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忍者の末裔は忍ばない  作者: 木塚 麻弥
第1章 忍者の末裔

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第5話

 

「さて。俺を雇いたいって依頼は来てるかな?」


 (れん)は自宅に帰った後、少しドキドキながらパーティー募集掲示板を確認する。


 彼がアプリを起動した瞬間──

 通知音が鳴り止まらなくなった。


【新着メッセージがあります(99+)】


「おっふ、マジか」


 それは想像以上の反響だった。


 目につくのは『金を寄越せ』、『どうせ不正入手した装備だろ』、『ポーターがでしゃばんな』、『ヒーロー気取りキモい』などといった乞食や誹謗中傷。ただこうなるのは蓮の予想通り。目立つというのは、それだけ炎上のリスクがあるのを理解してる。


 検索フィルターをかけ、そうしたメッセージは除外する。そして信頼できる団体や個人とアプリ運営に承認されたIDからの連絡を確認していく。


 大半は『うちのクランに入りませんか?』というスカウトや、『配信の件で、詳しく話を聞かせてほしい』というマスコミ関係のもの。


 蓮はまだクランに入る気がない。

 少し探すと、彼が求めていたものがあった。


【地獄谷ダンジョン30階層までのポーター兼護衛依頼。依頼料50万円(交通費全額支給、成功報酬は別途相談)】


 依頼主は暁組(あかつきぐみ)

 有名なA級パーティーだ。


 備考欄にはこう書かれていた。


【キマイラを倒された方とお見受けします。その実力を見込んでの特別オファーです。是非あなたのお力をお貸しください】


「30階層まで行くだけで50万か。ありだな。今週の土曜なら予定もあいてるし」


 50万円あれば当面の生活費は確保できる。そんなことを考えつつ、蓮は承諾ボタンをタップした。



 ──***──


 2日後の土曜日朝10時、地獄谷ダンジョン入り口にて。


「君が例のポーター?」


 待ち合わせ場所に現れたのは、歴戦の雰囲気を纏う男性ふたり、女性ひとりの3人組だった。声をかけてきたのはリーダーで槍使いの男。


「はい。ポーターの"レン"です」


 蓮はポーターのバイトをする時、そのままレンと名乗っている。ダンジョン攻略の時はずっと配信されているので本名を隠して活動する人も多いが、だからこそ本名でいても知り合いにバレにくい。


「今回、緊急時は戦闘員もやらせてもらいます」


「あぁ。依頼を受けてくれてありがとう。俺は暁組でリーダーしてるカイトだ」


「よろしくお願いします」


 蓮が頭を下げると、リーダーの後ろにいた大柄な男が露骨に舌打ちをした。


「マジでこんな顔も見せねぇガキに50万も払うのかよ?」


 巨大な戦斧を背負った男は、蓮を頭からつま先までジロジロと見て鼻で笑う。リーダーのカイトと違って自己紹介しようともしない。


「動画なんていくらでも加工できるだろ。再生数稼ぎのフェイク動画なんじゃねーの? こんなヒョロいやつに大金払って支援を頼むなんてどうかしてるぜ」


「やめろ、リュージ。事前に説明しただろ。俺たちは今回、確実に25階層まで到達する必要があるんだ。協会からの依頼を無事にこなせば信頼スコアが上がって、アイテムの買取に補助がつく。彼はそのための保険だよ」


 戦斧の男はリュージという名前。


(リュージさんね。でも自己紹介されてないのに俺が名前を呼ぶと怒る人もいるから、気を付けなきゃいけないな)


「保険がこんな細身の男じゃ不安だね。いいか小僧、足手まといになったら即置いていくからな。そうなったらもちろん金は払わねぇぞ」


「それは契約違反なんですけど」


「うるせぇ!!」


「……わかりました。足手まといにならないようにします」


 もうひとりの女性魔術師も、あからさまに不安そうな顔をしている。無理もない。A級パーティーに同行するポーター相場は高くても1回5〜10万円程度。その5倍以上の金額をまだ実績が少ない蓮に払おうというのだから。


(実力で認めてもらうしかないね)


 蓮はそれ以上何も言わず、彼らの巨大な荷物を背負った。ちなみに普通のポーターは『荷運び』という一般的なスキルを使うが、彼はそれが無くても問題ないため使っていない。



 ──***──


 ダンジョンに入って30分後。


 カイト率いる一行は転移石を使って20階層まで移動し、今は23階層の湿地エリアを進んでいる。


 足場が悪く、視界も悪い。

 A級パーティーでも神経を使うエリアだ。


「おいポーター、遅れるなよ」


 先頭を行くリュージが振り返りざまに怒鳴る。


「問題ありません。ついて行ってます」


「口答えすんな!」


(今のは口答えじゃないだろ……)


 ただ蓮に文句を言いたいだけのようだった。


「大体なぁ、俺はまだ納得してねぇんだ。50万もあれば新しい防具が買えた。それをこんなガキに……」


 不満を垂れ流しながら巨大なシダ植物の葉を戦斧で払った、その瞬間。


 ──シャアッ!


 植物の影から風景に擬態していたアサシンマンティスが飛び出した。見た目は 巨大なカマキリで、危険度A級のモンスター。その鎌は鉄を容易く切り裂く。


 正面から戦えばA級パーティーは、危険度A級のモンスターに勝てる。そういうランク付けなのだが、今回は完全に死角からの奇襲。


 リュージが反応できていない。


「しまっ──」


 カイトの槍も、魔術師の詠唱も間に合わない。アサシンマンティスの刃が、リュージの首を跳ね飛ばそうと迫る。


 彼の顔が恐怖に歪んだ。


(油断大敵ですよ──っと)


 蓮が愛用のクナイでリュージに迫る鎌を切り落として安全を確保し、そのまま流れるような動作でアサシンマンティスの首を刎ねた。


「……えっ?」


 目の前で起きた事象を信じられず、リュージが呆けた声を漏らす。


 A級の攻略者である自分がその気配に全く気付けなかったモンスターの接近を、まるで知っていたかのようにあっさりと対処してしまった。そして刃渡り15センチ程度のクナイで、大型の鎌をスッパリ切り落としてしまったことも信じられなかったのだ。


 一方で蓮はクナイ型スコップに付着した体液を振って落とすと、何事もなかったかのように定位置である隊列の最後尾へと戻る。


「進路クリアです。先を急ぎましょう」


「あ、あぁ……」


 青ざめた顔でリュージは自身の足元に転がるカマキリの死骸と俺の顔を交互に見ていた。視認すらできない速度での抜刀と斬撃。


 それを不安定な足場で、巨大な荷物を背負ったままやってのけた。


 この瞬間、蓮を見る彼らの目が一変した。

 懐疑の視線は消え失せ、代わりに畏敬の念が宿る。


「カイトの判断は正しかったみてぇだ。悪かったな、レン。背中は任せる」


「はい。任されました」


 こうして蓮はたった一度の戦闘でその技量を見せつけ、A級パーティーの臨時メンバーとして正式に認められた。

 

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