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忍者の末裔は忍ばない  作者: 木塚 麻弥
第3章 忍者と主君

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第38話

 

 深淵アビスダンジョンの最深層。


 出現するモンスターが凶悪すぎて攻略不可能とされる深淵にも、モンスターが近寄らないセーフエリアがある。


 ここのセーフエリアには小さな泉があった。澄んだ水が湧き出ており、周囲に生えた木々からは体力回復効果のある木の実が採れる。ダンジョン攻略者が終焉のボスに挑む直前、身を休めるために()()()()場所だ。


 人がこの場に足を踏み入れたことはない。まだこのダンジョンは風魔(ふうま) (れん)がようやく1階層を突破したばかりである。



 白く小さな毛玉が、泉の近くを跳ねている。

 その毛玉は兎の姿をしていた。


「あるじさまぁぁぁ!」


 叫びながら兎が少女の姿になる。髪は白く、耳は兎のまま。


 兎娘が向かう先には、泉のほとりに座る端正な顔立ちの青年がいた。


「あるじさま。たいへん! けんしんがやられちゃった!」


 青年の膝の上に乗ると、兎娘は彼の顔を見上げて緊急事態を告げる。それはS級の上越じょうえつダンジョンで、隠れボスとして君臨していたケンシンというモンスターが討伐されたという報告。


「へぇ……。もう彼を倒す人間が現れたんだ。S級攻略者の誰かかな? 何人ものS級が集まって本格的に攻略を始めたとか?」


「ちがう。けんしんをたおしたのは、ひとりだった。あれはたぶん、にんじゃ」


「えー。そうなの? でもダンジョンを創ってすぐの頃、忍者がたくさんやってきたけどケンシンは全て撃退してたよね。力を解放したこともなかった。それから何年も彼を倒せる人間はいなかったのに、どうして急に」


「だんじょんのぶきが、いっかいのこうげきでこわれてた。あのにんじゃ、やばい」


 この報告を聞き、青年の顔が明るくなった。


「いいねぇ。僕が創った武器を、一回で使い潰せる人間がついに出てきたのか。人類がダンジョンに適応して一段階強くなったとみなして良いだろう」


「けんしんがたおされたのに、あるじさまはうれしそう」


「彼は自分の役割をまっとうしたんだよ。僕らが時代の移り変わりを知る、関門としての役割をね。だからこれは喜ばしいことなんだ」


 青年が兎娘を地面に降ろし、立ち上がる。

 

「あるじさま、どこいく?」


「ユキ、ついておいで。ダンジョンのアップグレードをはじめるよ。攻略者たちのために武器を強くしてあげよう。ケンシンを倒した彼が使っても、壊れないように。それから他の国でダンジョンを管理している仲間たちにも、人類の進化を伝えないと」



 ──***──


 この日、世界中のダンジョンで異変が起こった。


 ダンジョン攻略者たちが所有する武器の攻撃力が目に見えて上昇したのだ。装備の防御力も大幅に上がっている。装備だけでなく、ダンジョンで採れる素材やアイテムの質も向上した。新たに得られた素材で装備を作製すれば、これまでと同じレシピで同じ作り方をしても強力な装備が完成する。


 人々は歓喜した。今まで苦戦してたダンジョンを、今後は楽に完全攻略できるようになると思ったのだ。


 しかし少し時間が経つと、人類はそれが勘違いであったことを知る。


 確かに武器やアイテムは強くなった。ダンジョン下層や浅層のモンスターの強さにも変化はない。問題はダンジョンのボスを倒した後にあった。


 それまでボスを倒せば踏破達成となったダンジョンに、更なる上層や深層が追加されたのだ。今までラスボスだったモンスターは中ボスとなり、倒してもダンジョン踏破の報酬がもらえなくなってしまった。


 ダンジョンが現れてからこれまで、このような事象は発生したことがない。世界中で混乱が起きた。それだけダンジョン攻略関連で生計を立てている人間が多かった。


 なぜいきなりこんなことに? 多くの人が抱いたその疑問の答えが、たったひとりの日本人の青年であることはまだ知られていない。



 その頃──

 深淵の最下層、泉のそばにて。


「ユキ、そういえばケンシンを倒した忍者の名前わかる? 人相とかも」


「わかる。なまえは、ふうま れん」


 そう言いながらユキが半透明のボードを出現させる。そこには大太刀を構え、たった一撃で当時最強クラスの設定だった鎧武者を屠る蓮の姿が映し出されていた。


「……風魔(ふうま) (れん)か。どこかで聞いた名前だな」


 世界にダンジョンを創り出した上位存在。

 そのうちの一体に蓮が認識された。

 

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