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第二十七話 わたしの過ち

『四件すべてへの納品を終えました』


リディアから届いた書状の、その一行を何度も読んだ。

陸路で送った織物は無事に着き、卸売り先への納品も済んだという。

時期を変えたくないと返答していた二件にも、間に合ったようだ。


「……よかった」


椅子の背にもたれ、息を吐いた。

荷を送り出してから、隣国からの知らせが届くたびに手を止めていた。

間に合わなかったら、どう説明しよう。そんなことばかり考えていたのだ。


書状の続きには、今後も取引を続けたいという相手の言葉が添えられていた。

わたしはその部分を指で押さえ、もう一度読み、噛み締めた。


最初のお取引を、終えられたのね。

すぐにお父様へ知らせに行きましょう。




実際にかかった費用が揃うと、お父様と一緒に帳簿を確認した。


「輸送費が、見積もりより増えているわ」


急いで馬車と人手を確保した分、予定していた額を少し超えていた。

四件の売上から、代わりに仕入れた織物の代金と、陸送の費用を引く。


書いた数字を見つめ、ペンを置いた。


「……赤字ね」


「ああ。わずかだがな」


ほとんど残らないと思っていた利益まで、なくなっていた。

初めての卸売りで利益を出せなかったことが悔しい。


「だが、納品はできた。今後も取引は続くんだろう?」


「ええ。次で取り戻したいわ」


そう答えて、計算した紙を帳簿に挟む。

遅れている織物も、店頭や次の注文に回せばいい。

まずは、約束を守れたのだから。




再び急使が来たのは、その少しあとだった。


『港の制限が解除され、主力便の荷揚げが終わりました』


「……もう?」


主力便が届いたのだ。喜んでいい知らせのはずなのに、記された日付が気になった。


引き出しから四件の納品予定を取り出す。

主力便を受け取れるようになった日と、一件ずつ照らし合わせた。


ここには間に合わない。

こちらも、難しい。

でも、この二件は――。


「待っていても、間に合ったのね」


指先を日付の下に置いたまま、動かせなかった。

二件分は、追加で仕入れずに済んだ。高い輸送費も、かけずに済んだのだ。

けれど、あのときは港がいつ動くのかわからなかった。


……考えても、もう荷は届けてしまっているわ。


次の注文に回せる。

そう考えたけれど、いつ、どれだけ必要なのかはまだわからない。

取引を続けたいというお返事はいただいたけれど、こんなにすぐ必要なわけないわ。


店頭だけで、この量を売り切るには。


帳簿を持ち上げようとして、紙の端に指が引っかかって、指先から血が滲む。


「いたっ、切れちゃった」


傷口をハンカチで押さえ、深呼吸をする。


「……お父様に、相談しなくては」


書状と帳簿を抱え、部屋を出た。




「遅れていた織物が、着いたそうなの」


お父様はわたしの顔を見て、手元の書類を置いた。


「さっきの急使か?」


「ええ。日付を確かめたら、こちらの二件は主力便でも間に合っていたわ」


書状と納品予定を並べる。

お父様は見比べてから、頷いた。


「だが、それはあの時点ではわからなかったことだ」


「わかってる。でも、最初に仕入れた織物が残るでしょう。その分のお金を、いつ回収できるか……全部、確認し直したいの。一緒に見てくれますか?」


「ああ。座りなさい」


お父様が机を空けてくれた。

向かいへ座り、支払った額と、これから入る額を書き出していく。


わたしは、次の仕入れに必要な額を書き足した。

店では織物以外の商品も売っている。そちらの補充も、輸送も続けなくてはならない。


これから支払うものを並べるほど、手元に残せる額が減っていく。


「……思っていたより、余裕がないわ」


ベルフォード商会全体が困ることはない。

けれど、わたしが任された隣国の店では、無視できない金額だった。


「次の注文がいつ入るかも、その前に何を払うかも、きちんと確かめていなかった」


「私も、回収までの見通しを、もっと具体的に確認するべきだったな」


お父様は書き出した数字へ目を落とした。

責められなかったことに、かえって顔を上げられない。


「エレノア。ここから、どうする?」


「わたし、隣国へ行きます」


お父様を見て、続けた。


「店頭でどのくらい売れているか、自分で確かめたいの。四件の方にも、次に必要になる時期と量を聞きたいわ。それから、以前お問い合わせをくださった方にもお会いして、交渉します」


「急いで売ろうとして、値を崩すなよ」


「ええ。あくまでも新しいお取引の提案として、伺います」


始めたばかりの卸売りにも、これからの店の売上にも関わる。


「お前に任せた仕事だ。立て直すところまで、やってみなさい。必要な資金はこちらで確認する。ただし、状況はその都度知らせるんだぞ」


「はい、お父様。取り返します」



その日のうちに、リディアへ隣国に向かうことを知らせた。

翌朝には出発できるよう、支度も頼む。


ルシアンにも手紙を書いた。

急ぎの仕事で、また隣国へ行くことになったと伝える。


そこまで書いて、ペンを止めた。


何があったのか、書こうか。

でも、今はまだ、自分でもどう立て直せばいいのかわからない。


結局、詳しい事情は書かずに封をした。

まずは現地を見て、わたしがどうにかしなくては。


翌朝、契約書と帳簿、これまでの報告を鞄に収める。

納品の日付を何度も確かめた契約書を、今度は次の取引のために持っていく。


「行ってまいります」


わたしは鞄を抱え、隣国へ向かう馬車に乗り込んだ。



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