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忍者の末裔は忍ばない  作者: 木塚 麻弥
第3章 忍者と主君

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第34話

 

 A級の新宿ダンジョン。

 その中層域である35階層。


 普段であればベテランクラスの攻略者パーティーが慎重に歩を進める危険地帯だが、今日のそこは()()の狩り場と化していた。


 グルルルッ!


 全身が鋼の体毛で覆われた巨獣、アイアンベア。一体でも危険度A級相当のモンスターだ。それが数体の群れとなって襲い掛かってきた。


 A級攻略者パーティーでも即座に退避を決めるかなり危険な状況。しかし目を輝かせ、強敵の襲来を喜ぶ者がいた。


「良い感じの実験台が来たな」


 パーティーの先頭を歩いていた颯が、嬉しそうに大剣を構える。


 彼は今朝、蓮によって丹田の鍵を開けられたばかりだ。まだ力の使い方は手探りだが、新たに力を得たという実感が彼を好戦的にさせていた。


「ハヤテ、突っ込みすぎっすよ!」


「ごめん。俺、試したいことがあるんだ」


 颯が足に力を込めた。地面が爆ぜる。これまでの彼なら身体強化魔法をかけてようやく出せる速度。それがノータイムで、しかも魔法特有のタメもなしに発動した。


 アイアンベアが反応する間もなく、颯は懐へと潜り込む。


 横薙ぎの一閃。

 鋼の毛皮が紙のように容易く両断された。


「魔力強化なしでこれか。すごいな」


 自分の出した威力に颯自身が驚愕する。


 だが群れの他の個体が、その隙を見逃さず左右から襲い掛かった。


「っと、危な――」


 颯が大剣を引き戻そうとした瞬間、彼の両サイドからふたつの影が飛び出した。


 左の熊の首が不可視の斬撃によって瞬時に跳ね飛ぶ。姿を現したのは沙霧(さぎり) 奏多(かなた)。彼女が両手に持った特殊形状の短剣を振るう。


「よそ見してると死ぬっすよ!」


 そして右側には、さらに常軌を逸した光景があった。


「真・雷火天掌」


 ズンッという重い衝撃音と共に蓮の姿がかき消えた。次の瞬間、右側のアイアンベアの巨体が真上に向かって弾け飛んだ。蓮は熊の下に潜り込み、腹部へ掌底を突き上げていたのだ。


 高くまで吹き飛んだ巨獣が地面に叩きつけられ、その場で激しく痙攣する。鋼熊の腹部には内側から破裂したような風穴が開いていた。


「うん。硬い敵には、やっぱり勁の打撃が効くな」


 蓮は何事もなかったように手を払う。

 彼は既に3体のアイアンベアを倒していた。


 わずか十秒足らずの蹂躙劇。A級モンスターの群れが何もできずに全滅した。


「……あの、おふたりさん。強すぎません?」


 颯が呆れたように呟く。


「ハヤテも大概っすよ。さっきの加速とかヤバかったっす」


「ただ速く走ろうと思っただけなんだけど、なんか調子が良かった」


「なるほど。無意識に力が使えるようになってるんすね」


 奏多の言葉に、蓮が満足そうに頷く。


「このエリアは制圧したし、もう少し進んでセーフエリアで休憩しよう」


 3人は撮影用ドローンがこの光景をしっかりと捉えていたことを確認し、悠々とセーフエリアへ向かって歩き出した。


 なお、この時の配信のコメント欄は前代未聞の『A級モンスター瞬殺劇』に阿鼻叫喚となっていた。



 ──***──

 

 ダンジョン内のセーフエリア──そこはモンスターが発生せず、攻略者が休める場所である。なお魔法やアイテムの使用は可能だ。ドローンによる配信義務もない。


 蓮たちは配信を止め、休息をとることにした。


「んー。やっぱり蓮と比べると、俺ってまだまだって感じだな」


 大剣を何度か振りながら、枢木(くるるぎ) (はやて)がそう呟く。


 彼は蓮に丹田の鍵を開けてもらった。体内にある魔力とは別の、魄勁はっけいという力を使えるようになったのだが、颯はその効果をそれほど感じられずにいた。魔力を使った身体強化とさほど変わらないような気がしてしまう。


「力の使いどころを意識して。イメージとして魔力は燃料。使うには詠唱が必要で、効果を得られるまでに時間はかかる。でも長い時間その効果を維持できる。一方で魄勁は火薬だ。一瞬で火が付き、爆発的な力を発揮できる」


 そう言って蓮が魔力を放出し始めた。


 ダンジョン適性が低くても、また物理職であってもダンジョン内では多少の魔力を扱うことが出来る。


「ちょっと見てて。これが魔力の流れ──身体強化魔法パワーアップ


 物理職でも利用できる魔法を使用してみせる。蓮の全身が魔力で満たされ、身体能力が強化された状態になる。


「んでコレが魄勁。今の颯なら見えるはず」


 そう言って蓮が拳に力をこめて前方に打ち出した。何もない空間に放たれた超高速の拳は、まるで空気を破裂させたかのように大きな音を立てて衝撃波を生み出した。


「どう? わかった?」


「……お腹から発生した力が身体中に広がって、それが拳に移動してた。でも魔力と違って外に放出はされてない」


「いいねぇ。ちゃんと見えてる」


「いや、枢木(くるるぎ)君は天才っすか? この短期間で蓮君の魄勁が拳に留まるまでの動作を見切れるとか、並みの忍びじゃ無理っすよ」


「こやつの才能はワシが見出した」


 奏多かなたにドヤ顔を見せつける蓮。


「というか沙霧(さぎり)さんも蓮と同じように忍者なんだ。色々知ってるみたいだし、前々からそうじゃないかなーとは思ってたけど」


「え、あっ。俺は……。いや、今更っすね。そうっす。俺も蓮君と同じく忍びっす」


「颯も忍者になった。沙霧君は素性をバラしてくれた。これで俺たちは忍者集団だな」


 もうこの3人の中で隠し事はない。


 ちなみに奏多が男装していることは颯も気づいていた。バレていないと思っているのは、もはや彼女だけである。


「なるほど。全員が忍びのパーティーだけど、忍ばないからシノヴァーズって名前にしたのか」


「そゆこと」


 ついに颯もパーティー名の真の意味を理解した。


「さ、もう少し魄勁の講義をするぞ」


「お願いします」


「颯は身体強化魔法を使う時、どんなイメージ?」


「全身から魔力を放出して、それで全身を強化させるイメージでやってる。ネットに転がってる動画でそう言ってたから」


 彼らが通う富嶽学園はダンジョン攻略者育成機関である。通常であればそうした基本的なことから教えるが、ダンジョン適性が高すぎる生徒が集められた特進Sクラスでは基礎の講義が省略されていた。


 ダンジョン攻略の動画が出回り、魔法を使う際のコツなども一般に広く知られている。だから実際に魔法を使う際の感覚はダンジョン内で身をもって修得した方が早い。それが特進Sクラスを受け持つ不知火(しらぬい) (はな)の判断であった。


「魔力を使う感覚はそれでいい。でもさっきも言ったように魄勁は火薬だ。丹田から練り出して全身から放出し、使いたい場所に集約──ってイメージでやると遅すぎて本来の力を発揮できない」


「じゃあ、どうすれば?」


「最初から力を使いたい身体の場所に力があるイメージで良い」


 蓮が拳を身体の前で構える。

 その拳が一瞬、眩く輝いた。


「今のが魄勁の真の力。普通は光ったりしないけど、今は分かりやすくするため意図的に発光させた。これに攻撃のタイミングを合わせる」


 セーフエリアの中にあった岩の近くまで蓮が移動していく。


「破片が飛ぶから、その辺で見てて」


 岩に向かって軽く構える蓮。

 彼はゆっくり拳を突き出した。


 岩に当たる瞬間、拳が輝く。


 ドガァァァァン


 遅い拳が当たっただけとは思えない、圧倒的な破壊が起きた。粉々になった岩が遠くまで散らばる。 


「す、すげぇ……」


「ちなみにこのレベルで魄勁が使える忍びなんて滅多にいないっすよ。力を込めた部位を発光させることを、顕現した魄勁って意味で『顕魄けんぱく』って言うんすけど、忍びの間では至高の技術とされてるっす。上忍クラスでも出来る人はほとんどいないっす。攻撃に魄勁のタイミングを合わせるのはそれほど難しくないんすけどね」


「へ、へぇ」


 なんとなく颯も蓮のように拳を構え、そこに意識を集中させる。


 ()()は本当に一瞬だった。

 蓮より短く、蓮より弱い光。


 しかし枢木(くるるぎ) (はやて)の拳は、確かに光輝いた。


「……えっ、光った!?」


 颯は今日、丹田の力を解放されたばかり。それなのに忍びの技の極致ともいえる顕魄を使って見せた。


 それは蓮に神薬、四象錬丹ししょうれんたんを飲まされ、10年修行した忍者と同等の力を得たことを考慮しても理解しがたい偉業。


「枢木君、天才かと思ったけどその域じゃないっすよ? 鬼才とか神才って呼ばれるレベルっす」


「いっただろ? こやつの才能はワシが見出した──ってな」


 蓮が再び奏多にドヤ顔を見せつけた。

 

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