第十話 はじまり
今日から正式に商会の仕事に復帰することになっている。
お父様はもう少し休んでいてもいいんだと言ってくれたけれど、約二年ぶりの復帰だから早く慣れたいのだ。
朝食を終えると、わたしはベルフォード商会へ向かった。
見慣れた建物、荷物を運ぶ人々の声、聞き慣れた商会員たちの声。今日からここで本格的に働けるのが嬉しい。
「あ!エレノアお嬢様、おかえりなさい!」
「今日から本格復帰なのですよね?」
すでに準備をしていた商会員たちが声をかけてくれる。
わたしの離婚が正式に成立したときいて、皆喜んでくれていた。
「今日から改めて、よろしくお願いします!」
「「「よろしくお願いします!」」」
笑顔で返してくれる声に、胸が温かくなった。
うん。今日からわたしは商人として、頑張ろう。
お父様の執務室に向かうと、いい笑顔で待ち構えていた。
「さて、エレノア。お前に任せたいことがある」
「わかったわ、資料を見せて」
仕入れ先の選定を行うものだった、まずは計算してみましょう。
それから、条件の見直しを行い、お父様に報告ね。
「エレノア、商談にも同席してほしいから、それまでに切りをつけてくれ」
お父様の言葉に頷くと、さっそく資料へと向き合った。
商談までに少しでも自分の感覚を取り戻しておきたいから、集中しましょう。
***
商談も問題なく終わった。
先方が考え込む場面もあったけれど、わたしが提示した条件で納得してくださった。
先ほどお父様に任されたお仕事は、商談の役に立つものだった。
過保護なお父様のおかげで、久しぶりの商談にもついていけたし、商談の術も取り戻しつつある。
次は、倉庫へむかう。
わたしがいた頃は見かけなかった箱に目がいく。
「忙しいところごめんなさい、こちらは最近入ったもの?」
「はい、お嬢様。隣国からの試験輸入品です。まだ量は少ないのですが」
「そうなのね、隣国、ありがとう。少し調べてみるわ」
お父様は隣国との取引も考え始めているのよね、あとでお話を聞いてみたい。
せっかく戻ってきたのだから、世界を広げるお手伝いをしたい。
お父様に話すと、隣国との取引を始めたいので調査がてらに試験輸入をしたとのことだった。
わたしも販売経路や商品について調べてみたいと申し出ると、一緒に調査を進めることになった。
数週間調べてみてわかったこともあるけれど、もう少し詳しいひとから話を聞きたいなと思い始めた。
隣国の商人と直接取引をするのなら、向こうの商売の心得や暗黙のルールも知りたいし、
信用できる商人や、支払い周りはどうするのか、聞きたいことは山積みだ。
「お父様、隣国にくわしい方にお話を聞きたいのだけど……」
「ああ、そういうと思って、うちと取引のある商会のなかで、隣国関連の取引を行っているところがないか調べてみたんだが、ヴァレンティ商会が今隣国との繋がりが強いようだ」
「まあ、そうなの」
「特に、海を使った輸送に強いみたいでな。向こうの商人とも頻繁にやりとりがあるようだ。ヴァレンティ商会は数年前から経営方針が大きく変わったようで、そこから隣国との取引が目覚ましい」
「その方にお話を伺いたいわね。けれど、商売敵として警戒されてしまうかしら?」
「うちと取り扱っている商品が全く同じではないし、まずは話をしてみるしかないと思っている。エレノア、お前が先方に手紙を書いてみるか?」
「……責任重大ね。頑張るわ」
「あまり気を張り詰めるなよ」
お父様はわたしの肩にぽんっと手を置いて、部屋を出ていった。
よし、お手紙を書きましょう。
「教えてくださいとお願いするだけでは、先方に利点がないわ。隣国へ進出している商会はわずかなはずだから、困ったときに自国繋がりで助け合いたい、とかどうかしら?」
試行錯誤して書き上げた手紙を、丁寧に封筒に入れ、糊付けする。
「どうか、わたしの想いが伝わりますように」
数日後、お返事が来た。
ぜひ、直接お会いして隣国の話をさせてほしいとのことだった。
「お父様!お話をきいてくださるそうよ」
「そうか、お前がいくのだろう?」
「ええ、三日後にヴァレンティ商会に行ってくるわ」
新しい挑戦がはじまる。
わくわくして、今日は眠れないかもしれない。




