クリューという少年(4)
「おい、チビ。クラフターの乗り方は知ってんのか?こいつはここを開けて・・・」
マロウがクラフターの足元にしゃがみ、小さなハッチを開ける。
「ここにスイッチがあってな・・・」
「マロウ、ポチならいないよ」
「あん?」
ゼナの言葉にマロウが振り向くと、ゼナは指を上に指している。
「上?」
マロウが見上げた大木の枝の上で、クリューが縄に分銅を付けてグルグルと振り回していた。
「アイツ何する気だ?」
クリューは分銅付きの縄を投げ、別の大木の枝に巻き付ける。グイグイと縄を引っ張り強度を確認すると、縄を掴みながら枝から飛んだ。
「あ~ああ~!」
奇妙な叫び声を上げながら、クリューは振り子のように宙を舞う。縄を手放し、ひしっとカエルのようにクラフターの胸にしがみついた。
「アッハハハ~、何やってんだポチ!!」
ゼナはゲラゲラと笑うが、マロウや他の部隊員は呆気にとられていた。
全員の注目を浴びながら、クリューは胸の突起に隠れているスイッチを押し、ハッチを開けてコックピットへと潜り込む。
(ありゃあドックのデッキに着けている時のスイッチだ。あんなことも知ってるのかよ・・・いや、アレしか知らない?)
マロウは敢えて口にしなかった。
クリューはハッチを閉めて、コックピットのSTARシステムを立ち上げる。
目を閉じて数秒。フッと意識が一瞬だけ飛び、全身の感覚が消える。
そして目をゆっくりと開ける。
大木の枝が視界を遮っているが、隙間からは青い空が見える。足下には小さくなった仲間たち。自分の両手を目の前に持っていき、手をニギニギと閉じたり開いたりさせてみた。
(悪くない)
作業用3Gであるクラフター。このG77という機種は職人用にチューンアップされており、肌感覚や手指の動きが繊細かつ鋭敏化されていた。
軍用の3Gは逆に鈍くなるように設定されている。これは痛覚に直接関わることだからだ。
軍用機では手足が無くなることはザラにある。頭を吹き飛ばされて戦闘不能になることもある。この時に痛覚が人間と同じだと、魂にトラウマなど重大な悪影響を及ぼすことがある。場合によってはショック死することもあるのだ。軍人で3Gの感覚を鋭敏にする者はほとんどいなかった。マロウがクラフターを嫌ったのはこのためでもある。
しかしクリューは鋭敏な感覚を「悪くない」と思った。理由は自分でもわからない。ただ、魂レベルで研ぎ澄まされた感覚を大切にするべきだと思ったのだ。
「さあ、行こう」
クリューの思いにクラフターのGBUシステムが答えた。
3Gの移動はダイバーの考えていることを脳波に変換し、GBUシステムの重力子操作による「Gトラクション」が担っている。
クリューのダイブしたクラフターが、空高く舞い上がった。




