乱戦(6)
セーブルは折れそうな心を必死に奮い立たせていた。
敵の増援。
霊子レーダーには敵の3Gが10機、こちらに向かっている。「戦場になった空域に」ではない。敵の動きから増援の全機が「こちら」、つまりセーブルとベネトのいる空域を目指しているのだ。セーブルはハイホークXのマシナリードーピングで、感覚速度を100倍に高めているから反応できるが、ベネトのクラフターにはマシナリードーピングは搭載されていない。ベネトが気が付いた時にはすでに囲まれた後だろう。
軍用霊子レーダーを持たないクラフターでは、敵の増援に気が付かない。軍用霊子通信を持たないクラフターに危機を伝える術はない。接触通信であれば可能か? しかしクラフターには敵のランサーストラトス2機が交互に張り付いている。苛烈な攻撃を受けながら直撃はさせず、落とされていないのが不思議なほどだ。セーブルが近づける隙が無い。
絶望。
何度も脳内を支配しそうな言葉を、セーブルは根性で飲み込んでいた。
「主よ。敵が増えたな。この演習はいつ終わるんだ?」
「なぬ? どういう意味じゃ?」
「これは模擬戦であり訓練なのだろう? いつ終了になるんだ?」
「う・・・」
ベネトは言葉が出なかった。グングニルは現在の状況を「訓練」だと思っているのだ。いや、AIが「思っている」というのが正しいのかどうかわからないが。
「・・・何故、訓練じゃと?」
「私が起動したときに『訓練』だと作業員から聞いているぞ」
DPWDからグングニルを受け取った直後は「模擬戦をやる」ということだった。しかしそれも本部からの緊急案件により、急遽「出撃命令」に代わったのだ。
「いや、私は聞いていないぞ」
確かにグングニルはブリーフィングには参加していないし、グングニルに出撃命令は下していない。そもそも武器に作戦を伝えようとは、誰一人思ってもみないことだろう。
「今は実戦じゃ。生きるか死ぬかの瀬戸際じゃのぅ」
「そういうことは早くいってほしいものだ。相手が死なぬよう、手加減してしまったではないか」
手加減・・・? あれほどの精密狙撃を見せられて、どこが「手加減」というのだろうか。
「これは実戦なのだな? 相手を生かす必要は無いのだな? 敵を殺さなければいけないのだな?」
殺るか殺られるか。戦場では二つに一つしかない。
ベネトは沈黙に肯定の意味を込めた。
「・・・本気を出す」
先ほどよりも長い溜め。
「光子量を増やし、チャージを長くするぞ」
粒子加速器の原理を利用したグングニルの銃身は、光子弾を円形軌道の中で円運動を繰り返しながら速度を増していく。円運動時間が長ければ長いほど、光子弾のスピードと威力は増大するのだ。
無造作にグングニルから放たれた光子弾は、大気を切り裂き轟く雷鳴と共に、増援に来た敵の3Gの1機を一撃で爆散させた。




