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忍者の末裔は忍ばない  作者: 木塚 麻弥
第2章 富嶽学園

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第22話

 

「楽しかったなぁ……」


 昨晩の出来事を思い出し、思わず声が漏れる。


 俺は深淵アビスダンジョンの第1階層を踏破した。日本の攻略者だけじゃなく、海外から派遣された最強クラスのダンジョン攻略者パーティーですらできなかった偉業を成し遂げたんだ。


 惜しみなく忍びの力を使うのは気持ち良かった。


 鍛え抜いた技で無双するのは爽快だった。


 深夜だったから配信の視聴者数は最終的に3千人くらいだったけど、翌朝SNSで話題になって配信のアーカイブはかなり再生数が伸びている。まだ有料配信者にはなれていないが、俺の配信ブースへの登録者数も順当に増えている。これなら近いうちに収益化もできるようになるだろう。


 そう考えると勝手に口角が上がってしまう。


 また時間を見つけて……。そうだな、もうポーターのバイトしてないんだから、土日に深淵へ行けばいいんだ。俺ならきっと深淵を完全制覇できる。そして深淵以外の未踏破ダンジョンもどんどん攻略していくつもり。


 いずれ日本で──いや、世界で最も有名なダンジョン攻略者になってやろう。


 ……そういう志はあるのだけど。 



風魔(ふうま)君! 魔力回復薬を!」


「御意」


 (すい)様の指示に従い、魔力回復薬を投げて渡す。


 少なくともあと10年は誰も突破できないだろうと言われていた深淵ダンジョンの第1階層をソロで突破してみせたダンジョン攻略者『レン』はその翌日、ポーターの風魔(ふうま) (れん)として富嶽学園のクラスメイトたちとB級ダンジョンに来ていた。


「これで、終わりだっ!!」


 枢木(くるるぎ) 君が大剣でモンスターを頭部から両断した。


 ミノタウロスという人型モンスターが光となって消えていく。


「枢木君、ナイスです!」

「いい仕事するっすね」

「ははっ。どういたしまして」


 北条(ほうじょう) (すい)様、沙霧(さぎり) 奏多(かなた)さん、枢木(くるるぎ) (はやて)君。俺はこの3人の専属ポーターとなった。


 ダンジョン適性が11%しかないので、そうならざるを得なかった。


 昨晩の無双が気持ち良すぎたせいで、今の状況が非常にもどかしい。


 俺ならもっとスマートに敵を仕留められた。翠様に魔法を使わせることすらなく、ミノタウロスを一瞬で無力化できるんだ。


 それが出来ない。

 忍ぶのを止める前と同じになってる。


 くそぅ……。

 こんなはずではっ!


 本来であれば枢木君の立ち位置で、翠様と沙霧さんに囲まれてるのは俺のはずだったのに! そこは、俺のポジションだぞ!!


「風魔君」


「は、はい!」


「お疲れ様。今回もスムーズに回復薬など渡してくれて助かりました」


 翠様が微笑みかけてくれる。

 それだけで心のモヤモヤが晴れていく。


 なんだか良く分からないが、彼女が俺にポーターとしての役割を求めるのであれば、俺は誠心誠意それを演じ続けよう。


「これからも北条さんたちの攻略を、全力でサポートします!」


「うん、よろしくね」



 ──***──


 ダンジョンから富嶽学園に戻り、俺たちは汗や土埃で汚れた装備から着替えるために更衣室へ向かっている。


「ふぅ。今回は俺も防御だけじゃなく、攻撃で良いとこ見せられたな」


「凄い威力だったっすね」


「いいなぁ、ふたりは。俺も攻撃に参加したい」


 枢木君だけじゃなく、男装してる沙霧さんも男子更衣室へ。


「ダンジョン適性11%がなにを言ってんだか」


「そんなんでよくこの学園に来れたっすね」


「なんか推薦されたんだよ。特別指定でポーターしてたってのもあるし」


「前も聞いたけど、蓮は漆黒のキマイラを瞬殺したあのポーターじゃないんだよな」


「違うよ」


 違うってことにしてる。

 なんとなくね。


「じゃあ大人しくポーターしてろって。もしこのまま北条さんに相性が良いって思ってもらえたら、アークナイツに入れてもらえるかもしれないだろ」


「100人の大所帯だもんな。ポーターで入れてもらうって希望もあるのか」


 誘われても入るつもりはない。

 俺は目立ちたいんだ。


 でも翠様に『入って』ってお願いされたら断れないかも。


「確かに、S級のクランに入れたら安泰っすね」


 沙霧(さぎり) 奏多(かなた)が上半身の装備に手をかけた。


 その瞬間、俺は彼女にバレないように全力で知覚範囲を拡げる。


 彼女は忍びであることを隠し、男装して俺たちのそばにいる。そして違和感を持たれないようにするためか、こうして一緒の更衣室で着替えるんだ。


 それはつまり、堂々と女子の着替えを覗くチャンスであるということ。


 もちろんそれがバレてはいけない。

 バレれば変態扱いされてしまう。


 もう同じタイミングで着替えなくなってしまうかもしれない。


 ただし覗かないという選択肢はない。

 こちとら健全な男子大学生なんだ。


 極限まで神経を研ぎ澄ませる。

 しかし外面は平静を装う。


 俺は昨晩、深淵のダンジョンで複数のS級モンスターを相手に戦っていた時以上に集中していた。



 ──きたっ!


 沙霧さんは空蝉(うつせみ)を応用した超高速着替え術を使った。周囲にいる人の意識が外れたタイミングで一瞬にして着替える技だ。


 一般人であれば『あれ? もう着替えたの?』となるだろう。


 しかし俺は厳しい訓練を乗り越えた忍びだ。むしろこのために動体視力を鍛えてきたと言っても良いかもしれない。


 さすがに全貌を見ることは叶わなかったが、僅かに胸のふくらみを確認することができた。脇もちょっと見えた。非常にエッッッである。


 何より真横で女子が着替えているというシチュエーションが最高だ。


 超高速で眼球を動かしたので疲れた。

 ちょっと痛い。


 しかしその痛みの甲斐はあった。

 目の保養になる。


 今日も良いものを拝ませていただきました。


 願わくは沙霧さんが、これからも男装がバレてないと思い続けて、俺らと一緒に着替えてくれますよーに!!

 

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