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忍者の末裔は忍ばない  作者: 木塚 麻弥
第3章 忍者と主君

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第30話

 

半蔵(はんぞう)様、お呼びでしょうか?」


不知火(しらぬい)先生、待っておったぞ」


 学長室に音もなく現れた不知火(しらぬい) (はな)に驚くこともなく、沙霧(さぎり) 半蔵(はんぞう)は彼女を呼んだ理由を話し始めた。


「教室での奏多(かなた)の様子はどうだ? クラスのみなとうまくやれておるか?」


「はい。大きな問題ありません。ただ……」


「なにか気になることでも?」


「恐れながら、やはり奏多様のそばに風魔(ふうま) (れん)を置いておくのは危険ではないでしょうか」


「そのことか。仕方あるまい、あの子がそれを望んだのだから」


「し、しかし!」


「奏多から聞いておるぞ。お主が蓮に軽い嫌がらせのようなことをしておると。ダンジョン適性率が高いと分かっている北条(ほうじょう) (すい)のあとに検査させたり、ポーターとしてダンジョン攻略に同行させたりな」


 半蔵に指摘されるが、不知火は悪びれる様子もなく答える。


「はい。聞けば蓮は奏多様を拘束し、胸を揉んだというではありませんか」


「あれは奏多が蓮を尾行した挙句、失敗したからであって」


「関係ありません。例え見逃されたからと言って、あの愚か者を野放しにしておくなど私は納得いっていないのです。半蔵さまのお許しさえ頂ければ、私が今夜にでも彼の首を取ってきます」


 幼いころから奏多に忍びの修行をつけてきた不知火。妹弟子として奏多を可愛がってきた彼女にとって、蓮は許せないことをした悪の存在であった。たとえ奏多が蓮を気に入っていても、それを認めることが出来ないでいたのだ。


「そのことなんだがのぅ。あまり風魔 蓮を刺激しないでほしいのだ」


「な、なぜですか? なぜ半蔵様がそのようなことをおっしゃるのですか」


 思いつめた表情で、半蔵が言いにくそうに口を開いた。このような様子の彼を見るのは初めてのことであり、不知火は困惑する。


「昨晩、奏多が管理棟に忍び込んだ。目的は北条 翠の素性を知ること」


「……北条本家の血筋であると感づかれたのですね」


「左様。そしてその場に蓮も来た」


「蓮も? では、ふたりは一緒に忍び込んだということでしょうか?」


「いや、違う。奏多が先に忍び込み、その後に蓮が来たようだ」


「なるほど。しかし管理棟には中忍たちが警備としていたはず。それらは仕事をしなかったのでしょうか」


「奏多が通った時は、何か儂の用事なのだろうと素通りさせたようだ。そして問題は蓮が通ろうとした時。その日、管理棟の警備に当たっておったのは2名の中忍、そして5名の下忍だ。しかし7名の誰も蓮を見ておらぬという」


「えっ? そんなことが──」


「それだけではない。儂は奏多に3名の上忍を警護としてつけておる」


「申し訳ございません。初耳ですが」


「不知火先生は上忍になったばかりだったな。その者たちはもう30年近く上忍として暗躍してきた、沙霧の里で最高峰の忍びたちだ。お主が気配に気づけぬとも無理はない」


「そのような方々を、奏多様おひとりの護衛に?」


「この学園経営が順調でなぁ。かつてのように血なまぐさい仕事をせずとも、里の皆に十分な給金を渡すことが出来るようになった。それで余った人員を最も重要な人物の護衛としてつけることに、なんの問題がある」


 さも当然のように言い切った。沙霧(さぎり) 半蔵(はんぞう)は孫のこととなると大層甘くなってしまう。


「里長である半蔵様の判断であるなら、私は異論ございません。ところでその護衛の方々も蓮の姿を見ていないのでしょうか?」


「問題があるとすればそこだ。風魔(ふうま) (れん)は管理棟の警備をしていた7名の中下忍に戦闘の気配を感知させることもなく、儂が奏多の警護を頼んでいた上忍3名を無力化させた」


「……は?」


「蓮は上忍3名を倒した後、金庫を開けようとしていた奏多の背後に現れたようだ。監視カメラのたぐいも全てデータを改竄されておったから推測だが」


「ま、待ってください! 私でも気配を感じ取れないレベルの上忍3人を、音もなく倒したというのですか!?」


「当時の状況を当事者たちに確認して整理すると、そういうことになる」


「ありえません!」


「儂も風魔 蓮がそこまで強いとは思っておらんかった。せいぜい全盛期の儂より少し強いくらいだと。だがそれは勘違いだったようだ」


 同じ上忍であっても情報収集などの隠密に長けた沙霧と、護衛や暗殺が主体の風魔では戦力に差がある。蓮はその風魔の里長から免許皆伝を受けた当代最強の忍びである。伊賀や甲賀などの忍者とは比較できないが、少なくとも沙霧の上忍複数人相手に完封出来るだけの力があった。


「儂らが今、こうして生きておられるのは彼の気まぐれだな。孫の頼みだったとは言え、とんでもないバケモノを呼び寄せてしまった」


「そ、そんな……」


「というわけでこれは沙霧の里長としての命令だ。風魔 蓮にあまり構うな。彼が望むようにさせてやれ。良いな?」


 不知火はまだ納得いっていなかった。

 しかし里長の命令には逆らえない。


「承知、しました」

 

 半蔵は不知火が承服していないことに気付いていた。しかし里長として下命したので、彼女がそれに背くことはないだろうと考えたのだ。

 

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