表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

chapter1-5

 エリカが基地に着くと、彼女と同じ面接希望の人間が二十人ほど集っていた。エリカ達は会議室の様な部屋に通されると、基地内での行動、立ち入り禁止区域などの説明を受けた。

 その説明のすぐ後に面接が始まり、あれよあれよという間に終わってしまった。エリカは一抹の不安を覚えた。あまりにも、あっけなく、滞りなく事が済んだからだ。人は順調すぎることに、嫌疑するものだ。

 しかし同じ厨房勤務希望の女性に、

「面接なんて形だけよ。人手不足だから、たぶん皆採用でしょう」

 そう言われ、ホッと胸を撫で下ろした。

 こうして、難航を極めたエリカ・コンターチェの就職活動はひとまずの決着を迎えた。こんな事なら、最初からここを希望しておけば良かったと、エリカは心の底から思った。

 そして、エリカはこの基地を紹介してくれた級友、メイリンに感謝した。

 首都のある方角に手を合わせ、彼女は深々と頭を下げた。

「ああ、メイリン様メイリン様ありがとうございます。おかげで就職できそうです。本当にありがとうございます」

 そこには青い空が広がっているだけだが、エリカの目には「いいってことよー」と爽やかな笑みを浮かべるメイリンの姿が見えていた。

 予想外の早さで計画をこなしてしまったエリカは、手持ち無沙汰になってしまった。共に面接試験を受けた面子の内半分は、こうなる事を予想していたのかいそいそと帰路に着いた。もう半分、エリカの様に肩透かしを受けた人々は、基地のロビーに固まって談笑していた。

 エリカがその一団に近づくと、

「やあ、君もかい?」

 と声をかけられ、共に苦笑を浮かべた。

 ロビーに備え付けられた自動販売機でブラックコーヒーを購入し、エリカはその会話の輪に加わった。そこでエリカは、近い内に空軍の大きな作戦があり、その拠点としてこの空軍基地が使用されるらしいという事。そのために、こうして広く人員を募集し、大量に雇い入れているらしいという事を、地元出身で妙に事情に詳しい男から話を聞いた。

「だったら、地方の基地から兵士を連れてくればいいんじゃないか?」

 と、別の男が問うた。「確かにそうだ」と、周囲も同意の頷きを見せる。

「本当は、それが一番なんだけどな……」

 と、男は前置きし、話を続ける。アルキディア連邦とペルーチア帝国の戦争は航空機の発展により、攻撃が広域化し、戦場が爆発的に拡大したという。その度に両軍は駐屯基地を作り、前線を伸び伸びにしてしまった。各基地はいつ来るとも知れぬ敵の、しかし決して無視することが出来ない敵の襲撃に備えて、常に定数の人員を置いている。しかし基地そのものの数が多いため、万年人手不足。各基地は常にギリギリの運営をしている。

 そのため、人員移動もままならず、大きな作戦がある時は、今回のように民間人の手を借りる事がよくあるという。

「まあ、そのおかげで地方が潤うんだがね」

 男はそう言って話を締めくくり、持っていた缶コーヒーをグイッと煽った。

 エリカはその話を聞き、一つの不安要素に思い至った。この基地が戦場になるという可能性だ。アルキディア連邦とペルーチア帝国の戦争は、もう百年も続いている。エリカが生まれる、ずっと前から。ニュースを見れば毎日のように戦火を称える放送が。街に出れば、軍への入隊を勧めるポスターが。彼女にとって、彼女の世代にとって戦争は当たり前の存在で、それ故に実感のない存在だった。

 ここ数十年大きな戦闘が無かった事もあり、人々は戦争という言葉に麻痺していた。それが、こうして目の前に現実を放られ、エリカは戸惑いを覚えた。戦争の事は、母親から耳にタコが出来るくらい聞いてきた。その凄惨さも。その場所に自分が立つかもしれないという可能性を知り、身震いした。

 それは、他の者も同じらしい。皆、些かの緊張を孕んだ表情をしていた。

「あれぇ? 皆さんお帰りにならないんですか?」

 と、場にそぐわない素っ頓狂な声。

 緊張した空気を破られ、一同はガックリと肩を落とす。

 エリカが声のする方を見ると、そこには真新しい作業着に身を包んだ、若い男の姿が。誰が見ても新兵と分かる彼は、愛想笑いを浮かべ、こちらに手を振っている。

「面接試験ご苦労様でした。皆さんは、こちらで何を?」

 言葉はその場の全員に送られたものだが、視線はエリカに固定されている。彼女が視線を合わせると、白い歯を見せて笑った。

「私達は、その、雑談を。面接が思いのほか早く終わってしまったので、手持ち無沙汰で」

「ああ、なるほど。次のバスが来るまで、だいぶ間がありますからね」

 若い兵士は、壁掛け時計を見ながら、「うんうん」と独り頷いた。

「そこで、私から皆さんに提案がございます。今から基地の中をご案内しようと思うのですが、どうでしょう? これからご自身が働くであろう現場を見るというのは?」

 その申し出に、一同は喜んだ。是非にと、皆勇み足である。地方の駐屯基地なんて珍しくもないし、何より見る所など一つも無い。だが、皆暇を持て余しているため乗り気である。

「では皆さん、こちらへ。立ち入り禁止区域もありますから、私からはぐれないで下さいね?」

 言葉はその場の全員に送られたものだが、視線はエリカに固定されている。彼女が視線を合わせると、白い歯を見せて笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ