第47話
「見えた。たぶんアレがボスっすね」
奏多と颯は矢を放ってくるボスの姿が見える場所まで接近していた。
「腕4本あるじゃん。だから連射できたのか」
ボスの身長は2メートルほど。通常の腕とは別に、背中からもう2本の腕が飛び出しており、ふたつの右手に矢を、左手に弓を持っていた。
「攻撃が来るっす! ハヤテ、ガードを!!」
「おっけぇーいっ!!」
奏多より前に出た颯がガードスキルを発動させるのとほぼ同時に強力な攻撃が彼らを襲った。
「あっぶね。やっぱこの距離だと威力が違うな」
「大剣じゃないと防げないっすね。ただ大剣でも正面から受け続けると耐久値がゴリゴリ削られるんで、こうやって斜めにして受け流すと良いっす」
「了解!」
直後に飛来した矢の攻撃を、颯は奏多に教えられたとおり器用に大剣で受け流した。
「一回でやってみせるとか成長性ヤバいっすね」
「俺は最強ポーターに期待されてる新人だからな」
攻撃が来ないのを確認し、彼らは再びボスに向かって走り出す。
「このまま俺が前で行く」
「頼むっす。レンたちはまだ──あっ!」
右後方の遠くから、超高速でこちらに向かってくる存在がいた。
「やっばい速度でレンたちが来てるっす!」
「あっちはスイがいるだろ? そんな速度って」
ガード担当の颯はボスから目を離せないので、奏多が彼の目となる。
「レンがスイを抱っこしてるっす!」
「はぁ!?」
思わず颯が蓮たちの方に顔を向けた。
それをボスは見逃さない。
ゾワっとした殺気を感じ取り、颯がギリギリで攻撃を防ぐ。
「──っぶねぇ!!」
攻撃は防げたが、スキルによるガードであったため足が止まってしまう。とはいえボスまでの距離は蓮と翠より、颯と奏多の方が圧倒的に近い。
彼らはどちらが先に90階層のボスを倒せるか競っていた。
風魔 蓮は負けず嫌いである。
勝つための合図を翠に伝える。
「スイ、ボスが見えた。魔法をよろしく」
「は、はい!」
事前に決めていた通り、超高速で走る蓮にお姫様抱っこされたままの翠は魔法の詠唱をはじめた。
「あっ! それはズルいっす!!」
奏多が気付き、慌ててボスに向かおうとするが、もう遅い。
最高時速300kmの配信用ドローンを置き去りにせんとする勢いで、風魔 蓮が風を切り裂き爆走していた。彼に抱かれている翠の視界では、景色が激流のように後ろへと流れていく。
翠に極力揺れが伝わらないよう蓮は特殊な歩法で走っているが、それでも遠距離で魔法を当てるには安定した足場が必要だ。
「スイ、一瞬だけ射線を固定する。撃てるか?」
「いけるよ! 火炎の理、暴威の轍となりて道を拓け──」
翠は蓮の首に腕を回したまま、自由な左手を前方に突き出した。彼女が詠唱するのは広範囲殲滅型の極大魔法『焦熱極星・ノヴァ』と対を成す、速度と貫通力に特化したもうひとつの極大魔法。
「3、2、1、いまっ!」
蓮が地面を爆砕するほど踏み込み、一瞬だけボスの真正面へと身体を固定した。その瞬間、翠の指先から魔法が解き放たれる。
「赫灼彗星・レイ!!」
それはもはや魔法という概念を超えた光の杭だった。時速300kmで疾走する蓮から生み出された凄まじい慣性エネルギー。それがS級最強クラスの翠の魔法と完全に同期し、魔法自体の弾速を物理限界まで押し上げたのだ。
紅蓮の閃光が、ダンジョン内の大気を焼き焦がしながら空間を貫く。
ボスが弓を構え直す暇などなかった。四本の腕が防御姿勢を取るよりも速く、神速の火柱がその胸部を一撃で貫通した。
断末魔が轟音にかき消される。直撃の余波だけで地面が深く抉れ、衝撃波が先行していた颯と奏多の髪を激しくなびかせた。
蓮は着弾の瞬間には既に慣性を殺して停止し、唖然とする颯と奏多の隣にふわりと翠を地面に降ろした。
「はい、俺たちの勝ち!」
蓮が勝ち誇ったように笑顔を見せる。その背後で90階層の主であった四腕の射手は魔法で貫かれた身体の中心から真っ赤に融解し、光の粒子となって霧散していった。
「スイ×レンの融合魔法ってとこっすかね? 次回から勝負の時は禁じ手とするっす」
「なんでだよ」
「あんなのボスが見えた瞬間に勝敗がつくからに決まってんだろ」
「じゃあ勝負じゃないところでまたアレやろうね。もう限界だって思ってた魔法の威力上限を、レン君となら簡単に超えられちゃう」
最強の装備を身に着け、極限まで魔力を込めた魔法。もうそれが限界だと思っていた翠だが、彼女はこの日その壁をぶち破る術を見つけてしまった。




