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忍者の末裔は忍ばない  作者: 木塚 麻弥
第2章 富嶽学園

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第26話

 

「さっそくだけど、今日から修行をはじめよう」


「はい、師匠」


 颯は蓮が普通でないことを理解した。ダンジョン適性が自分よりかなり低いことなど気にしない。この場では己を強くしてくれる師匠として敬意を示す。


 ちなみに颯は、蓮が()()()()()()()であると考えている。しかし忍びの技を極めた蓮は、ダンジョン産の装備に頼らずとも危険度S級のモンスターを瞬殺できる人外の領域に足を踏み入れた存在。


 蓮に認められる彼も、いずれ人外となる可能性を秘めているのだが⋯⋯。颯にその自覚はない。


「まずは移動術から始める」


「移動? なんか地味じゃない?」


「あまい。移動術を舐めるな。ダンジョン入ったら、攻略者は何をする?」


「何って……。モンスターと戦ったり、レアアイテム探したり」


「違う。モンスターと戦うにも、アイテム探すにも、まずその場所まで歩いて行くだろ。入ってすぐにモンスターが際限なく寄ってくるダンジョンなんて滅多にない」


「た、たしかに」


「攻略者はダンジョン内でほとんどの時間を移動に費やすんだ。この移動の効率を良くできれば体力を温存できる。常に襲撃を警戒した歩き方ができていれば、いきなりモンスターに襲われても反撃できる」


「歩き方って大事なんだ。あんまり考えてなかった」


「ほとんどの攻略者さんがそうだよ。たまにポーターしてる人の方が良い歩き方してたりする」


「それはなんで?」


「ポーターは大きくて重たい荷物を持って移動するのが基本だから、その人たち向けにダンジョン管理局が歩法の講習会を開いてくれてる。ダンジョン攻略者も参加できるけど、さっきの颯みたいに移動術を舐めちゃうからほとんど来ない」


「うっ。移動術を地味って言って、ごめんなさい」


「わかればよろしい──って、言いたいところだけど、まだ颯は心のどこかで移動術をガチで修得しようとしてない」


「いや。そんなことは、なくも、ないかも」


「そんな颯がガチで修業したくなるように、歩法(ほほう)極致(きょくち)を見せてあげよう」


「歩法の極致?」


 その時、颯の目には蓮の姿が揺らいで見えた。


 不思議に感じた彼は無意識ながらまばたきをして、良く蓮を見ようとした。


「あ、あれ?」


「こっちだよ」


 いつの間にか蓮が颯の背後にいた。


「……もしかして、今のが歩法の極致ってやつ?」


「そう」


「やっぱり地味じゃねーか!」


 颯は多くのダンジョン配信を見てきた。S級の攻略者がスキルやアイテムを使い、ド派手なエフェクトとともに超高速移動するのをかっこいいと思いながら見ていた。


 だから音もなく移動した蓮を凄いとは思えない。


「なんだよ、瞬きしてる間に移動するだけって」


「ば、馬鹿やろう。ただ移動しただけじゃねぇよ。ほとんど音も衝撃も出さずに高速移動したんだ。十分すごいだろ」


 音を立てずにターゲットに接近することを至上の命題とする忍びにとって、蓮の歩法はまさしく神業であった。


 人の瞬きは0.2秒程度だ。その間に視界から消え、背後に回り込むために約6メートルの距離を移動する。この時の速度は時速100キロメートルを超えていた。


 速度だけでなく、最大速度まで加速する時間も重要だ。最初の1歩でほぼトップスピードに上げるには地面を強く踏み込む必要がある。ただそれでは大きな音が鳴ってしまい、人目を忍べない。


 そこで蓮は地面を踏み込まずに加速している。上忍や里長クラスの忍びでも容易には成し遂げられない神業である。


 ただし、その凄さが颯には伝わらない。

 

「歩法の極致って言うから期待したのに……」


「マジかよ。あれで凄いって思ってくれないのか」


「申し訳ないけど思えないな。ダンジョンを攻略する時、ただ速かったり強ければ良いってわけじゃない。モンスターを倒す様子が配信されて、見てる人たちを楽しませるエンタメにしなきゃいけない。だからどう倒すかも大事になるんじゃないかな。レンの配信、すげーことをやってる割に盛り上がってなかっただろ?」


「えっ? 何百件もコメント来てたのに、アレで盛り上がってない判定なの?」


「蓮はあんまり配信見てなかった?」


「金がなくて、特別指定でずっとポーターやってた」


「そうか。トップレベルの攻略者が配信する時って、1時間で数万件とかのコメント書き込まれるんだ」


「す、数万? そんなんコメント読めないじゃん」


「ライブ会場で数万人の観客がアイドルを囲んで盛り上がってるのをイメージしてくれ。みんな声を張り上げるけど、その声にアイドルが反応してくれることはほとんどない。反応してくれても、実際誰に反応したのは確かじゃない。でもダンジョン配信なら、配信者がたまにコメントを拾い上げてくれる。数万件の書き込みがあるのに自分の書き込みが読まれた時の、なんともいえない愉悦。推しに認知されたっていう満足感が、ダンジョン配信の醍醐味なんだよ。みんなその『コメントを読んでもらえるかもしれない』って淡い期待で配信を見に行く。視聴者同士の交流とか、雰囲気が好きって人もいるけどな」


 颯が早口で説明する。

 彼はダンジョン配信オタクだった。


「蓮、お前は凄い力を持ってる。でもそれを活かせていない──と、俺は思う」


「えぇ……。そうなの? コメントは少なかったかもしれないけど、初配信で3千人とか見に来てくれたんだよ」


「あまい! 深淵を舐めるな。ティアワンの最強攻略者がドリームチームを組んでも突破できなかった第1階層に、お前はソロ凸してクリアした。その偉業が同接3千なんて少なすぎる」


 颯が蓮の肩をガシっと掴んだ。


「お前はあのダンジョン配信解説インフルエンサー、ハルヒコさんに認知されてる。それどころか、かなり気に入られてる。彼の拡散力を活かせ! ただそれをするには、もっと視聴者にウケる敵の倒し方をしろ」


「すれ違い際に首を落とすのじゃダメ?」


「アレはアレでかっこよかった。俺は10回も見返した」


「マジかよ。ならお前も俺のファンじゃん」


「かっこよかったけど、同時にすげー勿体ないとも思った。あれだけの実力があるなら、もっとモンスターの倒し方に緩急をつければ配信はさらに盛り上がる。お前はもっとバズれるポテンシャルを秘めてるんだ」


「えっと……。どうすればいいかな?」


「俺に任せてくれ。実際に武器をどう扱うとかは詳しくないけど、攻略者がどんな倒し方をすれば視聴者が盛り上がるのか俺は知ってる。今の蓮はまるで忍者みたいだ。音もなく、高速移動時に衝撃波も出さない。でも俺らは一挙一動を配信で晒されるダンジョン攻略者なんだよ。闇に生きる暗殺者じゃない。目立ってなんぼ。だからもう忍ぶな、蓮」


 蓮に強い衝撃が走る。


「お、俺、忍んでたのか……。忍ぶのを、止めようって思ってたのに」


「もしかして今晩もこっそり学園抜け出してダンジョンに行ったりする?」


 颯は蓮が深淵ダンジョンに挑戦した時の配信を見ていた。蓮がレンであるなら、学園を抜け出して行ったのだと考えた。


「うん。深淵じゃないけど、近場のダンジョンで無双してやろうかなって」


「わかった。俺もそれに同行する。さっそくだけど、今日から配信でバズるための修行をはじめよう」


「は、はい! 師匠! よろしくお願いします!!」


 いつの間にか立場が逆転していた。

 

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