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忍者の末裔は忍ばない ~ダンジョン産のアイテムで一般人が化け物みたいに強くなったから、俺も本気を出して良いらしい~  作者: 木塚 麻弥
第4章 新たな階層

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第53話 〈配信コメント欄〉

 

 シノヴァーズは無駄な戦闘をほとんどせず、100階層まで攻略してきた。そして今、彼らはボス部屋の前にいる。


『出てくるモンスターはずっとドラゴン系だったな』


『飛竜が多くて疲れたっす。投擲しないとダメだから、武器を回収できないと倒すコスパめっちゃ悪い階層だったっす』


『スイが大活躍してくれて助かった』


『ふふん。レン君、もっと褒めてくれて良いんだよ』


『偉い偉い』


 A級ダンジョンの高層階で出現する凶暴なモンスターたちと絶えず戦いながらやって来たと思えないほど、彼らの纏う雰囲気は朗らかだった。


〈もう100階層のボスまで来ちゃった〉

〈どや顔するスイちゃん可愛い〉

〈がんばってたねぇ! 偉い偉い〉

〈レン君、頭撫でてあげればいいのに〉

〈でも褒めてもらえて嬉しそうww〉

〈こいつら50階層も100階層も変わんねぇな〉

〈強さゆえの余裕が溢れ出とる〉

〈戦闘だって、安心して見ていられるもん〉


 コメント欄に書き込む視聴者たちも、蓮たちやり取りを見てほっこりしていた。


〈ところでレンのやりたいことってなんだろ〉

〈やりたいこと?〉

〈91階層突破した時にレンが言ってたんだよ〉

〈なんだろうね、レン君のやりたいこと〉

〈ここのボス、たぶんドラゴンだよな〉

〈それ相手に何をするつもり?〉

〈ボスのドラゴンをテイムするとか〉

〈ボスはテイム不可だぞ〉

〈でもレンならやりかねん〉

〈ありえなくないんだよなぁww〉

〈絶対に無理って思えないのが逆に凄い〉

〈ボスを何秒で倒せるかのRTA(リアルタイムアタック)じゃね?〉

〈この面子なら5分以内とかありそう〉

〈A級ダンジョンの100階層ボスだぞ〉

〈さすがに……。いけちゃうかも〉

〈だよなぁwww〉

〈こいつらならやっちゃいそう〉


 そんな予想がされていたが、答えは少し違う。


『配信のコメント欄でも話題になってるけどさ、レンのやりたいことってなに?』


『テイムしちゃう? ドラゴンをペットにしちゃう?』


『RTAなら早く作戦を教えるっす。予測されてる5分どころか3分を切って、視聴者驚かせたいっすね』


 颯たちも気になる様子。翠は蓮なら忍びの術で、ドラゴンをペットにしてくれるのではないかとワクワクしていた。


『スイ、悪いけどペットにはしない』

『えぇー』


『あとRTAもしない』

『なんだ、つまらんす』


『じゃあどうすんだよ』


『俺は100階層のボスと、ソロで戦いたい』


〈えっ〉

〈はあ!?〉

〈ちょ、こいつ何言ってんの?〉

〈なんで? パーティー組んでるじゃん〉

〈みんなで戦えよ〉

〈A級ダンジョンの、たぶんラスボスだぞ〉

〈しかも拡張された後のダンジョンだし〉

〈S級ダンジョンの中ボス級だと思う〉

〈しかも初見でしょ? 無理じゃね?〉

〈やめとけって!〉


 蓮が深淵1階層をソロで踏破したことをほとんどの視聴者が知っている。それでもA級ダンジョン100階層のボスにソロで挑むのは自殺行為であると思えてしまう。


 そんな反応を見せる視聴者たちとは対照的に、颯たちは落ち着いていた。


『なんだ蓮、ひとりでやりたいのか』

『結局RTAになりそうな予感っす』

『怪我をしないように気を付けてね』


 誰も蓮を止めようとしない。


 それもそのはず。彼らは蓮がS級ダンジョンの隠れボス、ケンシンを圧倒したことを知っている。これまで存在しなかった階層のボスとはいえ、こ(・)こ(・)は(・)所(・)詮(・)A級ダンジョン。あの化け物(ケンシン)より強いなどとは思えない。


〈な、なんで誰も止めないの!?〉

〈マジでソロ凸させる気?〉

〈意味が分からん。流石に無理だって〉

〈危なくなったら助けるつもりなんだろ〉

〈まぁ一緒にボス部屋入れば大丈夫か〉

〈そ、そうだよな〉

〈近接タイプでドラゴンソロは不可能〉

〈途中でスイが参戦するっしょ〉


 コメント欄ではそのような予想が展開されている。しかし颯たちは、蓮がひとりで戦うといった瞬間にもう自分の出番はないと確信していた。



『俺のソロ凸を認めてくれたってことでOK?』


『いいよ』

『ファイトっす』

『行ってらっしゃい』


『ありがと! それじゃ──あっ』


『どした』


『颯、大剣を貸して』


『ボスがドラゴンの場合、巨体だから武器もでかい方が良いと』


『理解が早くて助かる』


『……壊すなよ』


『ボス倒してゲットした素材とかで、新しいの作ってやるから』


『なんで壊す前提なんだよ!』


『まぁまぁ。絶対にこれより強い武器をプレゼントする』


『しゃーねーな。ほら』


『さんきゅー!』


〈本日2度目の、こいつ何言ってんの?w〉

〈盾にもできる大剣を壊すって?〉

〈いや、ないない。絶対ないって〉

〈あっても刃が欠けるくらいだな〉

〈弱くなることがあっても、まず壊れない〉

〈それがダンジョン産の武器だもんな〉

〈どんな力で振れば壊れるんだよ〉

〈そんな心配いらないって〉


 誰もダンジョン産の武器が壊れるなど思いもしない。

 


『それじゃ、いっきまーす!』


 蓮がボス部屋の扉に手をかける。

 すると部屋の壁も扉も消えた。


 彼らが立つその場の全てがボスと戦うためのエリアに塗り替えられるギミックが発動していた。このようになるのは、出現するモンスターがこのダンジョンのラスボスであることを示している。


 空気を震わす咆哮が響いた。


 このダンジョン最大の空間となったボス部屋の奥から、ワイバーンの4倍はあろうかという超巨大な飛竜が出現した。鱗は鋼のように黒く輝き、巨体から発せられる威圧感はA級ダンジョンのラスボスに相応しい風格を持っていた。


 その眼は既に外敵の姿を補足し、口には敵を排除せんと溜めているブレスの猛炎が漏れていた。


 咆哮と共に灼熱のブレスが放たれる。


 それはただの炎ではない。

 岩盤すら溶解させる超高熱の奔流だ。


 直撃すればS級防具であっても蒸発しかねない。


〈初手ブレス!?〉

〈範囲広すぎだろ!〉

〈これ避けられんのか?〉

〈レン、逃げろっ!!〉


 視聴者たちがパニックになる中、蓮は一歩も動かなかった。ただ静かに、颯から借りた大剣を構える。


 蓮は体内の魄勁を練り上げ、大剣へと流し込む。


 甲高い音を立てて大剣が悲鳴を上げる。

 刀身が白熱し、周囲の空気が歪み始めた。


『――行くぞ』


 蓮が地面を蹴り、大きく陥没させる。

 火炎ブレスに向かって正面から突っ込んだ。


〈は!?〉

〈向かってった?!〉

〈自殺志願者かよ!〉


 視聴者の絶叫を置き去りに、蓮は大剣を一閃させた。


「断空・弐ノ型」


 大剣から解き放たれた斬撃が迫りくるブレスを真っ二つに切り裂いた。炎の海が左右に割れ、その中央を蓮がゆっくり前に歩んでいく。


〈…………は?〉

〈い、今、なにが起きた?〉

〈ブレスを切り裂いたぞ!?〉


『そうだ、颯。言い忘れてた』


『えっ。こ、この状況で?』


 蓮がブレスを切り裂いたので、彼の後ろにいた颯たちは全員無事だ。しかしその左右はダンジョンの岩盤がブレスにより融解して溶岩となり、地獄を彷彿とさせる環境へと変貌していた。


 そんな状況にも関わらず、蓮は変わらぬ声のトーンで話し続ける。


『俺はちょっと前に、颯はいつか俺と一緒に深淵ダンジョンに行けるくらい強くなれるって言ったよな』


『……うん、言ってくれたな』


『アレはいつか、お前は俺と並ぶくらい強くなれるって意味だった』


『そ、そうなんだ。ありがと。でも今は戦闘に集中して』


『そう。今じゃないんだ。今はまだ俺の隣に誰もいない。これからしばらくは誰にも並ばせない。俺は──』



『俺はまだ無双したい』



 蓮の姿が消えた。

 彼はボス部屋の天井付近まで跳んでいた。


『これで終わり』


 蓮は白熱した大剣を飛竜の首元目掛けて振り下ろす。


 何かが砕け散る音。


 それは飛竜の硬い鱗が割れる音であり、同時に大剣そのものが粉々に砕け散る音でもあった。


 飛竜の巨体が地に伏す。

 首から上が綺麗に切断されていた。


 たった一撃でA級ダンジョンのラスボスが沈んだ。


 蓮の手には柄《つか》だけになった大剣が残されている。


『やっぱり壊れた』


 蓮は何事もなかったかのように折れた柄を放り投げた。


 静寂に包まれる配信画面。

 数秒後、コメント欄が爆発した。


〈い、一撃!?  あのデカいのが一撃!?〉

〈てか、武器! 大剣が壊れた!?〉

〈嘘だろ……。ダンジョン産武器だぞ?〉

〈ありえないってぇぇぇぇ!!!〉

〈どんな威力で振ったらそうなるんだよ!〉

〈バケモノだ……。本物のバケモノだ〉


 阿鼻叫喚のコメント欄をよそに、颯たちが近づいてくる。


『お前、本当にやりやがったな』

『あはは。ごめんな、約束は守るから』


 颯は呆れたようにため息をつくが、その表情には驚きはなかった。


『さっきの戦闘、80点っす』

『なんでだよ』


『ブレスを切り裂く技名があったのに、本体を倒す時になかったからかな』


『スイ、正解っす!』


『うぐっ……。し、しまった』


 飛竜の死体が光の粒子となって消えていく。

 ダンジョンの地面からモノリスが出現した。


 それはダンジョン完全踏破の証。

 


『ちょっとだけ失敗があったけど、これで新宿ダンジョンの踏破完了です!』

 

 配信用ドローンのカメラにモノリスが映るようにしながら、蓮が実績の報告をおこなった。

 

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