追っ手
しばらく進むと、ぽっと明かりが急に増え、少し通路も広い場所に出た。
「わぁ……。眩しい……」
「ああ、申し訳ありません。ここはこの通路の中間地点になっています。もう折り返し地点ですから、あと半分進めば出口ですよ」
ミーニャが先を進んで先導してくれるため、道も照らされており、これまでもそんなに心配は無かったけれど、それまでよりは格段に安全性が確保されたように感じた。ほっ、と息を吐くと、ミーニャは立ち止まり振り返った。
「疲れましたか? 飲み物を飲んで少し休憩しましょう。この通路、地下につくったので、少し酸素が薄いんですよね」
「つくった……?」
「あ、いえ。何でもありません」
あわてて否定する姿に、本当にこの人についてきて良かったのか、今更ながらに不安になる。
(でも、今更引き返すわけにもいかない。とりあえず、逃げれる可能性が少しでもあるのなら、それに縋るしか無いんだから!)
覚悟を決めたわたしは、飲み物がはいった筒をミーニャから受け取り、ごくごくっと飲んだ。甘い蜂蜜が入った紅茶。師匠がよく作ってくれる、わたしの大好物だ。
「わぁ、これ美味しいです! ミーニャさんがわざわざつくってくださったんですか?」
「あ、ええ、まあ」
「これ、わたしの好物なんです。ありがとうございます」
「いえ、まあ、あはは」
何故かミーニャは気まずそうな笑みを浮かべたけれど、すぐに引っ込め、真剣な表情をはりつけた。
「これから先はすぐです。もう少し、頑張れますか?」
「はい、大丈夫です!」
わたしの元気な返事に、ミーニャはにっと笑顔を見せると、何も言わずに筒を鞄にしまうと先頭切って歩き始めた。しばらく歩き続け、遂にわたしは気になっていたことを尋ねた。
「ここ……とても暗いし、いくつか枝分かれしている道がありますけど……どうやってこの道を知ったんですか?」
「それは———」
ミーニャが答えかけたときだった。ずしんっ、と前方から大きな音が聞こえた。はっ、としてわたしをミーニャは顔を見合わせると、即座に彼女はランプをわたしに手渡した。それから、何処からとも無く現れた剣を手に、前方を警戒する。
「ミーニャさん!?」
「静かに。恐らく敵襲です。狙いはご自身と考えてください」
「っ……!?」
「もうすぐ出口なので、そこで張っているのでしょうね」
「っ!」
ならば後ろから逃げた方が良いだろうか、と振り返った瞬間、わたしは息をのんだ。思わずミーニャの名を呼ぶ。
「み、ミーニャさん」
「何でしょう?」
「う、後ろ、に……!」
緊張で舌が巧く回らない。それでもどうにかして伝えると、ミーニャがばっと振り返った。
兵士が見えた。剣を構え、こちらの方を鋭く見つめている兵士が三人が通路の少し離れた場所に見えたのだ。
「こちらです! アメリア様!」
ミーニャが咄嗟に小声で叫び、わたしの腕を掴んで枝分かれしている道へと連れ込んだ。しばらく走り、ミーニャが後ろに回り、わたしを後ろの兵士から守るように立ちはだかる。
「先に進んでください! わたしも必ず、追いつきますから!」
「でも、ミーニャさんが……!」
「わたしは大丈夫です! 剣はかなり鍛えてます!」
「でも……!」
「良いから早く!」
そんなことを言われても、置いていけるはずが無い。いくらミーニャが剣を鍛えているからと言って、三人の大柄な兵士を相手に戦うのは無理があるだろう。
(でも……どうすれば良い? わたしは今、魔術が使えない)
途方に暮れ、固まってしまったわたしに気づいたミーニャが、仕方ありませんね と呟き、わたしの腕を再度掴んだ。そして、足早に歩き始める。
「きゃぁ?!」
「こちらです! 必ず、味方がいるはずですから、逃げ切れるところまでいきましょう!」
「っ……! ごめんね」
我がままいってごめんと伝えたわたしに、ミーニャが柔らかくふんわりと微笑む。さながら春の日の陽光のように。
「とんでもないことでございます。どうか、お気になさらずに」
先ほどまでと、少し口調が変わったようにも感じたけれど、わたしの気のせいだろうか。
どちらにせよ、にっこりと微笑んでいるミーニャにそれを聞くのはなぜだか憚られた。
「ありがとう」
代わりにお礼を言うと、ミーニャは何も言わずに微笑んで、わたしの案内を務めてくれた。




