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忍者の末裔は忍ばない  作者: 木塚 麻弥
第3章 忍者と主君

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第29話 北条 翠

 

 私のお父様とお母様は、とても強いダンジョン攻略者だった。


 でもふたりは複数のパーティーとレイドを組んで深淵(アビス)ダンジョンを攻略しようとした時、帰らぬ人となった。


 まだ悲しみの中にいる私の手を引き、叔母おばにダンジョン管理局まで連れてこられた。お父様たちの遺品を回収して現金化することが目的だったみたいだけど、管理局の人の勧めで私のダンジョン適性検査も行われることになった。


 普通、適性検査は高校1年生になった時に行われるって後で知った。当時の私はまだ中学2年生。よく意味も分からず、言われるままに検査装置に手を入れた。その時点で私の適性率は98%もあったの。


 その結果を見た叔母は私に特別指定の試験を受けさせた。


 結果は合格。しかも適性率が高すぎるから、ポーターじゃなくて攻略者として働いてみないかってダンジョン管理局の人から打診された。私は嫌だった。そもそもモンスターがいるダンジョンに入ることも怖かった。


 だけど私はダンジョン攻略者になった。叔母がポーターか攻略者か辞退かを希望を回答する書面で、攻略者を選択して提出しちゃったから。


 あの時は流石に絶望したなぁ。

 

 でも叔母には逆らえなかった。もし特別指定で攻略者になることを拒否したら、私の唯一の居場所がなくなっちゃうって思っていた。今ならシェルターというのがあると知っているけど、当時の私にはあの家しか帰る場所がなかった。


 中学生だと特別指定を受けていても世間の批判が起こりそうだからってことで、私は大きめの全身鎧を着せられて男性4人、女性2人のBランクパーティーに加入させられた。それを手配したのは私の叔母。中学生だってことは絶対に言うなって口止めされた。


 今思えば意味わかんない。まだ13歳だった私に対して、武器を持ってダンジョンでモンスターを殺してこいって言ってくるんだから。彼女は『これはダンジョン適性が高いあなたの宿命だから』って私に言い聞かせた。


 攻略者になって、1年くらいは辛かった。


 ダンジョン適性が高いから、それだけ求められるものが多かった。強力な武器をパーティーが手に入ると私が持たされた。それが一番効果的だって言われて。剣も弓も槍も持ったことすらないのに……。私が武器を上手く扱えないと、パーティーのみんなが冷ややかな目で見てくるの。


 ダンジョンで怪我をしても、誰も心配なんてしてくれない。


『それだけ適性率が高くて、なんで攻撃を避けられないんだ……。回復薬だってタダじゃねーんだぞ』


 当時のパーティーのリーダーさんにそう言われ、泣きながら謝った。


 家に帰っても、叔母は私の心配なんかしてくれない。その頃はもうダンジョン配信が始まっていたから、私が怪我を負ったこともすぐ分かるはず。でも叔母が私を気にかけてくれたことは一度もなかった。


 叔母と会話すると、いつもお金の話をされた。あんまり稼げないことを謝ってばかりだった。

 

 とても辛い日々。

 何度か死んじゃおうかなって思った。


 

 そんな私を救ってくれたのは、ひとりの忍者さん。


『まさか主君の血筋が残っていようとは……。御身の元へ馳せ参じるのが遅くなり、申し訳ございません。たいそう辛い想いをされたようですな。ですがご安心ください。貴方様を害する者は、もうこの世におりません』


 私の15歳の誕生日のことだった。


 私は北条っていう武家の末裔らしい。それでかつての北条氏に仕えていた風魔の忍者さんが、北条の血筋でもないのに私を搾取していた叔母を──


 唯一の家族がいなくなったけど、不思議と悲しくはなかった。私、この時にはもうだいぶ心が壊れちゃってたから。


『貴方様が今後、おひとりで生きていけるだけの手配は済んでおります。ただ、儂が貴女様を御守りし続けることはできません』


 その忍者さんは、顔に深い皺を刻んだカッコいいおじい様だった。重い病気を患っていて、私に長く仕えることは出来ないって言われた。


『不甲斐ないことに、風魔の里は消滅しました。儂には孫がおりますが、もう時代遅れとなった忍びの宿命など背負わせたくはないのです。どうがご容赦ください』


 お孫さん想いの、良いおじい様。

 

 この時、忍者さんに会ったのが最初で最後だった。



 私は結局、ダンジョン攻略者を続けた。

 それしか生き方を知らなかったから。


 そして誰もが認めるS級のTier 1(ティアワン)になった。


 最強攻略者って言われるようになっても、私は誰か信頼できる人に守ってもらいたいって想いがいつも心の中にあった。誰にも言ってないけどね。


 頼れる人なんていない。でもあの忍者さんのお孫さんになら……。そう思って、会ってみたいって思うようになった。



 私がお孫さんを見つけるのは、思っていたより早かった。


 忍者さんが加入とか手配してくれたS級パーティー。そのリーダーさんはとっても良い人で、私がまだ高校生だって知ったら大学に行けるよう取り計らってくれたの。


 色々と悩んで、ダンジョン攻略者育成機関の富嶽学園に入学を決めた。


『次は風魔(ふうま) (れん)、お前だ』


 初日の顔合わせで不知火先生がそうやって彼の名前を呼ばなくても、私は蓮君があの忍者さんの孫だって分かった。


 面影がそっくりなんだもん。


 私は先生にお願いして、風魔君とパーティーが組めるようにしてもらった。この時はじめてS級攻略者になってて良かったって思った。強引にでも要求を通せるからね。



 私は今までどんな強い人と組んでも、完全に背中を任せることなんてできなかった。いつも自分で周囲を常に警戒してきた。


 でも彼──風魔(ふうま) (れん)君は違ったの。武器も持っていないのに、大きな荷物を持っていて素早く動けるように見えないのに、彼が後ろにいてくれるだけで、私は前方のみに意識を向けることができた。


 凄い安心感があった。


 もっと彼とお話したい。

 ずっとそう思っているんだけど──

 

 彼のおじい様の願いを無碍にしたくない。


 どうしても『私を守って』とは言えない。

 じゃあ『一緒に戦おう』ならどうかな?


 在学中限定とはいえ、せっかくパーティーを組んだんだから。


 本音では守ってほしい。

 それがダメなら一緒に戦いたい。


 そんなことを思っていた。




『さらにひとり仲間が増えました! カナタです』

『この3人でダンジョン攻略していきます!』



 ──は?


 配信画面に映る3人。


 顔を隠し、少し体型が変わるアイテムを身に着けているけど私にはわかる。


 れん君と枢木くるるぎ君、沙霧さぎりさん。

 沙霧さんは男装してる女の子。


 あれで隠せてるつもりなのかな?


 まぁ、それはいいや。

 問題は私だけ除け者にされたってこと。


 え、普通に悲しいんですけど……。

 なんで私だけ誘ってくれないの?

 

 私、蓮君たちに嫌われることしちゃったのかな?

 

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