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忍者の末裔は忍ばない  作者: 木塚 麻弥
第2章 富嶽学園

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第24話 枢木 颯

 

 俺は枢木(くるるぎ) (はやて)、真面目が取り柄の一般人だ。


 たまたまダンジョン適性ってのが高くて、世界的にも有名なダンジョン攻略者育成機関である富嶽学園に推薦をもらって入学することが出来た。

 

 富嶽学園への入学が決まって、両親は大いに喜んでくれた。高校の担任もクラスメイトたちも、みんなが祝福してくれた。


 俺はこの学園で学べることを誇りに思った。将来は立派なダンジョン攻略者になってやろうと大志を抱いていた。


 実際に富嶽学園で特進Sクラスの授業が始まるまでは……。


 

 俺は自分の選択を後悔している。


 まず俺のダンジョン適性は88%という数値だ。地元の高校には適性率40%を超える人もほとんどいなかったから『俺って最強なんじゃね?』って思いこんでしまう原因になった。


 でも特進Sクラスでは、ただひとりを除いて俺の適性率が最低値だった。


 もうそれだけで心が折れそうになる。少なくとも自分が最強だっていうのは勘違いだったって、入学初日に思い知らされた。


 ちなみに俺よりダンジョン適性が低いのは風魔(ふうま) (れん)ってやつ。彼は適性率が11%だった。そんなんでよくこの富嶽学園に来れたなって最初は思ったけど……。それも俺の勘違いだった。蓮は普通の男じゃなかったんだ。


 もともと特別指定を受けて、未成年でありながらポーターとしてダンジョン攻略に同行していたらしい。適性率が10%程度しかないのに、中学を卒業してからずっとダンジョンに入って、死ぬかもしれないバイトをしてきたってヤバすぎるだろ。


 俺とは経験値が圧倒的に違った。


 蓮は凶悪なモンスターを前にしても全く動じない。重くて、サイズも大きく邪魔で動きにくい荷物を背負わされ、両手には武器ではなく、俺たちをサポートするためのアイテムを持つ。そんなんじゃ、いざという時に戦えない。


 ダンジョン適性の高い攻略者の方が貴重なので、ポーターは緊急時に攻略者が逃げる時間を稼ぐための囮にされるのが役割らしい。そういう理由は頭では理解できる。


 実際にポーターとパーティーを組むまで深く考えてこなかった。今はこの仕組みを考えた奴が正気なのか疑ってしまう。ろくな武器も持たされず、代わりに重い荷物を持たされ、囮にされる可能性も半ば強制的に同意させられる。


 俺だったら絶対にやろうとしない。適性が低いなら、無理してダンジョンで一攫千金なんて狙おうとしない。だって死ぬかもしれないんだから。


 昨日、B級ダンジョンではじめてリアルなモンスターと対峙してそれを痛感した。


 配信画面を通して見るやつじゃなく、現実で対峙するモンスターはマジで怖い。なんで北条さんや沙霧君がアレに平然と立ち向かえるか意味が分からんかった。


 蓮も十分に異質だった。ダンジョン内を進む時、彼が怯えた表情を見せることは一度もなかった。


 俺だけなんだ。

 あのパーティーで、俺だけが一般人だ。


 みんなとB級ダンジョンに挑んだ時は精一杯強がって見せた。パーティーリーダーの北条さんにやれって言われたから、何体も人型のモンスターを切り伏せた。


 あれはマジできつかった。


 なんで不知火先生は、俺を北条さんたちのパーティーに組み込んだんだろう?


 その理由は説明してもらった。でもそれがただのこじつけのように思えてしまう。本当の理由を知りたい。そして僅かにだけど不知火先生を恨んでしまう。


 こんな考えを持ってしまった自分が嫌になり、この学園に来るという当時の選択を後悔している。


「クソ……。こんなはずじゃなかったのにな」


 気分が沈む。


 まだ入学して3日目だけど、自主退学も考え始めていた。



 ピーンポーン


 寮の呼び鈴が鳴り響く。


「枢木くーん、いるー? 夕飯食いにいかなーい?」


 蓮の声がした。

 彼は寮で隣の部屋になった。


 気分は乗らない。

 でも俺はドアを開けた。


 真面目な生徒を演じてるからだ。

 クラスメイトとの交遊も怠らない。


「やあ、蓮。お誘いありがと」


「大丈夫? 顔色悪いけど」


「昨日のダンジョン攻略とか色々思い返してたら、ちょっと」


「あー。はじめてのリアルモンスター討伐だったもんね。大人の攻略者さんたちでも初回はグロッキーになっちゃう人いるから。気分悪いなら今日は止めとこうか」


「いや。気分転換に外へ行きたい。蓮の話しも聞きたい」


「そっか。じゃあ行こう! どこにする? せっかくだから高そうな飯屋がいいな」


「俺はそんなに金持ってないぞ。この前ダンジョン攻略した時の素材とかはまだ売れてないし」


「えっ。俺ら特進Sクラスって、この学園内での飲食とか無料なんじゃ」


「…………は?」


 なんだそれ。

 そんな制度は知らないぞ。


 昨日も一昨日も、俺は自腹で飯を食べた。


「とりあえず飯屋に行こう。蓮の言うことがホントなのか確認したい」


「お、おう」


 

 一昨日夕飯を買ったバーガーショップに来た。


「まじか。ほんとにお前、無料で飯が食えるのか」


 蓮が学生証を店員さんに見せると、それだけで支払いが終わったんだ。


 こいつ、何者なんだよ。


 ダンジョン適性88%の俺以上に優遇されてる。てことは蓮には俺以上の《《なにか》》があるに違いない。


「まぁ、俺は一般人だし。しゃーないか」


 思わず自嘲してしまった。


「B級ダンジョンのモンスターを大剣で一刀両断する男を世間的には一般人って言わないと思うけど」


「それでも北条さんや沙霧君には全く勝てそうにない。昨日のダンジョンだって、実はめっちゃ怖くて膝がガクガクしてたんだよ。なのにダンジョン適性11%の蓮は平然としてるし……。やっぱり俺は」


「てかさ、なんで枢木君は俺のこと蓮って呼んでくれるの? 沙霧君は苗字なのに」


 話を逸らされた。

 でも確かにそうだな。


「あれ、なんでだろ。ごめん、特に意識してなかった」


 ポーターだから下に見てるとかではない。

 本当になんとなく、そう呼んでしまう。


「これからは気を付けて風魔君って呼ぶ」


「いや、変えなくて良いよ。その代わり俺も(はやて)って呼び捨てでOK?」


「うん、OK」


 なんだこれ。

 なんか友だちみたいじゃん。


 いつか俺は、蓮を囮にして逃げるかもしれないのに。


「なんか暗いこと考えてる? いつかダンジョンで、俺を置いて逃げるかもとか」


「……鋭いな」


「気にしなくて良いよ。それがポーターの役目だし」


「なんでそんな風に割り切れるんだよ。蓮は死ぬのが怖くないの?」


「俺だって死ぬのは嫌だよ。だからめっちゃ努力した。俺は置いて行かれても、簡単には死なない」


「適性率が10%程度なのに?」


「適性率が低いから地力を伸ばさなきゃいけないんだろ。ダンジョンの装備やアイテムに頼らなくても生き延びられるよう色々やってきたんだよ」


 あぁ、そうか。

 だから蓮はダンジョンで堂々としてられるんだ。


 努力した自負があるから。

 自分の力に自信があるから。


 きっと北条さんや沙霧君もそうなんだろう。


 俺みたいに大した努力もせず、たまたま高い適性が出ただけのやつとは違う。


 今のままじゃダメだ。

 俺だって──



「蓮、明日の放課後って暇?」


「特に予定はないかな」


「ダンジョン攻略の訓練に付き合ってほしい」


「おっ、やる気だね。いいよ。ダンジョン攻略に3年くらい同行し続けた俺が、先輩として指導してあげましょう。学園じゃきっと教えてくれない、ダーティなことも」


 それって、違法じゃないよな?


「ありがとう。報酬は何がいい? 飯を奢るとかは、蓮には意味がないな」


「ポーターとして同行する攻略者が強くなれば俺も楽ができるから、颯が強くなってくれることが一番の報酬だな。その代わり俺の修行は厳しいぞ」


「あははっ。どうかお手柔らかにお願いしますよ、蓮師匠」


 修行って、なんか漫画で読んだ忍者みたいだな。

 

 ダンジョン適性88%の俺が11%の蓮に教えを乞うなんて、知った人に笑われるかもしれない。でも俺は蓮がただのポーターじゃないって思ってる。いつでも周囲を良く見ているし、どんな状況でも体幹がブレない。ちゃんと戦えば強いんだろう。


 蓮の修行がどんなものか、俺は少しワクワクしていた。



 ──この時の俺はまだ知らなかったんだ。

 

 風魔 蓮が、()()だってことを。


 彼の修行を真面目にこなした結果、ただの一般人だった俺が水の上を走り、モンスターを手刀で両断出来るようになるなんて、この時は思ってもいなかった。

 

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