クリューという少年(6)
クリューのクラフターとセーブルのハイホークXが空中で対峙する。近くに偵察用デコイが十数機、クリューとセーブルを遠巻きに囲むように飛んでいた。大空で繰り広げられる3G同士の空中戦は、地上からの肉眼で視認することは不可能だからだ。
「二人ともデコイを壊すなよ。壊した方を負けにするからな」
ローガンからの霊子通信が二人に届く。
クリューが憑依するクラフターに武器はない。腰に装着しているのは工具だ。「パイルタッカー」と呼ばれる、大型の杭やピンを撃ち込むための重力子操作による工具。クリューは杭の代わりにペイント弾をパイルタッカーに仕込んだ。
「なあ、この工具、試し打ちしていいか? 初めて使うんだ」
「・・・本気で言ってるの?」
「工具で戦闘なんてしたことないからな」
誰だってそうだろう。作業用3G同士のケンカでも、工具を使うようなバカな真似はしない。そもそも工具は武器ではないのだから。
「どうせなら私を標的にしてみない? マシナリードーピングを100倍に設定しているから、まず当たることはないわ」
「ありがてえ。空中だと具体的なマトがないから感覚がつかめねえんだよ」
ありがたいのはこっちだ。ハイホークXのマシナリードーピングには解析機能も備えている。空間把握だけでなく敵の銃口の向きから着弾点を予測したり、亜光速の動きの中でも敵の動きをダイバーに感覚として感知させてくれるのだ。旧式とはいえ軍用特化している分、戦闘補助は徹底していた。パイルタッカーからのペイント弾の動きを見ておけば、対策はマシナリードーピングにより万全なものとなる。
クリューとセーブルとの距離は、キッチリ100m。相手がハイホークXの持つGサイクロトロン銃だと撃ってから避けるのは難しいが、銃口の向きからわかる射線からズレておけば当たることはない。もっともパイルタッカーには砲身がないため、射出口の向きもわかりにくいのだが。
「よし、行くぜ!!」
パイルタッカーからペイント弾丸射出された。弾丸より遙かに遅いスピードで放たれたペイント弾は、30mほど真っ直ぐに飛んだところで放物線を描きながら下に落ちていった。角度を上向きに調整しても、射程は100mがやっとというところか。
「こりゃあ、自分で投げた方がマシかな?」
腰につけた作業用のモジュラーツールベルトに手を突っ込み、ペイント弾を直接掴んで投げてみた。しかし投擲などしたことがないクラフターでは「投げる」という行為がインプットされていないため、体の動きをきちんと意識しないとまともに投げることはできなかった。コントロールなど付くはずもない。
「・・・オッケー。うん、大体わかった」
何がわかったというのか。まともに使えないことがわかったのか?
セーブルは腑に落ちないものの、クリューがこれ以上試射の必要がないというなら従うよりほかはない。
「じゃあ、海に出ようぜ。流れ弾がギャラリーに当たったら大変だ」
途方もない違和感。
クリューの年齢は、確か12歳だったはず。孤児が多い戦時中のこの世の中、正確な年齢など知らない者の方が多いが、それにしてもクリューの精神年齢は異常だ。
何ていうか・・・ケンカ慣れしている。それも3Gでのケンカだ。緊張とか動揺とか、精神的なブレが全く見られない。
セーブルに油断はないのだが、より一層気を引き締めることにした。




