第二十四話 新しい取引
王都へ戻ってしばらくした頃、隣国の店から報告が届いた。
リディアの文字で、商品の販売数や在庫、お客様から尋ねられたことがまとめられている。
香辛料も生活雑貨も、順調に売れているようだ。
その中でも、織物の数字に目が留まった。
「この色、もうこんなに売れたのね」
わたしが店にいたときにも、色違いを探している方がいらした。
その声をもとに追加した品が、実際に選ばれている。
さらに読み進めると、現地の商人から、織物をまとまった量で仕入れたいという相談があったと書かれていた。
「卸売りの相談……」
店に買いに来るお客様だけではなく、商品を扱いたいと言ってくれる商人もいるのね。
報告書を持って、お父様のもとへ向かう。
「隣国から、卸売りのお話が来ているの」
「ほう。受けるつもりか?」
「まずは条件を聞きたいわ。どの織物を、どれくらい必要としているのか。一度だけなのか、継続して仕入れたいのかも確認したいの」
「そうだな。店で売る分も残さなければならない」
「ええ。希望する価格や時期も聞いてから、考えるつもりよ」
席へ戻り、リディアへの返事を書いた。
売れ行きの報告へのお礼と、相談してきた相手に確認してほしいことを記す。
店を任せて帰ってきたばかりなのに、もう次のお話が届くのは嬉しい。
封をする前に、聞き漏らした項目がないか、もう一度読み直した。
それから数週間、届く報告を並べて確かめた。
織物は追加した商品もよく売れ、その後も売れ行きは安定している。
卸売りについての返事も、リディアが一覧にして送ってくれた。
希望する商人は、全部で十件。
種類と数量、希望価格、納品の時期。それぞれの条件を、手元の仕入れ値と照らし合わせる。
「こちらは、すこし量が多すぎるわね」
一件分の数字を、別の紙に書き移した。
引き受けるとなると、仕入れも一気に増やさなければならない。今の規模では難しいわ。
別の相手は、希望価格が低い。
輸送費まで引くと、ほとんど利益が残らなかった。
せっかく声をかけていただいたけれど、全部を受けるわけにはいかなそうだ。
条件を確かめながら、四件に絞った。
いずれも数量に無理がなく、継続した取引を希望している。
この価格なら利益も残せるし、店頭の商品を取り分けても対応できそうだ。
四件の資料と仕入れの予定をまとめ、お父様に見せた。
「まずは、この方たちと取引を始めたいの」
お父様は向かいに座ったわたしから書類を受け取り、一件ずつ目を通していく。
「希望する納品の時期が近いんだな」
「ええ。それに合わせて、次に送る織物を増やしたいと思っているわ」
「どのくらいだ?」
「四件への卸売り分が加わるから、これまで一度に送っていた量の、だいたい倍くらい。店頭で売る分も含めて、倉庫には収まる量よ」
わたしは、仕入れと輸送の予定を広げた。
開店した頃は、慎重に、少ない量を何度かに分けて送っていた。
今度は納める相手と、必要な量が決まっている。
「店頭の補充は、これまで通り小口でも送るつもり。ただ、卸売りの四件分は、次の主力便にまとめたいの。納品の時期が近いから、まとめた方が予定を合わせやすいわ。輸送費も抑えられるし」
分けて送る場合と比べた費用を示すと、お父様は頷きながら資料を見てくれる。
「予定通りに届けば、その方が効率はいいな」
「そう思うわ」
「初めての卸売りにしては、大きな取引になるぞ。不安はないか?」
「正直……不安はあるわ。でも、店での売れ行きも、相手の希望も確かめた上での判断よ。無理な条件ではないと思っています」
お父様は販売の記録へ戻り、仕入れの予定と見比べた。
わたしも向かいで、返事を待つ。
やがて、書類がこちらへ返された。
「そこまで確認して決めたなら、やってみなさい」
「いいの?」
「向こうの店を一番見てきたのは、お前だろう。ただ、店頭販売とは動く量が違う。始めたあとの傾向も、よく見るんだぞ」
「ええ。もちろん」
書類を受け取り、立ち上がった。
四件とも、お店で使うのか、さらに別のお客様へ売るのか、それぞれの予定を持っている。
これからは、売れたものを補充するだけでなく、約束した日に必要な量を渡せるようにしなくては。
自分の机へ戻り、リディアへの返書を用意する。
選んだ四件へ、こちらの条件で正式に取引を進めたいと伝えてもらおう。
今回は見送る相手についても、返答をお願いする旨を記載する。
納品の日付と数量を四件分確かめ、主力便の予定に書き込んだ。
小さな店から始めた商売が、ほかの商人へ商品を届けるところまで広がる。
この取引も、続けていけるものにしたい。
わたしは書き終えた返書に署名し、封をした。




