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忍者の末裔は忍ばない  作者: 木塚 麻弥
第3章 忍者と主君

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第39話 〈配信コメント欄〉

 

 夕方の新宿ダンジョン、50階層。

 風魔(ふうま) (れん)が配信を開始した。


「みなさん、こんにちは。シノヴァーズのレンです」


 ゲリラ的な配信にも関わらず、瞬時に数千人の視聴者がコメント欄に殺到する。


〈レン君、こんちゃ!〉

〈こんにちはー!〉

〈てか1コメ速すぎww〉

〈ずっと張り付いてるからな〉

〈よく見たらハルヒコじゃん〉

〈最古参のファンは流石だな〉

〈まだ登録して2週間とかだろ〉

〈それで最古参ってwww〉

〈ファンクラブは初日で3万人突破した〉

〈マジ?〉

〈初日3万はヤバすぎwwww〉

〈ファンクラブあったんだ〉

〈登録してこよっと〉

〈さっき登録したらNo.147826だった〉

〈じゅうよんまんななせん?〉

〈人気がやべぇ〉


 蓮は忍びの動体視力でこの大量の書き込みでも内容を把握できるが、まだ逸般人になったばかりの枢木(くるるぎ) (はやて)には不可能だった。


「これヤバいな。書き込みが多すぎてなんも見えねぇ」


「情報教えてもらいたいときとかは困っちゃうかもっす」


 沙霧(さぎり) 奏多(かなた)は隠密系の忍び。現代の沙霧一族は情報処理技術にも長けている。彼女も蓮と同じように書き込み内容を見ることは出来るが、これだけのコメントがあるダンジョン配信は初めての経験だった。


「困った時は投げ銭してもらえばいいんじゃない? 投げ銭なら、しばらくコメントが固定されるんでしょ? 俺のブースもついに収益化できるようになったし」


 投げ銭すれば書き込みが目立つように表示される。ただそれは、配信者を応援したいと思った視聴者がやる行動である。質問に答えるという行為は配信者に()()()()()である。投げ銭も与える行為。やり取りはギブ&テイクだから成り立つはずだが、蓮の提案では視聴者からしたらギブ&ギブになってしまう。


「レンは馬鹿なの? こっちの質問に答えるためだけに投げ銭する人なんて──」


 ピローン!

 ピローン!

 ピピピロピローン!


 投げ銭の音が止まらない。


〈なんか聞きたいことあったら任せて〉

〈すぐに調べて報告してあげる〉

〈回答は投げ銭で報告ね〉

〈おっけー、把握した〉

〈いくらでも貢いじゃうよ〉

〈その代わりダンジョン攻略を頑張れ〉

〈マジで君らの新情報期待してるから〉


 これらは全て1万円以上の投げ銭に添えられたコメントである。投げ銭は100円から可能だが、金額に応じて画面に残れる時間が変わる。1万円以下は一瞬で流れて画面から消えてしまうほどの熱狂具合であった。


「……レン、これは別の意味でヤバい。緊急時以外は無闇に質問しない方がいい」


「なんでさ」


「今の一瞬で数十万も投げられたんだぞ!? それに俺たちは報いるだけの情報を提供できるのか!?」


「いけるっしょ。俺たちはこれから未踏破ダンジョンをどんどん攻略していくんだから。先行投資ってことで、ありがたくもらおうぜ」

 

 蓮は一切臆さずに言いきった。

 それにまた視聴者は熱狂する。


〈いいねぇ〉

〈そーゆーの凄くいいよ!〉

〈強者の余裕だwww〉

〈さらっと言うのアツすぎww〉

〈かっこよ〉

〈俺もそんなセリフ言ってみてぇ〉

〈強者が言うから意味あるんよ〉

〈そそ、俺らが言ってもサムいだけ〉

〈レンだとサムく感じないもんなぁ〉


 まだまだ盛り上がりを見せるコメント欄。この状態で放置すればさらに投げ銭を貰える可能性はあるが、蓮はあえて流れを切りにいった。


「はいはーい。みなさん。今日は重大発表があります!」


〈ん? なになに?〉

〈結成数日でシノヴァーズ解散〉

〈おい縁起悪ぃこと言うなって〉

〈迷惑行為で通報すんぞ〉

〈ごめんごめん〉

〈普通に新メンバー加入とかじゃね〉

〈あー。魔法職がいないもんな〉

〈もしくは他のパーティーと合併〉

〈それは個人的にヤダなぁ〉

〈俺も〉

〈シノヴァーズは単独で頑張ってほしい〉

〈でも未踏破ダンジョン行くんだろ?〉

〈だったら戦力増強は必須だよな〉


「チラッと正解のコメントが見えましたね。さ、こっちに来て」


 蓮が撮影用ドローンの死角にいる誰かを手招きした。


 呼ばれて配信画面に現れたのは、純白の魔導軽鎧(メイジメイル)に身を包んだ人物。白い仮面で顔を隠しているが、シルエットから女性であることが判る。そして配信を見ているほぼ全て人が、彼女のことを知っていた。


〈えっ、まさか──〉

〈おいおいおいおい嘘だろ!?〉

〈いやいやいや無いって〉

〈ちょい待て。それはダメだろ〉


「日本でたったふたりのTier 1(ティアワン)。そのうちのひとりであるスイが、シノヴァーズに参加してくれることになりました!」


「スイです。よろしくお願いします」


 蓮の隣に立った翠がペコっと頭を下げた。その瞬間、コメント欄が歓喜と絶望で溢れ返した。


〈やべぇぇぇぇぇええええ!!!〉

〈マジで!? マジでスイちゃんなの!?〉

〈魔法職いないからって最強を引き込むな!〉

〈いや、確かに魔法職募集してたよ?〉

〈俺らも魔法職入れるべきって言った〉

〈でもそれでスイを入れるのはヤバい〉

〈レンがスカウトとして優秀過ぎる件w〉

〈アークナイツはどうなんの?〉

〈そういえばしばらく休むって言ってた〉

〈てっきり1~2週間くらいかと……〉

〈まじかぁ。スイちゃんこっち来たの〉

〈じゃあ、シノヴァーズが最強?〉

〈割とそれあるぞ〉

〈深淵1層攻略のレンとスイはヤバい〉

〈ハヤテとカナタもレンに劣らず強いな〉

〈マジで最強じゃん!〉

〈この面子での攻略楽しみ!〉

〈いや、今日はこれだけで脳が限界よ〉

〈もうダンジョン攻略しなくてよくね?〉

〈私も割とお腹いっぱいですw〉

 

 混乱が起きているコメント欄に、翠はさらに燃料を投下していく。


「実はですね、私まだ学生なんです。今年ダンジョン育成機関に入ったばかりです」


〈…………は?〉

〈ん?????〉

〈それマジ?〉

〈が、学生って?〉

〈もももしかして今までは特別指定?〉

〈高校生であの強さだったってこと!?〉

〈あ、まって。それもレンと同じだ〉

〈確か、今年から攻略者育成機関に行くって〉

〈──っ!!!!〉

〈最強ポーターと最強魔法使いが同い年?〉

〈やばいやばいやばい情報多すぎ〉


「今は富嶽学園って所で、レンたちと一緒にダンジョン攻略について勉強中です。4年間しっかりお勉強したら、また攻略者のお仕事をします。もしアークナイツのみんなが戻ってきても良いよって言ってくれたら、レンたちと相談してどうするか決めようかなって思ってます」


「俺は卒業しても一緒にいてほしいなぁ。スイが抜けちゃうの寂しい」


「えー! じゃあ、やっぱりずっとシノヴァーズにいます!」


〈変わり身の速さよww〉

〈スイちゃん可愛い!〉

〈レンは女たらしスキル高い〉

〈アークナイツの人可哀そうw〉

〈でもレイド組めばいいっしょ〉

〈そうか、その手もあるな〉


 レイドとは複数のパーティーが協力して強大なボスモンスターに挑むこと。A級やS級ダンジョン攻略では一般的に行われている行為だ。



「さて、スイの紹介もすんだし……。俺たちは今日、この新宿のダンジョンを攻略していきます。今日こそ完全踏破までいきたいなーと」


〈あれ、もしかして聞いてない?〉

〈ダンジョン拡張されたんだよ〉

〈なんかボス倒してもクリアにならん〉

〈何階層がゴールかもわからんのだよ〉

〈流石に50階層から踏破は無理ゲー〉


 書き込まれる情報は蓮も知っていた。普通に攻略すれば50階層から80階層を越え、さらにどれだけ拡張されたか不明な新宿ダンジョンを完全攻略するなど絶対に不可能である。


 ただ彼には自信があった。


 ダンジョンにはポータルがある。転移石を使えば、攻略済みの階層に移動ができる。また攻略したことがないダンジョンでも、特定の階層ごとにいる中ボスを倒せばその先の階層の中ボスの元へ転移するのを選択可能になる。


 しかしほとんどの攻略者がこのシステムを使わない。


 なぜなら中ボスがありえないほど強化されてしまうからだ。


 例えば総階層が30で、5階層ごとに中ボスがいるダンジョンの場合。5階層で攻略者を待ち構える中ボスは、1から5階層までの間にどれだけ雑魚モンスターを倒したかで強さが変わる。基本的にモンスターを多く倒すほど、中ボスは弱体化する。


 1階層を突破する間に攻略者パーティーが戦うモンスターの数は平均50体。


 つまり10階層スキップすれば、およそ500体分のモンスターが同時に襲ってくるような強さが中ボスに追加されてしまう。よほど己の強さや技に自信がなければやろうと思えない行為である。


 更に雑魚モンスターを大量に倒していれば得られたはずの素材なども集まらない。ダンジョン踏破をどうしても急ぎたい攻略者だけがとる選択。蓮はそれを強行しようとしていた。


 本当はA級ダンジョンなど興味はない。

 でもクリアしておかないと気持ちが悪い。


 そんなゲーマーのような心理で。

 


「まぁ見ててください。俺が集めたメンバーは最強です。今日はそれを証明してみせましょう。では……。シノヴァーズ、出撃」


 蓮の号令で空気が変わる。

 

 4人は走り出した。

 これはダンジョン攻略などではない。

  


 進む先にある全ての障害を薙ぎ倒す蹂躙である。

 

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