クリューという少年(7)
「いいか、あらためて模擬戦のルールを確認するぞ。クリューが100発避けたら勝ちだ」
「ちょっと待て。オレが当てたら?」
「あなたの勝ちでいいわ」
「ふ~ん・・・で、オレはどうなったら負けになんの?」
「あなたが降参したら、あなたの負けね」
「つまり、お前は何発喰らってもいいってことだ」
「ふ~ん・・・何発当てられてもいいのか・・・なんか、それって不公平じゃね?」
「お前の実力を見るためだ。1発じゃわかんねえからな」
クラフターの触覚は、生身の体よりも鋭敏だ。ペイント弾とはいえ掠っただけでも激痛が走る。当たり所が悪ければ、大人でも気絶するレベルなのだ。
「根性見せろよ。1発で降参なんかしやがったら、二度と3Gには乗せてやんねえぞ」
「舐めんな。誰が降参なんかするか」
「フッ、吠え面かかないでね」
「そっちこそ」
「強気じゃねえか。まあいいだろう。10秒後に模擬戦開始だ。カウントダウンはじめ!!」
「10・・・9・・・8・・・」
機械的な音声が霊子通信として聞こえてくる。
セーブルのハイホークXは急加速で上空へと飛んでいく。有重力下の戦闘では、上からの射撃の方が有利だからだ。
一方のクリューは動こうとしない。顔の向きはセーブルを追っているようだが。
・・・何を考えているの?
「・・・3・・・2・・・1・・・START!!」
ハイホークXのGサイクロトロン銃から、ペイント弾が発射された。セーブルは牽制のつもりだったのだが。
パンッ!!
ペイント弾をまともに喰らったクラフターの顔面が真っ赤に染まる。
「だ、大丈夫!?」
相当深刻なダメージのはずだ。当てた方のセーブルが思わず心配するほど。
「くぅ・・・効くねえ・・・鼻っ柱を思いっきり殴られたみてえだ・・・」
気丈なクリューの声。クラフターの手が顔面のペイントを拭う。
「さあ、どんどん当ててくれ。弾はたっぷりあるんだろ?」
「・・・心配いらないみたいね」
チャキッとハイホークXが両手打ちの構えを見せる。
「ハチの巣になりなさい!!」
シュシュシュシュッと、連続で空気を切り裂く音が銃口から鳴り響く。
パパパパーンとペイント弾の破裂音が、クラフターの顔面だけでなく胸、肩、両腕を次々と赤く染める。
「・・・いいのか? そんなに連射して。今ので3発外したぞ」
ペイント弾に破壊力はないとはいえ、高速で発射されたペイント弾の衝撃は生身の人間の骨を砕く。普通の大人でも泣きわめくほどの痛みのはずだ。
「・・・痛くないの?」
「痛えに決まってるだろ!!でも・・・痛えだけだ!!」
クリューのクラフターが・・・消えた?
次の瞬間、背後に気配を感じたセーブルが上半身を思い切りひねる。
ハイホークXの顔面近くをペイント弾が通り過ぎていった。
慌ててセーブルは高速離脱して距離を取る。
「やるじゃん。あそこから避けられるとは思わなかった。やっぱドテッ腹狙えばよかったかな」
・・・何なの?あの動き?
マシナリードーピングで感覚を100倍にしていたから避けられた。パイルタッカーの遅い弾だから避けられた。もしも同じ機体にダイブしていたら・・・
セーブルは冷や汗が止まらなかった。




