クリューという少年(5)
クリューの突拍子もない行動に、セーブルは呆気にとられていたものの、すぐに戦士の顔になる。
セーブル愛用の3G「ハイホークX」は100年も前に設計された傑作機であり、設計思想は旧式だが各国軍で未だに正規採用されている名機だ。どこかの軍の放出品が流れてきたものだが、解放軍にとっては宝物のような機体である。難点は初期ロットなので経年劣化が激しいことだ。
3Gの素体は「ホムンクルス」と呼ばれる万能憑依型クローンなのだ。生体兵器でもある3Gには「老化」という経年劣化が付きまとう。
セーブルのハイホークXは、素体がすでに100歳近い老人ということだ。反応速度をはじめとしたあらゆる感覚があまりにも鈍かった。時折わけのわからない震えに襲われることもある。そのためダイバーの誰からも見向きもされず、最前線のゲリラ部隊に流れてきたのだ。常に戦力不足のゲリラ部隊に使わないという選択肢はなかった。
セーブルがダイバーとなってはじめて憑依するのが、この「ハイホークX」なのである。軍未経験で訓練機すら知らないセーブルにとっては「こんなものか」と違和感を感じることもなく愛機としていた。
軍用機として開発されたハイホークXは、様々なダイバーへの補助機能が備わっている。十分なパワーを発揮するGBUシステムに、霊子レーダー、ダイバーの感覚を加速させるマシナリードーピング、味方機との感覚共感システムなど、軍用機にしか組み込まれないシステムだ。
さらに標準装備の「Gサイクロトロン銃」がセーブルのお気に入りだ。両手用に2丁が左右の腰のホルダーに装着されている。銃が得意なセーブルは両手の2丁撃ちを得意としていた。
「何なの・・・あの子」
上空へと舞い上がったクリューのクラフターをちらりと見た後、セーブルはハイホークXの踵にあるハッチを開けてスイッチを押す。するとコックピット脇からフック付きのワイヤーが伸びてきて地面のすぐ上で停止した。セーブルがしなやかな足をフックに賭けると、ワイヤーが巻きあがっていく。
「3Gはこうやって乗るものでしょ?」
最新鋭の軍用3Gならともかく、セーブルの知っている3Gのほとんどは搭乗用ワイヤーが付いているはずだ。あの子のクラフターにだって装備されているはずなのに・・・
コックピットに颯爽と乗り込んだセーブルは、ハッチを閉めて服を脱ぎ捨てる。
STARシステムを起動させ、憑依して一体化したハイホークXの目線で自分の両手を見つめた。いつもより手の震えが少ないのは集中できている証拠か。
程よい緊張感。コンディションは悪くない。
両腰のGサイクロトロン銃を両手に持ち、マシナリードーピングを100倍に高める。
負ける要素など一つもない。
セーブルのハイホークXが、クリューの待つ空へと音もなく飛び立った。




