけない。

 わかってはいても、やっぱり苦しい。

「もうそろそろ⋯⋯ライブ始まりますね」

 まだ荒く息をしながらも全然平気だ、という様子でそういうモモちゃん。

「そうだね」

 ここはあえてあまり心配しない方がいいだろう。心配している様子を感じさせないよう、普通の声音でいう。

「⋯⋯今回あなたを誘った本当の目的は、事実を話し謝りたかったからなんです。」

 そういうと改まってこちらを向き頭をさげるモモちゃん。

「ごめんなさい」

 そういうモモちゃんに私はそっと微笑む。

「いいよ」

「⋯⋯やっぱり、私、あなたのこと嫌いです」

「ええっ!?」

 ついさっきまでしおらしくしていたのに唐突にツンモードにはいったよ、この子。

 そんなことを思いながらも心の中はとてもすっきりしていて、顔には笑みが浮かんでいた。

 モモちゃん、一時期は苦手に思ってたけど、全然いい子じゃん。それに、私、こういう子好きだな。どこか親友と重なる部分もあるし。

「嫌いっていわれてニヤけるとかマゾですか。」

「いや、そんなことは」

「あーあ、こんな人のどこがいいんだろ」

 どこか独り言のようにそういった直後鬼気迫る様子でこちらに身を乗り出し

「言っときますけど、私がいなくなったからって、うちのナギにみだりに手を出さないでくださいね。変なことしたら末代まで呪いますから」

と、最後は氷のごとく冷徹な満面の笑みで言い切るモモちゃん。

 さっきまで苦しそうにしていたのが嘘のようだ。

「大丈夫だよ、変なことなんて」


 ブーー


 そこまで言ったところで、ブザーがなり、照明がおちる。

 これから、ライブが始まるーー。

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