第35話
月曜日の朝。蓮と颯、奏多は一緒に学生寮を出て、3人で教室へ向かっていた。
「結局、80階層まで行けなかったっすね」
「颯の修行を優先したからな」
「すまねぇ。やっぱガチの忍者と比べると、俺ってまだ弱いんだなーって痛感する」
「あんま気にしなくて良いよ。俺らは忍びの中でも強い方だから」
「とはいっても俺と蓮君が同列ってのはありえないんで、そこんとこ勘違いしないでほしいっす。俺から見ても蓮君はバケモノっすよ」
「なるほど。俺の師匠ってヤバい人なんだ」
「そんなヤバい師匠が君のことを才能ありって認めてるんだから、自信もって。そのうち颯は深淵1階層をソロ突破できるくらいにはなる」
「マジかよ」
「あの、ぜひ俺も蓮君に修行してもらいたいっす」
「もちろんそのつもりだよ。嫌だって言っても逃がしてあげないからね」
「えっ」
失言だったのではと奏多が少し後悔した。
──***──
教室に着き、扉を開けて中に入る。
クラスメイトたちから浴びせられる視線。ひときわ強烈な、殺意すら籠っていそうな視線を北条 翠が3人に向けていた。
ちょっとよろしくない空気を感じ取り、蓮は静かに扉を閉めた。
「ヤバい。翠様がかなりお怒りだ」
「だから流石に日曜は北条さんも誘った方が良いんじゃないかって言っただろ。俺ら3人で攻略してるのなんて、絶対みんな気付いてるんだから」
彼らはレン、ハヤテ、カナタとお互いを呼び合っている。戦闘スタイルも学園で講義を受けるときと変えていない。さらにその様子は配信され、数々の切り抜き動画なども作られている。
もはやクラスメイトにバレていないと考える方がおかしい状態だった。
「北条さんのアレは常人が出せる殺気じゃないっす。蓮君、骨は拾ってやるから大人しく成仏するっすよ」
「いやだ、まだ死にたくない。ちゃんと今日の放課後に誘うって」
「放課後までどうすんだよ。今日の講義内容は知らないけど、もしダンジョン攻略だったら困るだろ」
「も、もちろん翠様から昨日までのこととか、何か聞かれたら素直に答えるし、雰囲気が良さそうならパーティーに誘ってみる。というか君らが翠様を誘ってくれればいいんじゃね?」
「それはダメだな」
「それはダメっすよ」
「なんでさ!?」
「お前、本能で北条さんが主君だって分かっちゃうレベルの臣下なんだろ? じゃあ声かけるのは蓮の仕事。まだ忍者になりたての俺には主君への上奏なんて荷が重い」
「蓮君は俺らシノヴァーズのリーダーでもあるっす。パーティーへの勧誘はリーダーがしなきゃダメって昔から決まってるっす」
「うぐっ」
その後、とりあえず北条 翠をパーティーに誘うのは放課後ということに決め、講義が始まる時間になったので3人は教室の中へと入った。
──***──
「今日も2班に別れてダンジョン攻略を行う」
いつものように不知火が授業の内容を話す。ただこの日、教室に来た教師は彼女だけではなかった。
「いつも私と一緒にダンジョン攻略に向かうメンバーには今日、ここにいる九十九 一とB級ダンジョンに向かってもらう」
その言葉に対して、クラス内がざわつく。まだ攻略者になりたての彼らにとってB級ダンジョンと言うのは未知の領域であった。
「大丈夫、君らなら行ける。A級攻略者でもある俺が、君たちの攻略動画を見てそう判断した。一緒に頑張ろう!」
引率の九十九という教師がA級攻略者であることを知り、いつもは不知火 華と攻略している6名の生徒の顔に安堵の色が見えた。
「みんなの方に不知火先生がついて行かないってことは……」
蓮はなんとなく嫌な予感がした。それは不知火がパーティーに同行する可能性を感じたからではない。彼女が強い攻略者だと気づいていたからだ。
もともとA級ダンジョンでも余裕のある最強攻略者の翠がいて、そこに強い教師が合流するともなれば、向かう先は──
「北条 翠、沙霧 奏多、枢木 颯、風魔 蓮の4名。そしてS級攻略者の私が引率となり、今日はS級ダンジョンに挑む」
「え、S級!?」
「それは、ちょっと無理ないっすか?」
颯と奏多は唖然とした。
蓮は嫌な予感が当たり肩を落とす。
一方で翠は嬉々として手をあげ、発言する。
「はい、不知火先生!」
「どうした?」
「S級ダンジョンなら、私も全力で戦って良いんですよね?」
「構わん。むしろそうでなければ生きて帰れないぞ」
その発言を聞き、翠は小さくガッツポーズをしていた。
これまで彼女は蓮たちに全力を見せたことがない。だからパーティーに誘ってもらえないのだと考えていた。
S級ダンジョン攻略で自身の強さを見せつけることが出来れば、きっと蓮たちの仲間に誘ってもらえると信じていたのだ。
「先生、私がんばります!!」
不知火に向かって宣言したが、それは蓮たちに対するアピールでもあった。




