アンコール。
目を開いた私の前にいたのは黒スーツにサングラスをかけたカタギとは思えない連中だった。
金髪にどでかいグラサンのバカそうな男、黒髪に丸グラサンのいかにも冷酷そうな男。
もう一度言う。カタギじゃない。それかエイリアンと戦うエージェント。
丸グラサンがにやりと笑って口を開いた。
「やぁ、おはよう。気分はどうだい?」
「お、おはようごじゃいます。気分は最悪です。」
「そりゃいい。」
本当に気分は最悪だった。しかも噛んだし。自分が死ぬ夢見たあとにヤクザ連中に絡まれるとか。
待て待て、ここ病院じゃないじゃん。はっとなって辺りを見回す。
濡れた地面、忙しなく点滅する街灯。
赤い、紅い傘が横たわる私に傍らに寂しく寄り添っていた。
頭が、状況に、追い付かない。
私が死んで死んで刺され死んで死ん死ん死んで刺さ刺され死ぬ死ぬ死ぬ死んで刺され刺されて死ぬ
あ、あ、あああああああ、あああああああああああああああ
「固まってるとこ悪いんだけどさぁ、君死んだから。どんまい。」
「ご愁傷さま。どんまい。」
黒スーツ達のその言葉で私の思考は少しだけ正常に戻った。
やっぱり死んだのか、私は。確かにお腹も背中も痛くない。
確認のためにもう一度自分の亡骸を見るが、やはりそれはそこに静かに横たわっていた。
「何度見たって変わらないよ。しつこいようだけど君は死んだんだ。」
「そそ、死ぬとこ見てたからねぇ。」
え、なんだって。死ぬとこ見てたって。意味がわからん。
「死ぬとこ見てたって、なんで助けてくれなかったんですか!?」
私の問いに黒スーツ達は顔を見合わせた。まるで私がおかしなこと言ったかのように。
「そりゃ無理ってもんすよー。それが仕事だからねぇ。」
この金髪ぅ、いちいちバカそうだな。それに仕事ってなんだ。お前らの仕事はみかじめとったり、薬売りさばいたりとかじゃねぇのか。それかエイリアンと戦うとかだろ。
「仕事って、あなた達何者なんですか。」
「俺達はよぉ、天使だ。」
金髪がそう言い放つと、黒スーツ達の背中から真っ白な翼が現れた。
私は黒スーツに真っ白な美しい翼が生えたという状況に言葉を失った。けどその姿に違和感は感じなかった。むしろ最初からあったかのようにしっくりすぎるほどしっくりきていた。
私はこいつらを一応天使として認めることにした。状況が状況なので仕方がない。
じっと翼を眺めていると丸グラサンが言った。
「そういえば自己紹介がまだだったな。俺は中位三隊、主天使の笹原だ。こっちのバカそうな金髪は水卜だ。」
「どもっす、水卜でーす。中位三隊、能天使でーす。」
「あ、松井樹里です。17歳です。あ、、、」
ついアイドルの癖で歳までいってしまった。ちょっと恥ずかしい。
金髪の水卜がボソッと享年とか言った気がした。自然と水卜を睨み付けていた。すると笹原が水卜を肘で小突いた。
「まぁ君の自己紹介は大丈夫だ。全部知ってるから。幼い頃に父を事故で亡くしたとかアイドル下積み時代に観客が全然入らなかったこととか。人が死ぬ前には全部しらべるから。」
「ストーカーまがいのことするなぁ。」
心の声がするりと出てしまった。慌てて口を塞ぐが出てしまったものはもう戻らない。しかし、二人は何も気にしていない様子だった。
笹原はタバコに火をつけ、煙を吐いた。
「さてさて、ここからが本題。君には天国に行く権利がある。生前の頑張りを評価してな。もちろん地獄に行きたければ行ってもいい。おすすめはしないがな。」
「ゴホッ、でもまぁ天国に行ける状況で地獄にわざわざ行くやつもなかなかいないっすけどねぇ。」
水卜は笹原に嫌そうな顔をしながら煙を払いながら言った。
確かに天国に行けるのに地獄に行くやつもいないだろうな。
じゃあ天国でいいかな。
あー天国か、まじで死んじゃったんだなぁ。とりあえず天国に行ったら父さん殴ろう。なに笑ってやがんだくそ親父って。
「あの、じゃあ私てんご」
「「待った!!」」
私の発言は黒スーツ達によって阻まれた。
そして笹原がにやりと口角を上げ言った。
「君にはこの世に未練がある。それも天国じゃ晴らせないくらいのレベルのやつだ。だろ?その未練晴らせるかもしれないと言ったらどうする?」
どうするって、そんなの決まってる。天国で晴らせないほどの未練なんてそりゃそうだ。アイドルやめて普通になれるって思ってたのに、やめた日に死ぬんだもん。未練なんてありすぎるほどあるんだから。
「あの、未練を晴らせるって本当ですか?」
「あくまでかもしれないってとこっすけどねぇ。晴らせたやつもいるし晴らせてないやつもいるっすよ。まぁ人それぞれ。あ、人じゃねえっすね。死人それぞれっす。あ、死人も違うか。はっはー。」
かもしれない、か。でもそれに賭けてもいい。いや賭けたい。普通の女の子になってみたい。
私は決心し、笹原の目を見て問う。
「未練を晴らせるかもって、どうすればいいんですか?」
笹原はタバコを足元に捨て言った。
「君が行くのは天国でも地獄でもない。君がなるのは死人でも人でもない。」
「それって、、、」
濡れて消えたタバコを拾い上げ、携帯灰皿に押し込んだ笹原は言う。
「天使になるのさ。」
その言葉を聞いて、タバコは私だと思った。地面に捨てられ火が消えたタバコ、それが私だ。でも地面に落ちたままじゃない。拾われて天使という入れ物、はたまたゴミ箱に入る。ゴミ箱かどうかはまだ分からないけど。
空が白み、雨はいつの間にか止んでいた。
私の亡骸に人が集まりはじめ、遠くからサイレンの音が鳴る。
騒ぎはもうコンサート会場のようだ。
騒ぐ人間、佇む二人の天使。そして死んだばかりの私。
いや、違う。死んだばかりの私ではない。天使になることを決意した私だ。
「私天使になります。」
そう告げると二人はサングラスを外し素顔を見せた。
そして言う。
「ようこそ、歓迎しよう」
私は一歩踏み出した。普通の女の子になるという未練を晴らすため、黒スーツ達の仲間になることに決めた。晴らせるかはまだ分からないけど、分からないけど、でも一度死んだ私はどんなことでもやれる気がした。やってやる、やってやるぞ。
私が心の中で静かに決心すると、雲の切れ間から太陽の光が一筋差し込んだ。
「天使のはしごっすねぇ。縁起いいすねー。」
「あぁ久々に見たが綺麗なもんだ。」
その景色は今まで見たどんな景色よりも綺麗で美しく、私は言葉が出なかった。
いや出せなかった。この景色を私なんかのチープな言葉で汚したくなかったから。
私は、私の命日の、この始まりの朝に見たこの景色をいつまでも何年経ってもきっと忘れない。
きっと。
やっと天使でてきました。




