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第44話 捨てられた怪物

学園を追放された駆に、向かうべき場所などどこにもなかった。

 だが、彼の足は無意識のうちに、あの場所へと辿り着いていた。

 アパートの狭い一室だけが、今の彼に残された唯一の聖域だった。

「……はぁ、……っ」

 階段を上がる足取りは重い。右腕の泥がボタボタと錆びた鉄の階段を汚し、嫌な音を立てる。

 鍵を開け、真っ暗な部屋に転がり込むと、そこには自分が積み上げてきた「生活」の残骸があった。

 

 机に積み上げられた古びた魔導工学の資料。独学で書き殴った、影の制御理論のノート。

 すべては「陽葵を守るため」に積み上げてきた努力の証だった。だが、今の駆にとって、それらは自分がいかに滑稽であったかを嘲笑う記念碑にしか見えない。

(……これで、いいんだ)

 駆は電気もつけず、冷たい床に横たわった。

 

 窓の外を見れば、そこには【影の女王】がもたらした永劫の夜が広がっている。

 学園を追放され、焔に剣を向けられ、そして何より――陽葵に「消えて」と言われた。

 自分をこの世に繋ぎ止めていた最後の手綱が切れた今、駆の身体を維持していた意志の力は、急速に霧散していく。

「……陽葵……」

 もう、その名前を呼ぶ資格さえない。

 彼女は今、どこで怯えているだろうか。いや、怪物の自分がいなくなったことで、ようやく安らかな時間を過ごせているのだろうか。

 

 駆の右腕の影は、もはや制御を離れ、部屋の壁や床を侵食し始めていた。

 空腹感も、痛みも、次第に遠のいていく。

 

 この狭いアパートの片隅で、誰にも知られず、ただの真っ黒な泥になって消える。

 それが、自分のすべてを捧げて、すべてを壊してしまった「無能」な自分に相応しい末路なのだと、彼は暗闇の中で静かに目を閉じた。

 孤独な死を待つ駆の意識が、深い闇へと落ちていく。

 

 その時、静まり返ったアパートの廊下に、カツン、と小さく、けれど意志の強い「靴の音」が響いた。

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