第28話
「君ら、いったいなにを考えてるんすか?」
颯と新宿のダンジョンで暴れた翌日、富嶽学園の講義棟入り口で会った沙霧 奏多に開口一番でそんなことを言われた。
「ん? なんのこと?」
「変身の仮面で顔を隠して少し体型変えたくらいで、バレないとでも思ってるんすか。普通にレンとハヤテって呼びあってるし。君ら、馬鹿なんすか」
なんか配信してたのがバレてたみたい。
まぁ、身近な人にはバレても別にいいかなーって思ってた。そもそも俺らはちゃんと攻略者のライセンスを使ってダンジョンに入っている。咎められる謂われはない。
富嶽学園を抜け出しているわけだが、これも深夜外出を禁止する規則などはない。俺たち、大学生だからな。講義時間以外で何かあっても自己責任。
じゃあなんで顔を隠してるかって言うと、その方がミステリアスでカッコいいって思ったから。忍者の時の名残で、隠れなきゃって思っちゃう本能を少し和らげる効果もあるが、やはりメインは俺がカッコいいって考えているからだ。
「あー、バレちゃったかぁ」
「……あんまり深刻に考えてなさそうっすね」
「本気で隠そうとしてなかったからな」
バレたくないなら攻略者名を本名と同じにしたりしない。
「蓮、沙霧君、おっはよー!」
ちょうど颯も講義棟に来た。
「おはよ、颯」
「おはよっす。なんかふたり、いつの間にか名前で呼び合うようになったんすね」
「まぁ、ちょっと色々あってね」
「そのことなんだけどさ。沙霧さんに昨日の配信のことがバレた」
「……まじ? まぁ、本名で呼びあってたから大丈夫かな? って思ってはいた」
「最悪バレても良いとか思ってるなら、なんで講義では本気で戦わないんすか?」
「俺は本気で戦ってるよ。でも昨日は蓮に戦いのコツを教えてもらったから、いつもよりちょっと強くなれた気がするけど」
「いや、風魔君の方っす」
「俺? だって俺、ポーターじゃん」
「だからぁ! それだけの実力があって、なんでポーターやれって言われて大人しくしてるのか聞いてるんすよ」
あぁ、そういうこと。
「なんか俺さ、北条さんがそばにいると本気になれないっていうか……。彼女以上に目立っちゃいけないって思っちゃうんだよ」
「へぇ。それは彼女がS級攻略者でティアワンだから?」
「んー、そういうのとはちょっと違うかも」
「風魔君本人も良く分かってないんすか」
「なんでだと思う? もしその原因が分かって対処できれば、俺は本気で戦える。みんなでダンジョンに入る時も戦力になれるよ」
「そりゃいい。戦闘員3人で戦うのは正直キツイって思ってたんだよ。不知火先生の感じだと、来月とかにはS級ダンジョン攻略してこいって言いそうだし」
流石にあの先生でもポーター含めて4人で、しかもまだ学生の俺たちにS級ダンジョン攻略しろなんて課題を出さないんじゃないかな。
「そういうことなら、とりあえず俺も一緒に考えてやるっす」
「ありがと。まだ1限の講義まで時間あるし、2階のカフェで少し話そう」
「おっけー。そーしよー!」
俺たちは講義棟の2階にあるカフェまできた。
各自ドリンクを買って、半個室みたいな席に座る。
「さて。議題はなぜ俺が北条さんの前で本気を出せないか、についてです」
「戦えない感じなの? 力が抜けるとか?」
「なんか力をセーブしちゃう感じ」
「北条さんに脅されてるってことはないっすよね?」
「ないない」
「過去に彼女の前で目立とうとして、ファンの人にめっちゃ叩かれて、それがトラウマになってるとか」
「それもないな。俺、この学園に入るまで北条さんに会ったことないし」
マジでなんでだろう。
本気で気になる。
「北条さんと、風魔……。あっ」
沙霧さんが何か思いついたようだ。
「北条さんも本物、って可能性はないっすかね?」
「本物?」
「風魔っていうのは、戦国時代に北条という氏族に仕えた忍びの一族なんすよ」
「えっ。じゃ、じゃあ北条さんがその血族で、俺の主君ってこと?」
「そうっす。だから主君たる北条さんの前で、風魔君は彼女以上に目立つ行動が出来ないんすよ」
「まてまてまて。ありえない。そもそも蓮が本物の忍者なわけねーだろ」
「なんで? 俺、忍者だよ?」
「……えっ」
「風魔の里は滅びたけど、俺は最後の当主から免許皆伝を受けてる。正真正銘、忍者の末裔です」
身体の前で印を結んで『ニンニン』って言ってみる。
「それやめろ。本気なのかどうかが判断できなくなる」
「ごめん」
真顔で怒られた。颯、怖い。
「蓮が強いのは忍者だからってこと?」
「そう」
「なんで沙霧君はそれを知ってたの?」
「え、えっと……。う、動きっすよ! なんか配信で、レンの動きが忍者っぽいなーって思ってたっす。そんで風魔の忍びといえばって考えて、北条氏のことを思い出したという流れっす」
「ふーん」
沙霧さんは男装してる忍者だ。俺はそれを知ってるけど、彼女はまだ俺にバレてないと思ってるみたい。今回もカミングアウトするつもりはないらしい。
いつか沙霧さんも、こっち側に引き込んでやりたいな。
脳内では沙霧さんと呼び、口に出すのは沙霧君。
これがめんどくさいから。
さっさと女子の恰好をさせたい。
ていうか脳がバグるんだよ。男の恰好と口調なのに、その辺の女子より可愛い顔してるんだから。
「と、とにかく可能性が見えてきたっすね」
「だからってどうしようもないんじゃね? 北条さんに、本当に北条氏の血筋なんですかって聞くか? そうだって回答をもらったとしても、蓮が本気で戦えないんじゃ意味がないだろ」
そう。どうしようもない。
でも気にはなる。
「あ、そろそろ講義はじまる。行かなきゃ」
「また今度、この話しの続きをしよ」
「お、俺も参加っすか?」
「あたりまえだろ」
そんな会話をしながら俺たちは講義室へ向かった。
──***──
その日の23時頃。
俺は富嶽学園の管理棟に忍び込んでいた。
北条さんが本当に血族なのか、俺の主君なのかどうしても気になってしまった。
我慢できず、俺はここにいる。
ただ我慢できなかったのは、俺だけじゃないようだ。
「やっほー。こんなところで何してるのかな、沙霧さん」
「──っ!!?」
金庫の電子ロックを開けようとしていた沙霧さんに声をかけたら、大きく身体を跳ねさせ驚いた表情で振り返った。
「ふ、風魔くん? なんでここにいるっすか」
「たぶん沙霧さんと同じ」
「でもここ、セキュリティがかなり厳重で」
「朝のとき言ったじゃん。俺、忍者だって。この程度なんでもないよ」
「なんでもないって、それは嘘っす。だって──」
そこまで言って彼女は言葉に詰まった。
「沙霧一族は諜報活動に長けた霧隠の系譜だよね。その沙霧が作った施設だから、侵入は容易じゃないって言いたいのかな」
「……俺が忍者だって、知ってたんすか」
「男装してることも知ってるよ。君、くのいちでしょ」
「えっ!?」
「ちょっと前に追いかけっこしたじゃん。その時に声を聞いたし、身体に触れたんだから君のことは何でも分かる」
「──ちょっ! 黙れっす!!」
沙霧さんが怒って俺に掴みかかってくる。
それを軽く躱して距離を取る。
「あははっ。君じゃ俺に勝てないよ」
「くっ。で、でもここは沙霧一族が治める学園っす。俺が呼べば、何人もの上忍が」
「本気で俺とやる?」
「ひっ!?」
ちょっと殺気を出して脅したら、沙霧さんはその場に座り込んでしまった。
「ごめんて。でも先に俺を脅そうとしたのはそっちだぞ」
「…………」
彼女は目に涙を浮かべ、無言で俺を睨んでくる。
さて、どうしたもんか。
──***──
次の日の夜。
「こんばんはー! レンです。ダンジョン攻略やっていきまーす」
昨日と同じように俺は颯とダンジョンに来ていた。昨日と違うのは──
「今日はさらにひとり仲間が増えました! カナタです」
「か、カナタっす。よろしく」
交渉の結果、俺は沙霧 奏多を仲間に引き込むことに成功した。
あと翠様は北条氏の血族だった。




