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第19話 強襲の紅蓮

 学園へと続く高架下のトンネル。出口の光を背に、真紅の外套を翻して立っていたのは、神代焔だった。


 学園の頂点に君臨するS級魔導師。その端正な顔立ちには、常に「弱者」を見下す冷徹な優越感が刻まれている。


「……神代先輩。おはようございます。こんなところで、どうかされたんですか?」


 駆が足を止め、努めて穏やかに、丁寧な口調で問いかける。だが、焔はその言葉を耳に入れることすら汚らわしいと言わんばかりに、ふっと鼻で笑った。


「……演習の邪魔なんだよ。魔力を持たないお前のような人間がここにいても、大気の汚れにしかならん。お前の席はここではなく、図書室の隅がお似合いだろ?」


 焔が放つ威圧感に、トンネル内の空気がピりりと震える。


「……おっしゃる通りです。すぐに行きますから、そこを通していただけませんか?」


「冗談はやめろ、黎明。……残念だったな。今日の『図書室』は閉館だ。……お前のために、特別な処刑場を用意してやった」


 焔が指を鳴らした瞬間、トンネルの壁一面に紅蓮の術式が走り、世界が「炎の檻」へと切り替わった。


「……神代先輩。……これ、冗談ですよね? 学園内で勝手な結界の使用は禁止されているはずですが……」


「禁止? はっ、劣等生の分際で規則を口にするか。……不遜だな、お前は」


 焔は腰の長剣を抜き放ち、その先を駆の眉間に突きつけた。剣身から放たれる熱気が、駆の前髪をチリりと焦がす。


「昨日、あの測定器が見せたバグ……。あれを『故障』で片付けるほど、俺は甘くない。……黎明。お前の内側に潜んでいる、そのドロドロとした『墨』を見せろ。……それとも、皮を剥がれるまで『人間』のフリを続けるつもりか?」


「……先輩が何を仰っているのか、俺にはさっぱり分かりません。俺はただの、Fランクの学生ですよ」


 駆はなおも敬語を崩さない。だが、その瞳の奥には、焔の炎をすら飲み込みかねない「虚無」が微かに揺れていた。


「……立てよ、黎明。……お前が獣魔なら、この熱で炙り出してやる。……ただの人間なら、灰すら残さず消えてしまえ。……どちらにせよ、この学園に『ゴミ』は不要だ」


 焔が剣を振り下ろす。

 ドゴォォォォォッ!!

 

 紅蓮の衝撃波がトンネルを飲み込み、爆炎が駆の姿を掻き消した。

 焔は、熱風に髪をなびかせながら、獲物がその正体を現す瞬間を、恍惚とした表情で待ち構えていた。


 その炎の壁の向こう側。

 影の中に溶け込んだ駆の右手が、低く、重い唸り声を上げ始める。


(……神代先輩。……あなたが選んだんですよ。……後悔しないでくださいね)


 影が、炎を食らいながら膨張していく。

 丁寧な言葉の裏側に隠された、絶対的な殺意が、爆音の中で火花を散らした。


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