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忍者の末裔は忍ばない  作者: 木塚 麻弥
第3章 忍者と主君

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第36話

 

 俺と颯、沙霧さんと翠様は、不知火先生に連れられて講義棟の地下にある訓練場に来ていた。今日もここからダンジョンの()()()()()()を利用して、目的のS級ダンジョンへと移動するらしい。


 ポータルとは、ある場所から別の場所へ瞬時に移動可能なダンジョン特有の機能で、全てのダンジョンにポータルが存在する。その種類は2つ。ダンジョン全体の層数に応じて5階層や10階層ごとに攻略済みの階層まで移動可能な『層間ポータル』と、今回彼らが利用しようとしている『ダンジョン間ポータル』だ。


「毎回思うけど、ダンジョン間ポータルで富嶽学園から任意のダンジョンに飛べるの便利すぎるよな」


「でもここは本物じゃなくて疑似ダンジョンだから、ポータル1回使うのに転移石を2個も消費するんすよ。それでちょっと強引な転移してるみたいっす」


 層間でもダンジョン間でも、ポータルの使用には『転移石』というアイテムが必要になる。これはレアアイテムであり、市場ではかなり高額で取引されている。


 まだ俺は転移石をゲットしたことがない。もし持っていたら深淵アビスダンジョンの攻略に利用している。遠いんだよな、深淵。


 どこかで効率よく転移石がゲットできるダンジョンがないものか……。


「まだ攻略者証ライセンスを受けたばかりの学生が、学園のポータルを使用して移動することは通常許可されない。しかしこの特進Sクラスでは今日までに3回もポータルを利用している。その理由は分かるな? 学園が君たちに期待しているんだ。ぜひその期待に応えてくれ」


 そう言いながら不知火先生がポータルに入って行った。どこのダンジョンを攻略するかはまだ聞いてない。


 今日はS級ダンジョンに行くって聞かされてから、ずっと嫌な予感がしている。


「ん? 蓮君、どうしたんすか?」


「いくぞー、蓮」


 沙霧さんと颯がポータルの中に入った。

 後を追うように北条さんも。


 ちなみに俺は今日も荷物運び(ポーター)の恰好をしている。不知火先生の指示だった。俺も戦えますって言ったんだけど、『ダンジョン適性が低い者は黙って従え』──だと。なんかモヤモヤする。


「いやだなぁ」


 そう呟きつつも、主君である翠様に何かあったら困るので同行しないという選択肢はない。俺は重い足取りでポータルの中へ進んだ。



 ──***──


「よし。全員揃ったな。今日はここ、上越じょうえつダンジョンに挑戦する」


 移動してきた先は新潟県だった。


「不知火先生。上越ダンジョンは未踏破ではありませんが、完全クリアした攻略者が極端に少ないダンジョンです」


「流石だ枢木くるるぎ。良く知っているな。もちろんこのダンジョンを踏破せよとは言わない。今のお前たちが、S級ダンジョンでどれくらい立ち回れるかを見るのが目的だ。あまり無理しなくても良い」


「なんだ。そういうことですか」


風魔(ふうま) (れん)、お前にはいつものようにポーターをしてもらうが、必要に応じて戦闘も許可する」


「はーい」


 別にあなたに許可されなくても、ヤバそうだったら勝手に戦いますけど。とはいえ俺が翠様の前で全力で戦えるかは、実際やってみないと分かんないな。


「準備はいいな。では枢木が先頭で進め。出発だ」


 不知火先生が俺の後ろに着いた。


 引率と言いつつも、前でパーティーを引っ張っていくわけではないらしい。まぁ、そりゃそうか。先生が戦っちゃ俺たちの訓練にならないもんな。


 ただ……。


 なんでこの先生、俺に殺意持ってんだよ。


 

 ──***──


 背後からの殺意が気になりながらも、俺たちは順調にダンジョン内を進んでいた。


「枢木君、右に盾を!」

「御意!」


 翠様の指示に従い、颯が大剣を構えて盾スキルを発動させる。


 ──直後、広範囲を超高温の炎が吹き荒れた。


 俺たちは颯が展開した防御スキルの範囲内にいたおかげで全員がノーダメージだ。


「良い読みだ、北条。枢木も指示を受けてからの行動が素早く、防御も素晴らしい」


「枢木君、ありがと。敵を倒すのは任せてね。燃やし貫け──フレイムランス!」


 詠唱が短い下級魔法で、翠様はレッドヒュドラというドラゴンみたいなモンスターを瞬殺していた。本気になった翠様の魔法、マジでやべぇ。


 ていうか颯、翠様に褒められていいなぁ。

 ちょっとそこのポジション変わってくんない?


 ジッと睨んでいたら、殺気を感じたのか颯が身体を大きくビクつかせていた。 



「あのモンスター、めっちゃ硬くて俺じゃなんもできんかったっす」


「レッドヒュドラの鱗は硬く、高温だ。特に鱗が赤熱している状態で攻撃すれば武器が溶けかねんから注意するように」


「了解っす」


 不知火先生って、ちゃんと先生なんだ。まだあまり討伐例のないモンスターの特性を良く知ってる。S級攻略者だっていうの、本当なのか。実は少し疑ってた。


「普通は特攻のつく氷結魔法で攻撃するのがセオリーなんだが……。まさか耐熱特性が高いレッドヒュドラを下級の炎魔法で倒すとは。恐れ入る魔力量だ」


「先生、私はまだまだこんなもんじゃないですよ!」


 そういいつつ、何故か翠様が俺の方をチラッと見てくる。


 あれかな?

 君とは違うのって言いたいのかな?

 そうだったらちょっと悲しい。


 そんなことを考えていた時だった。




 ミツケタ…、オマエダ



 どこかから声が聞こえた。


 ここはS級ダンジョン。一般の攻略者なんかいるわけがない。そしてここまでハッキリと聞こえる人語をを話すモンスターなんてほとんどいない。


 もしいるとしたら、それは危険度S級の中でも最上位の──



 あ、ヤバいっ!

 ()()()()はヤバい気がする。


 俺の忍びとしての勘がそう告げている。


 身体が無意識に動く。

 足が勝手に走り出していた。


 向かう先は沙霧さんと話している翠様。

 彼女はまだ気づいていない。

 

 全力で手を伸ばす。



「翠様!!」


「えっ──」


 俺の手が届くより早く、翠様と沙霧さんの身体が突如現れた闇に飲まれた。


 強制召喚だ。


 これが使えるモンスターを、俺は1種だけ知っている。


「あ、あれ? 北条さんと沙霧さんは? なんか今、消えなかった?」


 状況が理解できていない様子の颯。

 そして引率の不知火先生はというと。


「う、うそだ……。なんで北条と奏多様を? おお、おかしいだろ。なんで連れていくのが、風魔 蓮じゃないんだ!?」


 うわ言の様に呟きながら、膝をついて絶望した顔をしていた。


 彼女の言葉を聞いて状況を理解した。


 この先生、最低だ。

 俺を殺そうとしやがった。


 

 上越ダンジョンには『ケンシン』と名付けられたモンスターがいる。鎧武者の恰好をした最強クラスのモンスターで、人語を話す。


 そしてなにより好戦的。ある一定以上の強さを持った獲物がダンジョンに足を踏み入れた際は、強制召喚で呼び寄せる。


 これらの情報はダンジョン管理局にも知られていない。S級上位の攻略者であっても、普通はケンシンの食指が動かないからだ。


 ではなんで俺がそれを知っているかというと、まだダンジョン攻略の配信が義務化される前、ダンジョン攻略に躍起になっていた風魔の忍びたちが何人もケンシンに殺されているから。つまり風魔の里の怨敵であるともいえる。


 ただ翠様を誘拐したのがケンシンだと分かって、安心できた点もある。そいつはすぐに獲物を殺さない。力を認めた強者が最大火力で戦えるよう待ってくれる、謂わば狂ったモンスター。


 時間はあまりないかもしれないけど、まだ希望はある。



「颯、先生を連れてダンジョンの外に逃げて。10分だけモンスターが接近して来なくなる護符があるから、これを使って」


「え? じゃ、じゃあ蓮は?」


「俺の姫様が連れ去られたんだ。もちろん助けに行く」


「なら俺も行く」

「わ、私も! 奏多様を助けなければ」


「あなたは邪魔です」

「かはっ──」


 不知火先生の首の後ろを手刀で叩いて意識を奪う。

 

 ちょっと手荒だけど、俺をケンシンと戦わせて殺そうとしたんだからこのくらい許されるだろ。むしろ仕返しとして、このままS級モンスターが跋扈するダンジョン内に意識が無い状態で放置してやろうとも思うけど……。


 この人を姉弟子として、沙霧さんが慕ってるっぽいんだよなぁ。


「颯、先生を連れて逃げて。ついて来ようとしても俺はお前を置いていく」


「……わかった。何階層まで行くのか知らんけど、ふたりを追いかけるならこの護符、蓮が使った方が良いんじゃない?」


「必要ない。あと逃げる時、無理そうだったらその人を捨てて逃げればいいから」


「ひでぇこと言うなぁ。でも命を大事に逃げるよ。お前は主君の救出、頑張れ」


 そう言いながら真っすぐ俺を見て、拳を突き出してきた。俺がしくじるとは一切思っていない様子。


 放課後、俺は翠様をシノヴァーズに誘わなきゃいけない。これから一緒に色んなダンジョンを攻略していくんだ。こんなところで死なせるわけにはいかない。



「おう。じゃあまた後でな!」


 俺は颯の拳に自分の拳を軽く当て、その場から移動を開始した。

 

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